憲法改正手続きを定める国民投票法改正案が9日、衆院本会議で可決、参院へ送付された。今国会で成立する見通しで、現憲法施行67年目にして初め て、国民投票の実施へ前進した。日本が憲法改正という新しい選択肢を持つ時代に入る意義は大きい。

 自民党の船田元(はじめ)憲法改正推進本部長(60)は 8日、「憲法改正原案をどう作っていくのか。いよいよ本丸に入っていく段階になる」と語った。憲法改正草案を持つ自民党だけでなく、「護憲」以外の政党 は、具体的な改正案をまとめ、合意形成を目指すべきだろう。

緊急事態条項・環境権から

 最初の国民投票は、2016年か17年になりそうだ。16年なら、参院選とのダブルか、衆参同日選とのトリプルも可能だ。緊急事態条項や環境権が問われ、憲法改正は実現するのではないか。

 東日本大震災の際、民主党の菅直人政権は、関東大震災級の地震への備えだった災害対策基本法上の「災害緊急事態」の宣言を見送った。憲法に緊急事態の規定があれば政府の事前準備がきちんととられ、対応は違っていたかもしれない。

 緊急事態条項は、国民と憲法秩序を守るものだ。西修駒沢大名誉教授(73)の調査では、1990年から2011年夏までに制定された99カ国の新憲法のすべてに緊急事態条項が備わっていた。

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故を経験した国民は、きちんとした説明さえあれば、緊急事態条項に賛成するだろう。環境権についても反対が多数を占めるとは思われない。

 9条改正はどうか。本来なら真っ先に行われることが望ましい。普通の民主主義国と同様に、自衛隊を軍隊として位置付けなければ日本の安全保障上の欠陥は解消しないからである。

 しかし、参院では9条改正に積極的な政党が3分の2以上を確保しておらず、最初の対象にはなりにくい。

  「9条改正は国民が憲法改正に慣れた『慣熟運転』の段階で問うのが現実的だ」

 自民党の船田氏は3日、都内で開かれた民間憲法臨調のフォーラムでこう述べた。そのうえで、最初の国民投票では緊急事態条項、環境権などの新しい人権を問う考えを示した。

 これに対し同臨調の櫻井よしこ代表も「(改正の発議要件を緩和する)96条改正や緊急権など、9条以外から始めても姑息(こそく)ではない」と理解を示した。

官公労の勧誘認めた欠陥

 今回の国民投票法改正案には、公務員が憲法改正の是非を組織的に働きかける勧誘運動を認めた欠陥がある。自治労や日教組の猛烈な運動があれば、公務員の政治的中立など吹き飛んでしまう。

 国民投票は主権者国民による最も高度な政治行為だ。公正さを保つため公務員の組織的勧誘運動には規制が必要だ。

 また、国民投票の投票年齢に加え、選挙権年齢、成年年齢などを2年以内に「18歳以上」へ引き下げる検討も今後の課題である。

 いずれも結論を急くべきだ。ただ、民主党や公明党が、これらの協議を理由に憲法改正原案の作成に踏み込まない恐れがある。それでは本末転倒になる。

 国民投票法改正には賛成した両党だが、肝心の憲法改正では護憲政党と変わりがない。民主党は党内に強固な護憲派勢力を抱え、憲法改正に手を触れれば遠心力が働く。「加憲」を掲げる公明党にしても、9条絡みの議論を避けたい思惑がある。

 しかし、政党は、憲法改正を政治日程に載せられる時代になった重みを踏まえて行動しなければならない。野党再編も、憲法改正への対応が結集軸の一つになることが期待される。
(論説委員 榊原智)