派閥は単なる仲良し会


 自民党総裁選は、安倍総裁の無投票再選が決まった。

 数か月前、ある週刊誌から「ポスト安倍は誰がふさわしいか」という質問を受けたことがある。以前なら自民党の有力派閥のリーダーの名前がさっと浮かんだものだが、まったく浮かんでこなかった。そもそも自民党にどんな派閥があるのか、派閥の長は誰なのかさえ知らないことに気付いた。ほとんどの国民がそうだろう。そこで調べてみた。

 大きい順に細田派(細田博之)、額賀派(額賀福志郎)、岸田派(岸田文雄外相)、麻生派(麻生太郎財務相)、二階派(二階俊博総務会長)、石原派(石原伸晃)、山東派(山東昭子)、谷垣グループ(谷垣禎一幹事長)となっている。

 浮かんでこないはずだ。この中で麻生氏は首相経験者だが、総裁選に立候補したことがあるのは、谷垣氏と石原氏だけである。このなかで総理経験者の麻生氏を除いて、総理・総裁を目指していると言えるのも谷垣、石原の両氏ぐらいであろう。

 顔ぶれを見てもほとんどの派閥の長は、総理・総裁を目指しているわけではない。ただ当選回数や党役員、大臣経験の多さで選ばれているに過ぎない。
自民党総裁選が告示され、安倍首相の立候補届け出に訪れた河村建夫元官房長官=2015年9月8日午前、東京・永田町の党本部
 かつての自民党では、派閥は総理・総裁の座を射止めることが最大の目標で結成されていた。その結束は固く、文字通り「党中党(党の中のもう一つの党)」であった。総裁選に勝つためには、何よりも自派閥を拡大しなければならない。田中角栄が逮捕された後も「闇将軍」と称され、総裁を選ぶ力を保持していたのも、圧倒的な田中軍団の数の力によってであった。だが今の派閥は違う。派閥の長がメンバーの面倒をみるわけでもない。ただ仲良し会的に群がっているだけで、結束力は極めて弱い。だから無派閥議員が100人を超えている。今後もこの傾向は強まるだろう。

 考えてみれば、安倍総裁も派閥の長ではない。それでも総理・総裁の座を射止め、現在も盤石の強さを誇っている。もはや派閥は、総裁の座を射止めるための不可欠の要素にはなっていないということだ。

「女は度胸」を示した野田聖子氏


 では「ポスト安倍」は誰なのか。安倍首相に全く逆らえなかった現在の派閥の長は、それだけでも資格喪失者だ。この点では、最後まで総裁選出馬を模索し、推薦人集めに奔走した野田聖子前総務会長は、一番の有資格者だと言える。安倍総裁の「この道しかない」というスローガンに対して、アンチテーゼとして「この道も、あの道もある」を掲げた。全ての派閥が安倍支持を打ち出したことに対しても、「密室政治と評された、悪しき自民党への先祖返り」と批判した。

 手を挙げることも出来なかった男連中より、はるかに勇気のある行動であった。官邸の強い締め付けもあって20人の推薦人を集めることができず、立候補はかなわなかったが、大いに慌てさせただけでも十分に意味のある行動であった。

 かつてイギリスにはサッチャー首相がいた。現在のドイツも女性のメルケル首相だ。アメリカではヒラリー・クリントンが大統領を目指している。日本でもそろそろ女性首相が誕生しても良い。少なくとも現時点では、その一番手に野田氏がついたということだろう。

闘う意思がなければ総理・総裁の座には就けない


 安倍首相がなぜ盤石の強さを誇っているのか。なによりも二回の国政選挙で圧勝し、民主党から政権を奪還したからである。同時に、安倍氏自身が強烈な信念を持っていることも大きい。集団的自衛権の行使やアベノミクスは、一歩間違えば政権の命取りになりかねない政策課題である。原発の再稼働もそうである。

 自民党の中でも、心底この路線に賛成している人ばかりではないはずだ。だが安倍首相は、躊躇することなくこの道を突き進んでいる。この路線に対抗するには、余程確固としたアンチテーゼを持っていなければ対抗できない。だからこそ野田氏以外、誰も手を挙げようとしなかったのである。これはある意味では、「大人の判断」ではある。

 だが国民の目から見ればどうだろうか。安倍政権の支持率は、安保法制や原発再稼働などによって、徐々に低下している。格差社会も改善されていない。国民の側から見れば、この機会に大いに自民党内で議論してもらいたい、という思いはあったはずだ。無投票再選というのは、この期待を裏切ったということでもあるのだ。

 石破茂地方創生担当相は、前回総裁選では僅差の敗北だった。それがなぜ今回、立候補を見送ったのだろうか。「大人の判断」ということだったのだろうが、天下を取るには安全運転だけでは無理である。時には無茶が必要なのである。小泉元首相は、敗けても、敗けても総裁選に出馬し、ついに総裁の座に就いた。この闘う意思がなければ、有力候補で終わってしまうだろう。

 いつまでも自民党一強体制が続く保証はない。政治も、国民もそう甘くはない。安倍路線の転換も必要になってくるだろう。その時には、女性の力や若い力が期待される。自民党には、小泉進次郎氏など若手の有力政治家も育っている。安倍政治は、いささか暗さがある。女性首相や若い首相の誕生を期待したいものである。