正直わかりにくい安保法制案


 私は今回の執筆依頼を受け、改めて安保法制案を読んでみましたが、正直わかりにくいというのが第一印象です。だいたい法律というものは、法律家や学者の商売ために、わざと素人には解りにくく作っているのではないかと思うほど、ややこしい書き方をするものですが、特に今回は、長ったらしい名前の法律を一挙に20本(そのうち10本は技術的な改正)も改正し、更に1本を新規制定するため、法令を読むことに慣れていない人にとっては、法律の名前を読むだけで疲れてしまうほどで、この法案を熱心に賛成や反対する人でも、この21本の法律の名前すべてを言える人は、そうそういないでしょう。

 そこで「このように多くの法案をまとめて審議するのは乱暴だ」という批判的な意見が出てくるわけです。確かに実際、法案を読むだけで、かなりの時間と労力を要するので、そうやって批判したくなる気持ちは解らなくもないですが、それは自衛隊の行動が多くの法令により規制されているため、やむを得ないことなのです。

 自衛隊が日本の法令上、軍隊ではないために、何をするにも法的な根拠が必要となり、活動の幅が広がれば広がるほど関連する法令も増えていき、それが相互に絡み合っているため、自衛隊の行動範囲を広げるために法律を改正しようと思えば、一つの法律だけではなく、関連するすべての法令を改正しなければなりません。そのような場合、たくさんの関連する法案を一つ一つ審議することは非常に効率が悪いだけではなく、同じような内容の法律をまとめて審議せずバラバラに採決した場合、万が一法案の成否がわかれれば、法律間で齟齬が生じたり、本来あるべき規定が制定されないために自衛隊の行動が制限されたりするなどの不都合が生じ、法改正が逆効果になってしまいかねません。だから関連法案をまとめて審議採決する必要があるのです。

 そもそも、自衛隊の行動基準を世界標準のネガティブリストにするだけで、このような煩雑な法改正に伴う国会の無用な審議は不要となるだけではなく、一円の予算も使わずに我が国の侵略国家に対する抑止力は飛躍的に向上します。更に国際的な貢献を積極的に行えるようになり、日本国憲法前文にある国際社会における名誉ある地位を占めることも可能になるはずです。

 ただ、それには憲法を改正し自衛隊を法的に軍と認める必要があります。そうすれば現在、自衛隊が抱えているほとんどの問題は解決するでしょう。いずれにしても日本国が一人前の国となるために憲法改正は避けて通れない道であることは間違いありません。
 
 話を安保法制に戻しますが、この法案の正式名称は「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」というものです。この長ったらしい名前だけでも、あまり法律に縁のない一般の人たちにとっては敷居が高いと思われ、法案を読まずにイメージだけで判断するのも、ある程度やむを得ないのかもしれません。

テレビ中継が入り行われた参院平和安全法制特別委員会。民主党の櫻井充氏の質問に答える安倍晋三首相(左)=2015年8月4日(斎藤良雄撮影)
 こういう時こそ、マスコミは国民の知る権利に応えるという本来の役目を果たすべく、詳細な解説を行って広く法案の中身を周知すべきなのですが、逆に法案が解りにくいのを良いことに人々の不安を煽り、荒唐無稽な反対論を流布しています。野党も同様に、これを政争の道具として感情的に反対のための反対を繰り返し、本当に議論しなければいけないことを放置したため、この法案自体が不完全なまま採決されようとしているのが今の日本の現状です。

成立してもほとんど何も変わらない


 今回の法案を一言でいえば「戦争法案」や「平和安全法制」などという大したものではなく、「今までできなかった当たり前のことを、多少なりともできるようにする法案」とでも言いましょうか、いずれにしても、この法案が成立したところで、ほとんど何も変わらないでしょう。我が国の最重要課題である拉致被害者を取り返すことや領海に侵入してくる侵略国の公船を追い払うこともできません。
 
 ただ、日本が行うことのできる国連等の国際支援活動の幅が少し広がるとともに
 
 今まで
 
・我が国の存立が脅かされても、直接の武力攻撃を受けなければ反撃ができない
・在外邦人の保護ができない
・同じ任務に就いている人間でも他国の人間であれば防護できない
・自分に関係のない人間は見殺しにしなければならない
 
 などなど、普通に考えれば、ありえない話が、少しマシになるだけのことで、それを「戦争ができる国になる」「自衛隊員のリスクが増える」「徴兵制になる」などと本気で言っているとすれば、この法案を読んでいないか、よほど理解力がないかのいずれかです。

 百歩譲って仮に日本が戦争のできる国になったとしても、困るのは日本を敵視する国だけで、日本と共に侵略国家と戦おうとしている国は、日本が戦える国になることを歓迎しています。今回の法案で日本が戦争のできる国になるなどというのは過大評価もいいところですが「戦争のできる国でなければ戦争を止めることができない」というのも、残念ながら今の国際社会の真実です。「日本を戦争のできる国にはさせない」と言うのは「日本は国民の命や自由、領土が奪われても何も出来ない国のままでいろ」と言っているのと同じことなのです。

 今回の法改正で自衛隊の活動の幅は一見広まりますが、武器使用などについては依然として厳しい制約があり、まだまだ自衛隊が実力を十分に発揮できる環境には程遠いのが実情です。しかし、今まで自衛隊が全く出来なかったことをほんのわずかとはいえ出来るようにし、多少なりとも活動の幅を広げたことについては評価に値すると言えます。