安倍宏行(Japan In-depth 編集長/ジャーナリスト)

 遂に「原発ゼロ」が約1年11か月ぶりに解消した。九州電力は11日午前、川内原発1号機をほぼ4年ぶりに再稼働させた。来月には本格的な営業運転が始まる見込みだ。2号機も10月中の再稼働も目指す。不思議なことにあんなに再稼働問題を取り上げていたメディアも今回は淡々とした報道ぶりだが、改めてこの問題を考えてみたい。

 まず、再稼働の条件としてどのような安全対策が施されているのか、よく知らない人も多いだろう。東京電力福島第一原発事故後設立された原子力規制委員会が新規制基準というものを作った。(2013年7月施行)その基準にもとづき、重大事故対策が義務付けられた。川内原発は、最大規模の地震、津波、竜巻などの自然災害への備えを万全にしたという。福島第一で起きた、全交流電源喪失や水素爆発に対応しており、こうした安全対策費用は実に3,000億円超に上る。(玄海原発分含む)

川内原発の中央制御室で1号機原子炉の起動操作をする運転員ら=2015年8月11日、鹿児島県薩摩川内市(代表撮影)
 同様の安全対策は他の電力会社の原発でも当然取られており、かかっており費用の合計額は優に1兆円は超すだろう。そうしたコストは電気料金に跳ね返る可能性があることを忘れてはならない。震災後の電気料金の値上げによる負担増は、一般家庭のみならず、中小企業にずしりとのしかかり、限界に近づいている。

 加えて、原発停止に伴い輸入が増加している火力発電用化石燃料費も膨大だ。特にLNGの需要は震災前の2010年度の約7,060万トンから2014年度には約8,900万トンと3割近くも上昇している。LNGの価格高騰もあり、 調達費は、2010年の3.5兆円から2014年の7.8兆円へと大幅に増えている。原油輸入量は増えてはいないがやはり価格高騰で、その輸入額は同じく2010年と2014年では、約9兆4,059 億円から約13兆8,734億円へと上昇している。(エネ庁調べ)

 こうした、火力発電稼働増に伴う追加燃料費は、2011年度から14年度の累計で12.7兆円に上るとの試算がある。(2014年10月23日、経済産業省電力需給検証小委員会の発表による)これは消費税5%分に相当する額である。こうした燃料費の増加は貿易収支を悪化させ、2013年は11.5兆円の赤字、2014年は過去最大の12.8兆円の赤字となった。原油安などで2015年上半期の経常収支は8兆円の黒字に転換してはいるが、経常収支にまで影響が及べば日本経済にとって悪影響は避けられない状況だった。又、CO2の排出量も増加した。(2014年以降低下傾向にある)こうしたことを考えると原発再稼働が日本経済にとって必要であることがわかる。

 再生可能エネルギーの問題も忘れてはならない。再エネがベースロード電源になりえないことは読者諸氏は重々承知であろう。そして、再エネを支えているのは私たち消費者だ。再エネは固定価格買取制度に支えられ、私たちは毎月の電気料金に加え、“再生可能エネルギー発電促進賦課金”を払っているのだ。再エネ発電比率を大きくすればするほど私たちの負担が増えることをしっかりと認識する必要がある。

 そうした背景を理解したうえで、今回の再稼働を評価しなければならない。新規制基準をクリアしたからといって安全が100パーセント確保されるものでもない。しかし、新規制基準をクリアしたものから順次再稼働していくことは、我が国にとって現時点で考えうる最善の施策だろう。無論、各電力会社は、あらゆるリスクに対応できる不断の訓練を絶やさぬことが最低限の条件である。また今回問題だと指摘されている自治体の避難計画なども実効性のあるものにしなければならないのは言うまでもない。

 既に政府は40年経過した原発の廃炉を決めている。ベース電源としての原発を漸次減らしていき、その間に高効率の火力発電所を増やすとともに、再エネも経済合理性を勘案して一定比率まで増やしていくことが、我が国が進むべき方向だということを、今一度再確認したい。