玉木雄一郎(衆院議員)

 本当に間に合うのか。安倍総理が7月17日に新国立競技場建設計画の白紙撤回を決定してから早くも1か月。今、新たな不安が高まっている。

 新たな整備計画を作成するため、遠藤五輪相はアスリートをはじめとした関係者の声を聞いており、その様子は連日テレビで報道されている。そのこと自体が悪いことではないが、遠藤大臣が真っ先に話を聞くべき相手がいる。それは、安倍総理だ。

 7月17日、総理自身「本日、オリンピック・パラリンピックまでに工事を完了できるとの確信を得たので決断した」と述べ、白紙撤回を決めた。あれほどの大きな方針転換を決めた以上、間に合うと「確信」した資料や代替案があるはずである。遠藤大臣はまずその案を確認し、国民に広く公開することを最優先で行うべきである。

 民主党の党内会議で、文科省やJSCに対して、総理の白紙撤回の根拠となった資料を出して欲しいとの声が多数出た。しかし、文科省もJSCも国交相も内閣官房も、そんな資料や案は見たことがないし、存在さえしていないと答弁した。驚きである。

 しかも、白紙撤回発表後、今日に至るまで、安倍総理や下村文科相からも何も話が下りてきていないと言う。奇妙な話ではないか。

 総理が白紙撤回を表明した翌日の産経新聞の報道によれば、国交省に作成を依頼してまとめたA4の資料があり、この資料で森喜朗元総理も説得したとされている。報道のとおりなら、その資料を速やかに公開し、そこに記された計画と案を「たたき台」として議論を深めるべきである。

 その方が、一から議論をするより時間を短縮できるし効率的だ。しかし、文科省をはじめ政府は頑なにそうした資料の存在そのものを否定する。一体どうなっているのか。意味不明である。
森喜朗元首相との会談を終え、新国立競技場の建設計画見直しを正式に表明する安倍晋三首相=2015年7月17日午後、首相官邸(斎藤良雄撮影)
 実は、これから見直し計画をつくり期限に間に合わせることは時間的に極めてタイトである。というのも、安倍総理は「2020年春」に間に合うと判断して白紙撤回の決断をしたが、その後、IOCから東京都に対して、2020年の1月までに完成させてほしいとの要請があり、さらに2〜3か月程度早めなくてはならない状態に陥っている。さらなるスピードアップが求められているのだ。

 それなのに、総理が「確信」に至った資料は未だに出てこない。政府が資料の提出を拒み続ける理由が分からない。

 ちなみに、8月14日に開催された「新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議」で示された「再検討に当たっての基本的考え方(案)」には、4つめに「計画の決定及び進捗のプロセスを透明化する。」と明記されている。新国立競技場をめぐる混乱の原因として、責任の所在が不明確であったことへの反省からだ。

 そうであるなら、まずは安倍総理の白紙撤回に至る意思決定プロセスを透明化すべきではないか。「白紙撤回」の責任が不明確なまま、再び混乱を招くようなことがあってはならない。

 他方、同じ「基本的考え方」には、検討の方向性として、

・施設の機能は、原則として競技機能に限定

・屋根は観客席の上部のみ

・諸施設の水準は、オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして適切に設定


などの記述があり、一部の設計スペックについて先取りするような記述がある。しかし、なぜこうしたスペックが必要なのか詳しい説明は一切ない。密室での意思決定が再現されるおそれがある。

 こうした「基本的考え方」の書きぶりを見ると、内々決めている代替案があるのではないかと疑ってしまう。ゼネコンなどに作らせた代替案があるのに、アスリートなどからヒアリングを続けていたとしたら、それは単なるアリバイ作りの茶番劇でしかない。

 とにかく、7月17日に安倍総理の白紙撤回の決断の根拠となった資料と代替案を速やかに公開すべきである。今のまま見直し作業を進めても、国民の不安と不信は解消されない。

 私は、ここまで新国立競技場の建設問題が混迷を極めてきた大きな理由は、決定過程の不透明さと、関係者の責任の所在の不明確さにあると考えている。

 せっかく、安倍総理が見直しという判断を下したわけだから、同じ失敗を繰り返さないためにも、速やかに関連資料を公開し、計画見直しプロセスの透明化を図るべきである。

 白紙撤回のプロセスが不透明であれば、今後の見直し作業全体が不透明になる可能性がある。そしてそのことが、関係者の責任の所在を不明確にするおそれがある。実際、所管官庁である文科省も、実施主体であるJSCも、計画見直しについては、「総理がお決めになったことですから」といった調子で、どこか他人事である。

 最後に、もう一点提案をしたい。

 8月7日に、新国立競技場建設計画にかかるこれまでの経緯を検証するための「検証委員会」が文科省に設置され検討が始まっている。私は、この検証委員会の場で、まず白紙撤回の決定プロセスについて検証すべきだと考える。

 現在のスケジュールでいけば、検証委員会が、検証結果をまとめるのが9月中旬。一方、「再検討のための関係閣僚会議」が新たな整備計画に基づく公募を実施するのが9月初めとされており、新たな公募に検証結果は反映されないことになっている。これでは検証委員会の存在意義がない。

 同じ失敗を繰り返さないためにも、検証委員会は、安倍総理の7月17日の白紙撤回に至る経緯についても検証の対象とし、その問題点を明らかにしたうえで、新たな整備計画に基づく公募に生かしていくべきである。

 検証のための検証ではなく、見直し作業を成功に導くための実のある検証にするためにも、安倍総理は、白紙撤回を判断するに至った関連資料や代替案について速やかに国会と国民に公表すべきである。

 それができなければ、新国立競技場の建設計画は新たな霞の中に迷いこむおそれがある。総理の決断を強く求めたい。