私はこの事件について、今の段階で書くのはまだ早いのではないかと考えています。警察発表と関係者や知人からの情報が錯綜し、事実の把握にまだ流動的な部分が残り、それに基づくプロファイルにはリスクが伴うからです。そのような条件の下で、今回は事件日の出来事の推移から、容疑者の心理を推察してみたいと思います。

平田奈津美さんと星野凌斗君の姿が防犯カメラに写っていた、京阪寝屋川市駅前の商店街=2015年8月25日午前、大阪府寝屋川市
 振り返ると、まず8月12日から13日にかけて平田さんと星野君が自宅に帰らず、繁華街にいたということは明らかです。午前5時10分ごろ、2人が商店街の防犯カメラに映った直後に山田容疑者のものとみられる車が複数回映り、それ以降2人の姿を捕捉していません。5時11分と17分の直後、少なくとも1時間以内に2人をなんらかの誘い文句で車に乗せたと考えられます。誘い方について、山田容疑者が2002年の前歴では脅迫めいた言葉を使っていましたが、今回は2人の様子をうかがっている点があり、時間も考慮すると、困っている2人を助けてあげる優しいおじさんを装った可能性もあると思っています。最初から脅迫的な態度で臨めば、中1生の2人を同時に車に乗せることは難しいのです。「泊まるところはないの?」、「どこか行きたいところがある?」などの言葉をかけて車に乗せた可能性があります。

 1時間以内に車に乗せたというのは、6時半頃に平田さんの端末から、LINEで友人に「今から星野と電車で京都に行く」と書いていることから導き出されます。これが山田容疑者の作文ではないかと考えるのは、行き先と移動方法など必要事項が一文で網羅されているからです。中1生なら、「京都行くで」、「なんで行くんや?」、「電車で行く」など短文のやり取りの中で書かれるのが一般で、この一文は子どもらしくありません。この時点で容疑者の偽装工作、アリバイ工作が始まっていると見ています。ただし、この一文を平田さんに指示して書かせたのか、容疑者自身が書いたのかはわかりません。強制的に書かせたのかもしれないし、それとも良好な関係を保ちつつ、「『おじさんに連れってもらう』と書くと怪しまれて、心配をかけちゃうから、『電車で行く』って書いたほうがええんちゃう?」というように促したのかもしれません。この辺りの実際は、本人の供述でしか把握しようがありません。

 午前11時半ごろ、山田容疑者は堺市の大阪刑務所に行き、義父に5秒間だけ面会をしたとされています。刑務所の受刑者への面会は親族なら可能ですが、月に数回の制限があります。頻繁に行けるわけがないにもかかわらず、2人を乗せた状態でその日に面会に行く合理性に欠ける点から、この行動もアリバイ工作ではないかと思います。実際に面会に行ったという客観記録が残ります。その日に撮ったという刑務所の外観写真とともに、「面会に行った」というコメントをLINEで知人にわざわざ知らせています。アリバイ工作は平田さんにLINEを送らせたところから始まっているとすると、2人を乗せた時から山田容疑者は事件を起こそうという決意が固まっていたと見ますが、殺人まで含まれていたとは考えにくいものです。

 その後山田容疑者は午後0時40分ごろに柏原市のコンビニで粘着テープを購入しています。私は当初、縛ったりしないで2人を自由な状態にさせていたと考えていたのですが、すでに手持ちの粘着テープなどを利用して2人の自由をある程度奪っていたかもしれません。ところが乗せていたのが2人だったこと、平田さんがナイフで切られていたことから、非常に暴れたり、大声を出す状態が続いたりしたために、テープが足りなくなり、補充のために買った可能性もあります。ここで、この時点までの容疑者と少年らとの関係性に、二つの可能性が浮上します。一つは山田容疑者が少年らと良好な関係を装っていた、つまり京都に行くまでにあちこち寄ったあと、コンビニでも「ジュースを買ってくる」などと言って外へ出て、2人は車から外へ出ないで待っていたということ。もう一つは手、足、口などをある程度縛った上で、ドアのチャイルドロックも掛けておき、少年たちは逃げたくても外に出られなかったということ。いずれにしても、コンビニ立ち寄り後にテープで拘束を補強したに違いありません。

 平田さんの死亡推定時刻は午後7時ごろで、司法解剖の結果、死因は窒息死と判明しています。警察は平田さんの顔をテープでぐるぐる巻きにされて窒息したと考えているのですが、では、なぜ切り傷があったのかという疑問が生じてきます。いまのところ星野くんの死因や遺体の傷の有無は特定できていません。平田さんの切り傷は肩から腰のあたりまで左半身だけ30カ所以上あったということです。ここで刺し傷ではなく切り傷だということは、ポイントの一つとして挙げられます。私は、平田さんが抵抗し、暴れて、後部座席の下に落ちたのではないかと推測しています。山田容疑者は、運転席側から後部座席に向かって、左側が上になって横たわり、暴れる平田さんをおとなしくさせるために、ナイフで切りつけたのではないかと見ています。もし平田さんの殺害を目的として刃物を使うとすれば、致命的となる首を狙ったり、胸や腹を刺したりするはずです。山田容疑者が過去に起こした事件では、脅すと大人しく従うという傾向がありました。ところが今回、脅したもののおとなしくならず、山田容疑者の興奮状態が高まり、切るに至ったのではないか、それが左側だけに切り傷がある理由だと考えています。