中西享(経済ジャーナリスト)

東日本大震災以降、原子力発電所が1基も稼働しなくなるなど、日本のエネルギー事情が厳しくなる中で、2030年に向けての望ましい電源構成案(エネルギーミックス)をまとめた坂根正弘・総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会委員長(コマツ相談役)にインタビューし、日本の取るべき立場を聞いた。

総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会委員長の坂根正弘・コマツ相談役
Q:エネルギーミックスをまとめるに当たっての基本的な考え方は

A:3・11の東日本大震災以降、エネルギー情勢が一層窮屈になってきた。電源構成となる原子力発電のランニングコストは低いが、事故が起きた場合には社会的ダメージは大きな費用が発生する。再生エネルギーの風力はまさに風任せ、太陽光は日中しか発電できない。水力や地熱は発電までに10年以上の年月が掛かることもあり、バイオマスは小規模なものは地元で原料を賄えるが、大きくなると燃料を輸入しなければならない。化石燃料はCO2を多く出すなど、それぞれ一長一短がある。結局、これを、安全性(S)と三つのE(安定供給、経済効率性、環境適合)の「S+3E」の視点で、いかにバランスをとることでしか答えが出せない。その前提となる経済成長率は政府目標の年率1.7%にすることにした。エネルギーミックスは3年に1回は検討を加えることになっているから、成長率が変わればその時に見直せばよい。

Q:電力コストが上がることが心配されている。コストについてどのような議論があったのか

A:電源構成のバランスからみて、原発はどれくらい必要かという中で20~22%という数字になった。いまある原発に原発の寿命が40年という説を踏襲すればよいという考えの人がいるが、そうすると原発比率は15%程度にしかならず、足りない。これを再生エネルギーで埋めようとすると、1%当たり年間2180億円余分にかかるので合計で1兆数千億円の負担増になる。CO2は増やしたくないので、一番の「逃げ道」はコストになる。委員の中には「コストはいくら掛かってもよい」という人がいるが、これ以上、電力コストが上がったら国民の省エネ意欲がそがれる。省エネについてはエネルギーミックスの外数として、70年代の石油危機の後と同じレベルのチャレンジングな目標を前提にしている。最も大事な省エネが進まなくなると、CO2が増えてコストも上がるという最悪のパターンになる恐れがある。
【図1】2013年度と30年度の電力コストの比較 (出所)資源エネルギー庁
 大震災以降、家庭用電力料金は2割上がり、産業用はドイツと並んで一番高くなり、産業界から悲鳴が上がっている。電力コストが過度に高くなれば、海外に工場を作った方がいいとなって、国内の設備投資意欲をそぐ。そうすると、省エネ技術も進歩しない。電力コストは省エネと密接に絡んでいるので、少なくとも現状以上の電力コストアップは抑えたい。

Q:日本は既にかなり省エネをやってきたが、さらなる省エネは可能か

A:コマツの石川県にある工場は、電力7割減、生産効率2割向上で、電力購入費を生産量当たり9割減らすことができた。40年以上たった古い工場でも問題ないと考えていたが、東日本大震災の後に見直したら、工場を一から建て直した方がはるかにいいことが分かった。省エネは国全体でもまだまだできる余地がある。そのためには白紙からの省エネ投資をさせる気持ちにさせなければならない。この時に電力コストをこれ以上上げたら省エネの意欲が起こらなくなると私が言ったら、「再生エネルギーもあるし国民は電力コスト上昇を受け入れますよ」という意見があった。ではドイツの例を見てほしい。ドイツ国民は再生エネルギーの利用を促進するために、最初は電力料金の値上げを受け入れたが、料金が高くなりすぎたため、料金値上げに大反対が起きている。日本では一般国民よりも産業界の方が問題で、委員の方に「電力コストは逃げられない問題だ」と理解してもらうのが難儀だった。

Q:原発のコストをどうみるか

A:福島原発のような事故は二度と起こしてはならないし、もう一度起こると、それこそコスト比較の問題ではなくなる。原発は一度事故が起きるとものすごく大きなお金がかかるので、「原発は安くない」と言う人もいるが、この一時コストを含めて発電する電力量当たりのコストはそれほど大きくはない。心理的には高くつくように思えるが、単純に数字の比較だけなら再生エネルギーを増やす方が高くつく。いま再生エネルギー買い取り制度(FIT)で認められているものだけでも、すべて実行されると1年で3兆円近い出費になる。

Q:原発の「安全神話」が蘇ろうとしているが

A:原発を再稼働させるときに、「100%安全」でないと地元住民は納得しないという人もいるが、どれだけ安全でも「絶対安全」はあり得ない。「絶対安全」という「安全神話」が蘇ってきているのはおかしい。日本では100%かゼロかという議論が多過ぎる。現時点で最良のものを選択し、より良い技術が出てきたら改良するからリスクをとって稼働する、という考え方がないと、これからも新しい技術や知恵が出ても、今のもので安全といったではないかとなってしまう。

Q:ドイツが再生エネルギーで成功したといわれているが

A:ドイツは現在9基の原発を動かしているが、2022~23年を脱原発の期限にしている。ドイツは再生エネルギーで成功したといわれているが、マジックがある。北部では風力発電などを盛んにしているが、一方で自動車など電気を多く使う産業は南部に集積している。北部で発電した電気を4つの送電網で南部に送ろうとしたが、送電ルートになる周辺住民の反対でひとつもできてない。このため、どうなっているかといえば、北部で発電した電力を隣国チェコに売り、代わりにチェコがCO2の多く出る石炭火力や原発で発電した安い電気を南部の工業地帯に送っている。ドイツは見た目は再生エネルギーを多く利用してCO2排出量を抑えているように見えるが、実際にはチェコが代わりに排出している面もある。ドイツの再生エネルギー政策は形骸化しているが、なお再生エネルギーを増やそうとするのは、そうしないと選挙に勝てないからだとも言われている。
【図2】電力構成(総発電電力量12780億kwh)
【図3】電力構成(総発電電力量10650億kwh)
(出所)資源エネルギー庁