鳩山由紀夫首相(63)から、ついに「命がけ」発言が飛び出した。首相は3月31日、谷垣禎一(さだかず)自民党総裁(65)との党首討論で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題について「命がけで、体当たりで行動する」と語った。意気込みを示したつもりだろうが、軽い言動が問題視されている折だけに、もう少し言葉を選んだ方がいい。「言葉のインフレ」は、国民の民主党、ひいては政治への信頼を損なうからだ。

ヘリウム入りの風船

 鳩山首相は野党時代の2003年、メルマガで「秘書が犯した罪は政治家が罰を受けるべきだ」と強調していた。ところが首相就任後、偽装献金事件で自身の秘書(事件当時)が起訴されても、責任をとろうとせず、国会で平身低頭するだけだ。
 このような人は、本物の命どころか「政治生命」をかける気もないと見るのが順当だ。
 実際、首相は3月9日、報道陣から普天間の移設先を5月末までに日米合意できなかった場合の対応を問われたが、「進退をかけるとか、そういう野党の挑発に乗るつもりはまったくありません」と述べた。31日の党首討論でも、谷垣氏が退陣か解散総選挙を迫ったが、首相は応じなかった。
 「命(いのち)」をめぐって首相は、信じられない演説もしている。1月29日の衆参本会議での施政方針演説の冒頭、首相は「いのちを守りたい」と強調し、24回も連呼した。この演説で、阪神大震災の悲劇を持ち出して「いのちを守る」決意を示したが、平成22年度予算は「事業仕分け」の判定に沿って、学校耐震化の予算を大幅に削っている。
 首相の言葉はヘリウムガス入りの風船のようだ。空にのぼって漂いうせるか、いつの間にかしぼんでしまう。
 民主党の小沢一郎幹事長(67)の言葉も、時にわけがわからない。東京地検特捜部の捜査を「民主主義を危うくする」と罵(ののし)ったかと思えば、不起訴処分の見通しが立つと「公平公正な捜査だ」と言い出す。
 その「公正な捜査」の結果、元秘書の石川知裕(ともひろ)衆院議員(36)らが逮捕、起訴されても、小沢氏は国会の場で説明責任を果たそうとはしない。
 首相も小沢氏も言葉を粗末にしている。とても「言霊(ことだま)の幸(さきわ)う国」(言葉の力が幸せをもたらす国)の政治家とは思えない。

浜田国松の覚悟

 「速記録を調べて私が軍を侮辱する言葉があるなら割腹(かっぷく)して君に謝罪する。なかったら君が割腹せよ」
 これは、第70回帝国議会が開かれていた1937年1月、衆院本会議で、立憲政友会の浜田国松(くにまつ)前衆院議長=当時(68)=が、寺内寿一(ひさいち)陸相(陸軍大臣)=当時(57)=に迫った言葉だ。
 浜田氏は衆院での演説で、2・26事件(1936年)や国民の支持を背景に軍部が、政治への影響力を強めていたことを痛烈に批判した。これに寺内陸相が「(軍人を)侮辱されるがごとく聞こえた」と反発し、応酬となり、議場は大混乱、議会は停会となった。
 当時の広田弘毅(こうき)内閣が倒れるまでにいたったが、「割腹問答(腹切り問答)」といわれるこの事件は、政党政治家の自らの言葉への覚悟を示す出来事でもあった。
当時、軍部を議場で戒めるのは、今の民主党で小沢氏を批判するのとは比べものにならない勇気を必要としただろう。
 政府・民主党は3月31日、7月の参院選のためのマニフェスト(政権公約)づくりに着手した。
しかし、首相や小沢氏が「言論の府」の先輩である浜田氏をみならって、言葉を大切にしなければ、どんなマニフェストができても国民は信用しない。参院選では民主党に厳しい審判を下すだろう。
(政治部 榊原智)