百地章(日本大学教授)

 先日、読売テレビの「そこまで言って委員会NP」に出演する機会があった(放映は8月9日)。「保守論客からの緊急提言! チーム櫻井の『大日本大改造計画』」という総合テーマのもと、順に「中国海洋進出阻止計画」「エネルギー安定供給計画」「『修身』の教科書復活計画」と発表され、4番目が筆者に割りあてられた「憲法改正計画」であった。

 バラエティ番組とはいえ、東京および関東一円を除く全国ネットで放映されており、多くの視聴者が見ているはずである(視聴率は13%で、当日のトップだったという)。この1~2年のうちに憲法改正を実現することが可能なことを広く訴える絶好のチャンスであり、あだや疎かにはできない。また、スタジオでは、作家の金美齢氏や東京新聞の長谷川幸洋氏、立命館大学客員教授の宮家邦彦氏など錚々たるメンバーが、「実現可能」か「実現不可能」かジャッジを行う訳だから、その点でも結構緊張する。

 取り上げたテーマは、「緊急事態条項」であったが、判定は6対1で「実現可能」となった。それまでは4対3とか5対2とかいった判定が続いており、高得点を得たことになる。

 そこで、これまで以上に自信を持って(?)、憲法改正は「緊急事態条項」によって「一点突破」を図るべしとの主張を、簡略に紹介しようと思う。

現行憲法の最大の欠陥は「緊急事態条項」の欠如


 GHQの占領下で制定された現行憲法には、様々な欠陥がみられる。その最大の欠陥は、大規模テロや大規模自然災害といった国家的な緊急事態に対する備えがないことである。大規模テロについていえば、先頃、首相官邸の屋上で小型無人機「ドローン」が発見されたことがあった。幸い、大事には至なかったが、容疑者はブログの中で、原発の再稼働阻止のためテロも辞さないと書き込んでいたという。もし大量のサリンでも撒かれていたら、大変なことになるところであった。

 また、いわゆるイスラム国での日本人人質事件をきっかけに、イスラム国は日本におけるテロまで予告してきた。自衛隊法には対テロ対策のため「警護出動」が認められている。ただ、「警護出動」の対象は自衛隊施設と米軍基地に限られているから(81条の2第1項)、万一、原発や新幹線、さらに皇居や官邸がテロに狙われたらどうなるか。

 したがって、早急に取り組まなければならないのは、自衛隊法の「警護活動」の対象を拡大しその中に原発や国の重要施設を加えることであろう。しかし、自衛隊法の中に警護活動の対象を次々書き加えるのは大変であろうし、仮にいくら書き加えても、想定外の大規模テロが発生すれば対応できない。

 このように考えると、結局、憲法の中に緊急事態規定を定めておき、大規模テロに対処できるようにしておくしかない。憲法改正が必要とされるゆえんである。

大規模自然災害と国家緊急事態


 他方、大規模自然災害であるが、平成23年3月11日の東日本大震災では巨大地震と大津波さらに原発事故に見舞われたが、民主党政権の対応はきわめて問題の多いものであった。

緊急災害対策本部の会議であいさつする菅首相。左は枝野官房長官
=2011年3月15日、首相官邸(酒巻俊介撮影)
 菅内閣は、次々と「本部」や「会議」を設置したが、それぞれの権限は曖昧な上、指揮系統は混乱し、結局、有効な対策も効果的な措置もとることができなかった。

 災害対策基本法では、「非常災害が発生し、その災害が国の経済や公共の福祉に重大な影響を及ぼすような場合」には、「災害緊急事態」を布告できると定めている(105条)。そして、この「災害緊急事態」が布告されると、政府は「緊急政令」を制定し、「生活必需物資の統制や価格統制、さらに金銭債務の支払い猶予」を行ったりすることができる(109条1項)。

 にもかかわらず、菅内閣は「災害緊急事態の布告」を行わず、「緊急政令」も制定しなかった。そして、「生活必需物資の統制など必要なかった」とうそぶいていた。実際には、震災直後に、現地ではガソリンが不足し、被災者や水・食糧などの生活必需物資、医薬品などが輸送できなかったりしている。そのため、助かったかもしれない多くの命が失われている。それゆえ「物資の統制」は必要であった。

 にもかかわらず「物資の統制」を行わなかった理由について、政府の役人は「国民の権利義務を大きく規制する非常に強い措置であり、適切な判断が必要」であったと答弁している。

