小笠原誠治(経済コラムニスト)

 株価の急落に耐えかねて中国政府がまた動きました。先週からの急激な株価の下落に中国当局はただ黙って見ているだけなのかと思っていた矢先の出来事です。

 その効果と言うべきか欧州市場では株価が反発したのです。

 では、中国は今回どんな対策を打ち出したのかと言えば…0.25%の利下げと預金準備率の引き下げです。

 つまり金融を一層緩和したということなのですが、別に目新しい内容ではありません。

 案の定、米国のマーケットはそれほど反応を示さず、NYダウはまた下げているのです。

 では、ここで皆さんに問いたいと思います。

 金利の引き下げや預金準備率の引き下げといった金融緩和策は今の中国の経済にとって恵の雨になるのでしょうか?

 如何でしょうか?

 金利を引き下げると、何故景気を刺激するかと言えば…

 そうですよね、お金を借りて投資をする立場にある企業としては、金利が安くなるので投資をしやすくなるのです。そして、企業の設備投資が増えれば、GDPも引き上げられる、と。

 では、今の中国経済にとって金利の引き下げは有効な手段と言えるのでしょうか?

 しかし、中国経済を少しでも理解している人からすれば、それは殆ど意味のないことだと分かるのです。

 何故か?

 それは中国経済のより本質的な問題は、設備投資が盛り上がらないことではなく、逆に設備が過剰であることにあるからです。

中国安徽省の証券会社で、株価の動きを見つめる個人投資家(共同)
中国安徽省の証券会社で、株価の動きを見つめる個人投資家(共同)
 例えば鉄鋼の生産設備ですが…世界の鉄鋼の年間の生産能力は23億トンに及ぶとされていますが、そのうち中国の能力は11.6億トンを占めています。

 凄いですね。世界で毎年生産される鉄鋼のうち半分は中国で生産されているのです。

 では、実際中国は最近どのくらいの鉄鋼を生産しているかといえば、約8億トン程度。因みに日本は、長い間約1億トン程度で推移しているので、日本の8倍ほどの鉄鋼を生産していることになるのです。

 但し、中国の生産能力は11.6億トンもあるので、3.6億トン分は余剰生産能力ということになります。

 そんなに生産設備が余っているのですから、金利を下げてやるから設備投資をしろと言っても、それがおかしな話であるのは自明のこと。

 鉄鋼以外にも、例えば自動車の生産に関しては、2015年の中国の自動車生産能力は約5000万台に迫る見込みとされている一方で、実際の売り上げ見込みは2500万台にとどまると見られているので、稼働率は5割程度にとどまるのです。

 これら以外にも、板ガラス、電解アルミ、太陽電池、エチレン、石炭、コンクリート、船舶、それに風力発電など、どれもこれも生産設備が過剰であることがむしろ中国経済の大きな問題になっているのです。

 こんな中国なのに、投資を刺激するための金利の引き下げに何の意味があるのか、と。

 そうでしょう?

 確かに景気の悪化を防ぐべきだという意見も分からないではありませんが、しかし、景気の悪化を恐れるあまり、これまで投資を増やし続けてきた結果が、この過剰設備を生み出してしまったのです。

 要するに問題を先送りしてきたツケが、今中国に回ってきているのです。

 ここで金融を緩和したり、或いは財政出動をしても、それはまたしても問題を先送りするだけの話に過ぎないのです。

 本当は、設備投資を促進するよりも、過剰設備の問題にもっと積極的に取り組む必要があるのに、それがなかなか実行できずに今日に到ったと言うべきなのです。
 
 大体一人っ子政策をとっている中国なのですから、人口が増えない一方で、GDPがいつまでも伸び続けるなんてことはあり得ないのです。他国にない優れた技術力を保有しているという訳でもない訳ですから。それに賃金だって上がり続けている訳ですから、安い労働力を武器とした輸出に頼るのも限度があるのです。

 ということで、中国の経済は調整期に突入したと言えるのです。そして、その調整のためには相当の時間を要すると考えた方がいいでしょう。

(オフィシャルブログ『経済ニュースゼミ』より8月26日分を転載)


おがさわら・せいじ 1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。以降、経済コラムニストとして活躍。メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。著書に『マクロ経済学がよーくわかる本』(秀和システム)、『ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる』(秀和システム)、『経済指標の読み解き方がよーくわかる本』(秀和システム)がある。