今回の山口組の分裂劇は、ここにきて急に起こった話ではなく、渡辺芳則組長の5代目体制からくすぶっていた話だ。5代目体制は、1989年に4代目山口組若頭から就任した渡辺組長と、ナンバー2の宅見勝という車の両輪で組織運営が行われていた。ただ、実際は宅見が仕切っているのが実態で、しのぎ(経済活動)に関しては、渡辺組長がなかなか直接的に手が出せない状況があり、渡辺組長の出身母体である山健組も苦々しく、というか不安に思っていた部分もあったと思う。

 結果的に、その5代目体制の時に名古屋の中部国際空港の建設があり、本来であるならば組織を挙げて利権に食いこむということをやっていくところを山口組の第2次団体、弘道会が宅見に要請し、ここは弘道会に仕切らせろという動きが実はあって、結果的に宅見若頭はそれを認めて、弘道会が前面に出る形で仕切るという格好になってしまった。それは2000億円近いしのぎになる大型案件だった。それでおさまればよかったのだが、弘道会が山口組のなかで、独自にしのぎをどんどん拡大していくことに対して、本流を意識する山健組、というよりも神戸サイドが「勝手にやりやがって」ということで、不満を募らせていったという経緯がある。

亡くなった中西一男・山口組最高顧問の通夜に訪れた山口組五代目、渡辺芳則組長(中央)=2003年9月3日
 その延長線上というわけでもないが、その流れの中で1997年8月、新神戸駅前のホテルで宅見若頭が中野会系組員に射殺される事件が起きた。弘道会や宅見組による渡辺体制をないがしろにする行動に対して、不満が爆発したみたいなところが宅見若頭暗殺事件につながっていく、という流れがある。結果的にそれが契機となって、渡辺組長も現役のまま引退を強いられることになった。普通だったら亡くなってから代替わりが行われるのだが、亡くなる前に自らの意思に反して組長交代が行われ、そして6代目体制になると、弘道会が主導権を握るという流れになった。そうなってくると、弘道会がどんどん他の組の利権、経済活動に対して、蚕食し始める。言ってみれば、自らのテリトリーを広げていくようなことをやる。そして、意にそぐわない組長や組織を絶縁、破門という形で組織から強引に切り離していくというところをやったので、本流を自任する山健組の不満が爆発し、今回の組織離脱になったとみられる。

 離脱組は新組織を結成し、「神戸山口組」を名乗るという情報がある。山健組だけじゃなく、大阪の2代目宅見組も追随するというのは、大きな城壁だ。今後、離脱する組がさらに増えたり、これまで破門、絶縁された組織が神戸山口組に参集し、神戸山口組の構成員の方が数が多くなるんじゃないかという見方もある。

 経済活動であるしのぎについては、従来型の金融や地上げや土地管理もあるが、最近は違法行為を伴わないような、経済活動が主体になっている。ヤクザだからこういう仕事なんだということではなく、ごくごく一般の人たちがやるような、商品を輸入するとか、飲食店経営であるとか多岐にわたり、特徴みたいなのがない。暴力団対策法や暴力団排除条例の施行の絡みで、正規の構成員が前面に出ることはほとんどない。自分たちは裏に回って、ほとんど堅気の人間が経済活動するっていうのがここ最近の傾向だ。

 山口組の中心を担ってきた名古屋の弘道会は、どんどん東京に進出していった。一番目立った所では、新宿・歌舞伎町のぼったくりバー。都条例の違反にあたる行為であり、今年、警視庁により一斉摘発されたが、弘道会の経営の店が多かった。東京は弘道会が席巻していたので、他の組織、団体が出ていけるような状況ではなかったのではないか。東京が一番、経済集積度が大きいから、東京に進出するかしないかというのは経済力の差になってあらわれてくる。

 絶縁、破門をした組織がそのまま組の運営を続けていくということを考えると、処分を下した側にとってみると、完全にメンツをつぶされたことになる。加えて、神戸山口組なんて看板を掲げるとなると、これまた処分を下した側の顔に泥を塗ることになることになるから、普通でいったら山口組と一和会による抗争で25人の死者を出した「山一抗争」のような抗争に発展するのだが、もし万が一抗争劇に発展してしまうと、九州の工藤会のように「特定危険指定暴力団」という扱いになってしまう。そうなると、組事務所への立ち入りを禁止されたり、5人以上の組員が集まっていると、それだけで逮捕という状況になるし、そういったリスクをおかしてまでやるかどうかというところを考えると、抗争ができる環境ではないのではないか。

 逆に言えば、抗争もしないまま相手に対し、そのままの状況を許してしまうとなると、弘道会、山口組にとっても、ヤクザとしてのメンツ丸つぶれということになって、今後に大きな影響を与えてしまうので、これはやらざるを得ない。ただ抗争をやってしまうとかなり大きなリスクを負うことになる。ここは悩ましいところだと思う。

 可能性は低いと思うが、山口組との関係のある団体が間に入って仲裁するということがないわけでもない。かつて茨城県を拠点とする「松葉会」が同じような状況になった。激しい抗争が起こったわけではなく、他の団体が仲裁に入ったことがある。ただ、山口組は考え方も行動も関東の組織とは違うから、そういった共存路線になる可能性は低いと思う。山口組が共存の道を選んだ場合は、大きな組織が二つに割れてしまうので、間違いなく弱体化につながる。

 警察としては、抗争となった場合は大きな批判を市民から浴びることになる。警視庁は関西方面に応援部隊を派遣しており、なんとかそれを抑える方向にいくのではないか。警察が目指すのは、抗争を起こさせないまま両方の動きを封じ込めていくことだろう。(聞き手 iRONNA編集部 川畑希望)