 つまり、「憲法で保障された国民の権利や自由―経済活動の自由―をそう簡単に制限するわけにはいかない」というわけである。法律では明確に「権利・自由の制限」が認められているにもかわらず、憲法に根拠規定が存在しないため、そう簡単に権利や自由の制限を行うことなどできない、というわけである。

 また、ガレキの処理についても、憲法の保障する「財産権」が問題となった。流れ着いた家財や車等のガレキを処理し、緊急道路を開通させようとすると、「持ち主の了解なしに処分するのは財産権の侵害であり、憲法違反だ」といった声が上がり、中々処分が出来なかった自治体もいくつかある。これも憲法に根拠規定がないため、迅速な処理が出来ず、二次被害をもたらした例である。

 とすれば、やはり抜本的な解決のためには、憲法の中に緊急時のための規定をしっかりと定めておく必要がある。

緊急事態条項の必要性


 国家緊急権の目的は、「国家的な緊急事態において、国家(「政府」のことではなく「国民共同体としての国家」)の存立を確保し、憲法秩序を維持することによって、国民の生命と人権を守る」ことある。それ故、国家的な危機を克服し人権を守るために、緊急事態条項は不可欠である。

 これは、平時には平時の、そして緊急時には緊急時のためのルールが必要だということである。交通ルールに例えるならば、一般車や歩行者は信号に従って交差点を渡るが、緊急時にはパトカーや消防車などの緊急車両が一般車や歩行者を一時ストップさせ、優先的に走行できる。つまり、通常とは異なる特別ルールに従って走行できるわけである。それと同じであって、日常生活でさえ平時と緊急時のルールが分けられているにもかかわらず、国家レベルでは緊急時のルールが定められていない、というのもおかしな話である。
   
 逆に、もし緊急権が制度化されていない場合、どうなるか。憲法改正に反対する人たちは、「超法規的措置をとれば良い」と言うが、それこそ護憲派が強調する「立憲主義」に反する。危機を克服するためという理由のもと、憲法に定められていない権力が行使される、つまり憲法を無視した権力の乱用がなされるわけであるから、危険きわまりない。それゆえ、憲法を守り、立憲主義を維持するためにも、緊急事態条項は不可欠であって、これが無いようでは、とても立憲主義国家とは言えない。

 だから、世界のほとんどの国々が、憲法の中に緊急事態条項を定めている。先進国で緊急事態条項のない憲法など存在しないし、1990年以降に制定された100ヶ国の憲法にも、全て緊急権が規定されている。

首都直下型大地震に備えて


  東日本大震災のような緊急事態、あるいはそれ以上の緊急事態はいつ起こるか分からない。例えば、心配される首都直下型大地震が発生し、もし、国会が集会できないような大混乱が生じた場合どうするのだろうか。首相をトップとする「中央防災会議」は、昨年3月、「首都直下型地震は国家の存亡に関わる」との報告書を発表した。

 首都直下型大地震が発生する確率は、国の予測では「今後30年以内に70%の確率」と言われている。しかし、他方では、過去1300年の間に4回発生したマグニチュード8以上の三陸沖巨大地震の経験をもとに、ここ10年以内に首都直下型地震が発生してもおかしくない、と断言する人がいる。それは京都大学の藤井聡教授で、内閣官房参与もしておられるこの分野の専門家である。

 藤井教授によると、三陸沖巨大地震と連動して、前後10年以内に首都直下型大地震が発生したケースが過去に4回もある。最初は、平安時代初期に発生した貞観の三陸沖巨大地震であるが、その9年後に相模・武蔵大地震が起きている。また新しいところでは、大正12年の関東大震災の丁度10年後の昭和8年に、昭和三陸地震が発生している。それゆえ、統計的に言えば、ここ10年以内に首都直下型地震が発生してもおかしくないと、警告を発しておられるわけである。

 したがって、一日も早く憲法を改正し、憲法の中に緊急事態条項を定めておく必要がある。

 この点、昨年11月7日、衆議院の憲法審査会において緊急事態についての審議が行われたが、共産党を除く与野党の7党すべてが緊急事態規定の必要性を認めている。とすれば、憲法改正の第一のテーマが緊急事態条項になるであろうことは、多分、間違いない。もしかしたら、これが一点突破のカギとなるかもしれない。また、この緊急事態の問題であれば、必ず多くの国民の理解が得られると確信している。