菅直人首相(63)は、高い内閣支持率で船出した。民主党惨敗が予想された7月の参院選は、一転して民主党が勝利するとみられ、自民党は茫然(ぼうぜん)自失の感がある。菅首相は「脱小沢」路線で人気を博しつつ、7月11日投開票の参院選で与党過半数を維持することで、長期政権をねらっている。ただ、菅首相は明らかに準備不足で登板した。また、急遽(きゅうきょ)行われた民主党代表選の過程で、党内からも、世論からも「菅コール」、菅直人待望論は湧(わ)き起こらなかった。これらのことを、菅首相と側近たちは肝に銘じた方がいいだろう。

驚異の支持率42ポイント増

 共同通信社の世論調査(6月8、9日調査)によると、菅内閣の支持率は61.5%。鳩山内閣末期(5月)の支持率が19.1%だったから、実に42.4ポイントも上昇した。
 鳩山政権当時、暗い顔で参院選の審判を待っていた民主党議員たちは「一刻も早く選挙を」と、今やえびす顔だ。
 民主党のV字回復は、「政治とカネ」の問題を抱えた小沢一郎前幹事長(68)と、米軍普天間飛行場移設問題などで言動がぶれ、「政治とカネ」の問題もあった鳩山由紀夫前首相(63)の2人が退場したのが最大の要因だ。
 菅首相や枝野幸男幹事長(46)が人事や党運営で小沢色を排除し、風通しのよい党を取り戻そうとしていることも好感を呼んでいる。
 要は、小沢氏のおかげで支持率が上がっているのだが、それだけで世論の支持が続くわけがない。
 国会での4日の首相指名選挙から内閣発足まで4日間もかかった「人事」の遅れ、財政再建くらいしか目につかない「政策」の地味さ、郵政改革法案と参院選日程に関して国民新党の亀井静香代表(73)の閣僚辞任を招いた「政治日程」決定をめぐる稚拙(ちせつ)さ…。これらは、菅首相と側近たちが準備不足のまま政権の座についたことを意味する。

行革なき消費税増税?

 安全保障、外交の経験不足や国家観の欠如、外国人参政権推進など、菅首相には不安がつきまとうが、他にも3つの問題点を指摘できる。
 1つは、菅首相が権力を使って「本当にやりたいこと」が、はっきりしない点だ。「菅コール」が起きなかった最大の原因でもある。改革を叫びつつ実際は漫然たる「政権管理人」になれば、支持率は減っていく。
 消費税増税にだけは使命感があるようだが、副総理・財務相時代に財務官僚に洗脳されたのかと疑ってしまう。
 消費税増税がいずれ避けられないとしても行政改革が前提だ。民主党は昨夏の衆院選で、徹底したムダの排除を約束して政権を得たはずだ。しかし、やったことはお茶の間ショーのような「事業仕分け」ぐらい。最低限必要な、国家公務員の総人件費2割削減は手つかずで、官公労に支援された民主党の限界を示している。
 仙谷由人官房長官(64)と枝野氏の両氏は鳩山内閣の行政刷新担当相でありながら、十分な実績を出せなかった。菅首相はこの2人と新トロイカを組んだが、果たして行革ができるのだろうか。
 2つ目は、「脱小沢」路線で「小沢氏登場前の民主党に戻す」(前原グループ幹部)ことにはマイナス面もある、という点だ。
 「小沢支配」は民主党内に息苦しさをもたらし、党政策調査会廃止は議員の政策力を育てず、党を素人集団のままとする問題があった。しかし、党の方針を迅速に決定し、団結して政権を支える習慣を民主党にもたらす面もあった。
 政党や政府は、政治力の足りない人物が要職についても十分に働けない組織だ。そのうえ、大学のサークルのような以前の民主党に戻れば、菅政権は混乱するだろう。
 3つ目は、小沢氏支持の議員たちの反感が膨らんでいる点だ。菅首相は鳩山グループまで人事で冷遇している。小沢氏が、検察審査会という「強敵」の議決を政治的にしのぐことができれば、9月の民主党代表選で小沢、鳩山両グループが結びつき、菅首相が強力な対抗馬に敗れる事態もありえる。
(政治部 榊原智)