小沢一郎民主党幹事長(67)の政治資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる疑惑は、政権を担う器量を持つ民主党幹部がいないことも浮き彫りにしたようだ。

モノ言わぬ党幹部

 東京地検特捜部は小沢氏側近の石川知裕容疑者(36)=衆院議員=らを逮捕し、小沢氏の個人事務所も家宅捜索を受けた。それでも、民主党には自浄能力を発揮しようと動く幹部は今のところ見あたらない。小沢氏が怖くて仕方がないせいなのか、静けさを保つ反小沢、非小沢系民主党議員のリーダーたちには「黙ってじっとしていれば検察や世論が小沢氏を退治してくれる」という小狡(こずる)い底意がありありと感じられる。
 しかし、国民の多くが小沢氏の疑惑を「おかしい」と思っている今この時に、モノも言えないような胆力なき民主党の幹部たちに、まともな政権運営ができるのだろうか。
 もともとの小沢氏側近議員たちが小沢氏を守ろうとして、検察当局との「全面戦争」(森裕子参院議員)を叫ぶのはいかにも異様だが、分からないでもない。徒党を組んで敵勢力と争う政党政治家の本能のようなものだ。

自己保身のにおい

 しかし、鳩山由紀夫首相(62)を含む非小沢系、また、反小沢系の幹部たちは何に遠慮しているのか。
 小沢氏は1月16日、首相の了承を得て、党大会で幹事長続投を宣言したが、反小沢系のリーダー格である民主党「7奉行」の1人(衆院議員)は次のように語った。
 「党内と世論は乖離(かいり)している。小沢さんには進退を自分で判断してほしいし、そうしないなら、参院議員が取り組めばいい」
 正直な発言だが、自己保身のにおいが漂う。夏の参院選を控え、世間の評判を気にせざるを得ない参院議員が突き上げればよく、自分は火中のクリは拾わない、というわけだ。
 小沢氏に批判的な別の中堅幹部(衆院議員)は「小沢がいなくなれば、党の評判は良くなって、参院選は勝てる。でも自分は静かにしている」と語った。
 2人とも、いずれ民主党を担うと思われている議員だ。政治に計算はつきものだが、そればかりでいいのだろうか。

功山寺挙兵

 山口県下関市に功山寺(こうざんじ)という寺がある。
 藩士ではない武士や庶民で編成された長州奇兵隊の創設者、高杉晋作が今から145年前の1865年1月12日(新暦)、この寺で兵を挙げ、長州藩の政権を握っていた江戸幕府への恭順派を一掃した。「功山寺挙兵」「回天義挙」という。
 功山寺には亡命していた尊攘(そんじょう)派公卿(くぎょう)の三条実美(さんじょうさねとみ)らがいた。幕府の第1次長州征伐への屈服後、長州藩を牛耳った幕府恭順派が、これら亡命公卿の移送に動いたことで、高杉の挙兵となった。圧倒的な兵力(2000人)を握る藩に対する挙兵は無謀とされ、高杉は自身が創設した奇兵隊にも協力を断られたが、駆けつけた伊藤俊輔(伊藤博文)ら84人で立ち上がった。死を覚悟して自分の墓碑銘まで作っていた高杉は三条らに、「これより長州男児の肝っ玉をごらんに入れ申す」と告げて行動に移った。
 戦いは成功し、長州藩は再び倒幕へ舵を切った。功山寺挙兵がなければ、明治維新は何年も遅れたろう。それどころか明治維新は起きずに幕府が延命し、日本は植民地に転落していたかもしれない。
 それほど重要な歴史的出来事は、当時25歳だった高杉一人の決意がもたらした。
 現代の政治家はもちろん、物理的暴力を振るってはならず、言葉の力で戦うべきだ。しかし、高杉の勇気と比べ、小沢氏におびえながら、その転落を願う民主党幹部の計算高さはいかにも卑小だ。
 民主党に小沢氏を擁護する幹部がいてもいいが、「高杉」や「伊藤」はいなくていいのか。
 これで「明治維新に匹敵する大改革」(菅直人副総理・財務相)を唱えるのだから恐れ入る。
(政治部 榊原智)