釣雅雄(岡山大学経済学部准教授)
(THE PAGEより転載)

 中国上海市場の株価急落につられて世界同時株安が誘発され、日本でも株価が乱高下しています。世界同時株安はいったん沈静化したようにみえますが、中国経済の問題は解決したとはいえず、株価維持政策はそれらを先送りしただけかもしれません。中国経済が今後どう進んでいくのかを知るには、中期的な視点が必要です。日本の高度成長の経験からひもとき、その後、日本経済への影響を考えてみます。


中国経済の高すぎる「投資」依存度

[図](出所)中国の表:中国人民共和国国家統計局編、China Statistical Yearbook、日本の表:内閣府、国民経済計算、拙著(2014)『入門日本経済論』122頁
[図](出所)中国の表:中国人民共和国国家統計局編、China Statistical Yearbook、日本の表:内閣府、国民経済計算、拙著(2014)『入門日本経済論』122頁
 中国の経済成長には、投資の役割が大きいという特徴があります。中国の経済成長のおよそ半分が投資によるものです(このことは、投資と消費がGDP成長にどれくらい寄与したのか《寄与度》をみることで確認できます)。さらに、図で日本の高度成長期と比較してみても投資の占める割合が大きく、同じ高成長でも中国と日本とではずいぶんと異なることが分かります。

 このような投資が大きいという特徴から、中国の抱える問題が見えてきます。

・中国国内の経済格差が拡大してきた
・過剰な投資は経済の成熟化に伴いいずれ縮小し、成長率も低くなる

 投資の中身では、不動産が非常に大きな割合を占めています。2013年の中国の産業別投資割合(中国人民共和国国家統計局編「China Statistical Yearbook」)は、全体の投資に占める割合が一番大きいのは製造業の33%ですが、その次が不動産の27%です。

中国証券監督管理委員会の前に集まった個人投資家ら(奥)=北京(共同)
中国証券監督管理委員会の前に集まった個人投資家ら(奥)=北京(共同)
 通常は所得の増加に伴い消費が増えるはずです。中国では住宅が重要で、結婚の条件にもなるようなので日本とは異なると思いますが、それでも、所得が増えたから不動産投資をしようという人は、高い所得水準の人に限られます。そのため、国民と一部の富裕層、あるいは企業とに所得格差が生じていて、それぞれが異なる経済行動をしていると考えられます。

 日本でも高度成長期に不動産投資は伸びていました。しかしながら、床面積でみると(建設省「建築物着工統計調査」)、1973年ころがピークでその後は居住用は1980年ころまで横ばいののち減少、鉱工業用は半減するような急速な縮小という状況になりました。これは、石油ショックの影響も大きいですが、基本的には、高度成長期の終焉によるものです。

 人口移動(総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」)でみても、東京圏への超過転入は1962年がピークの38.8万人で、1970年代に入るとそれが急速に縮小しました。また、東京圏に限らず日本全体での都道府県間移動の総数をみると、1970年の424万人がピークとなっています。

 すなわち、日本でも高度成長期に人々が移動している間は、不動産投資が拡大していたのですが、それを過ぎると急速に(たとえば5年程度の間で)縮小するという現象が見られました。移動先での住宅需要が縮小したり、製造業への産業構造の転換が終わったためです。

 中国でもおそらく同じようなことが起こると思います。問題は、中国経済がかつての日本に比べて投資への依存度が高すぎる点、経済格差のために国民の消費需要への転換が進みにくいかもしれない点です。

中期的には問題がある追加金融緩和

[図](出所)中国人民共和国国家統計局、Yahoo! Finance
[図](出所)中国人民共和国国家統計局、Yahoo! Finance
 さて、上海株の下落への対応として、中国の中央銀行である中国人民銀行が8月25日に追加金融緩和を決定しました。中国は2014年の終わりから現在まで断続的に金融緩和を行っており、そのため、今回も「追加」金融緩和となっています。背景には不動産の価格下落があり、直近でも6月27日に金利を引き下げています。株式市場においてこの追加緩和は好感される政策かもしれませんが、これには中期的に問題があります。

 上海株のバブル的な上昇は、不動産から株式への資金移動が原因だと思われます。次の図は北京と上海の新築住宅販売価格の推移と、上海総合株価指数の推移を重ねて示したもので、昨年の夏ごろからそれぞれが反対方向に動く様子がみられます。不動産価格が下落していたため、投機的な資金が株式市場に流れ込んだのでしょう。そのため、今年の3月ごろを境に不動産価格が回復し始めると、逆に株価が下落しています。

 金融緩和は株式のみならず、不動産にも影響を与えます。中国の中央銀行が直面する問題は、株価を支えるための追加金融緩和により、住宅など不動産のバブル的な価格上昇を加速させてしまうことです。もし、今回の混乱が収まるとしたら、これまでと異なり、今後は不動産も株式も、どちらも価格が上昇するかもしれません。

 しかしながら、金融緩和は需要の「先食い」に過ぎず、日本の経験から考えても永久に不動産投資が伸び続けることはありません。この需要の先食いが強すぎる場合、将来、急速な不動産価格下落という経済ショックをもたらしてしまいます。日本のバブル崩壊もそうですが、米国のリーマンショックも同じ動きでした。日本でも1990年ごろのバブル崩壊から、不良債権問題、貸し渋り、投資の低迷などが不動産価格下落により生じました。さらに、中国では不動産投資が減少してしまうと、現在のような経済成長を維持できません。そのため、もし不動産価格にショックが生じた場合は、厳しい景気後退が発生してしまうでしょう。

日本経済への影響は限定的か

[図](出所)財務省、貿易統計
[図](出所)財務省、貿易統計
 もし将来、中国経済が失速するとなれば、企業によっては大きな影響を受けると考えられます。それでも日本経済全体への影響は限定的でしょう。図で日本から中国、米国への輸出額の推移と内訳を示してみました。

 中国への輸出品の構成は、米国への輸出とは異なります。一般機械や電気機器(主に電子半導体)など中間財と呼ばれるものが多く、それらの多くは間接的にはEUや米国への輸出につながっています。図で分かるように、リーマンショック後、2010年でも米国への輸出は回復していませんが、それは主に輸送機器(自動車)の輸出減が響いたためです。ところが、中国への輸出は元に戻っています。

 もし中国経済が悪化すれば、日本経済が影響を受けるのは間違いありませんが、リーマンショックのような欧米での発生に比べると小さいものにとどまるはずです。ただ、隣国でもあり、単純に貿易だけを考えればよいわけでもないでしょう。

 中国政府と中央銀行がどのような政策を採用するかによって、今後どうなるかはずいぶん異なります。そもそもの発端は、中国が経済成長を維持するための手段として金融政策を用いていることや、株式市場などで介入を強めたことです。中国は共産主義国でありながら、自由な経済活動を導入することで発展してきましたが、ここにきて、政府は経済成長維持のための介入を強め過ぎているようにみえます。日本の経験からもいずれ行き詰まることがあり得ますので、今回の混乱が落ち着いたとしても、日本の企業は中国経済の変動に対応できるようにしておいたほうがよいでしょう。