馬淵澄夫(衆議院議員)

 自民党総裁選告示日の9月8日、安倍晋三総裁に対抗してただ一人、出馬意向を示していた野田聖子氏が断念の表明を行った。これにて総裁選は安倍候補一名となり、安倍総裁の無投票再選が確定した。

 先週火曜日夜の段階で、野田氏が親しい関係者に「推薦人20人確保の目処がついた」と伝えたと仄聞していたのだが、その後の野田陣営に対して、官邸からの激しい切り崩し工作があったのは想像に難くない。

 8月中旬、安保法制審議が滞りつつある中、当初総裁選のシナリオについては以下のものが優勢だった。

記者会見で自民党総裁選への立候補断念を表明し、残念そうな
表情の野田前総務会長=2015年9月8日午前、国会
 それは総裁選で官邸側はリベラル色の濃い候補者を擁立させて、全国を総裁選報道でメディアジャックし、自民一色の政治状況を国民の前に示し、最終的に安倍総裁が勝利する-というものだった。このシナリオでも野田氏が候補者として想定されていた。そこでの戦略は、総裁選の結果としては、リベラル候補者は健闘むなしく敗北するものの、自民党の幅広さと懐深さを演出し、国民世論を引きつけ、これにより政権支持率の回復と安保法案の成立を目指すというものであった。

 しかし、安保法制審議がいよいよ膠着してきた先週来より意識されてきたのが、野田氏出馬がそもそも「倒閣」を意味することになる、というシナリオであった。盆明けからの安保法制審議は、閣僚答弁の不安定さが増す中、併せて「国会軽視」と野党が攻撃材料とする防衛省内部資料等が次々と明らかになり、審議がたびたび中断の状況に追い込まれている。今日現在で、公聴会の日程すら入らず、また、今週には派遣労働法の参院での強行採決が予想され、安保法制審議の日程は極めてタイトとなってきた。このタイミングでの総裁選実施は、安倍再選を阻むどころか野党にとっては安保法制審議を完全にストップさせる絶好の口実となる。つまり、野田氏が出馬をすれば、すなわち与党総裁選が倒閣運動そのものになり得ると言うことである。

 さすがに、これはあるまいと思っていたのだが、今日のこの無投票再選という結果は、官邸の危機感が上記二つ目のシナリオを十分視野に置く水準にまで達してきたという証だ。

 安保法制は、鴻池祥肇委員長の「参院で決する」との決意は固いと言われているが、官邸は「みなし否決」を適用した衆院での再議決も視野に入れはじめた。国会会期末を27日に控える中、現時点で想定される日程は15日の公聴会、それも地方公聴会を開かずに中央だけのもの。そして翌16日の委員会採決を狙っているとも言われているが、さすがに地方公聴会も開かずに、というのは野党の反発が大きい。その場合は、衆院差し戻しも現実のものとせざるを得ない。安倍総理は26日から国連総会に出席予定であり、9月19日からの5連休、シルバーウィーク明けの二日間での議決は、野党からの不信任の連発などがあればあまりにも危うい日程となってしまいかねない。場合によっては連休中の国会開会も検討しているという話だ。従って、安倍総理の総裁再選後の仕事は、極めて厳しい国会運営が待ち受けていることになる。

 さて、こうした状況での今後の安倍総理であるが、まずは強行採決で行われるであろう安保法制採決、そして閉会後の大幅な内閣改造による支持率復調を当面の目標とするだろう。すでに維新の党の分断によって年内の野党結集の芽は摘まれた。つまり、いつ解散しても与党勝利は確定的と考えているだろう。また、維新についても大阪維新は市長、知事のダブル選の結果いかんでその勢力が定まるところを見定めるだろう。その段階で、大阪維新が与党の補完勢力になり得るかどうかがはっきりとしてくると思われる。

 さらに来年の参院選では憲法改正、そしていつどのタイミングで飛び出すかは微妙だが、先の消費税引き上げによる景気の低迷を受けて、17年4月の2%の再引き上げについて「凍結」を発表して解散と言うことも十分考えられる。

 つまりは16年の参院選後に安倍総理の消費税凍結による2度目の解散の可能性があるということだ。

 このように考えると、政権側は常に権力の保持、維持に執着するものであり、安易な退陣論は野党にとっては政局を甘く見誤る恐れがあることを肝に銘じるべきである。

 このように、安倍政権の長期化を図ろうとする官邸と、それに対抗・拮抗しようとする自民党内リベラル勢力の台頭がどれほどのものとなるのかが、残念ながら野党が絡む余地のない与党内政局だ。

 自民党内でも、かつての55年体制がそうであったように、党内における疑似政権交代で国民の支持を長きにわたって取り付けてきたが、今回の安倍対立候補の擁立失敗劇を見ると、そのエネルギーが弱まっているように見受けられる。穏健保守派の筆頭格である宏池会(岸田派)の動きの鈍さや、あるいは野田氏を支えるとされていた議員らのエネルギーの欠如を見ても、疑似政権交代を図れる体制にはもはやないと思われる。

 その場合には、ポスト安倍はむしろこうした思想対立よりも安倍総裁一強支配による膠着状態に不満のエネルギーを募らせている当選回数の浅い若手が中心となる世代間対立が、より鮮明になるのではないか。結集が滞っている野党にとっては、この新世代に政権が移る自民党の方が、より脅威だと考えるべきだ。

 こうしたポスト安倍に対抗するためにも、我々も世代間対立を乗り越え、かつ野党の結集を念頭に、現実的な再編とニューリーダーの創造に全力を尽くさなければならない。