南西諸島防衛に加えて、「北朝鮮崩壊」を含む朝鮮半島危機にも備えなければならない段階にきている。万一の場合に、菅直人首相(64)が率いる民主党政権や各政党に、きちんと対応する能力があるのかどうか。不安は募るばかりだ。

ゲーツ発言の真意は

 米国のゲーツ国防長官(67)は16日、米下院軍事委員会の公聴会で米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設について「今春終わりごろまでの解決を望んでいる」と述べた。

 これに対し菅首相は17日、首相官邸で記者団に「期限を切るということではありませんが、昨年5月28日の日米合意を踏まえて、沖縄の皆さんに誠心誠意理解を求めていくことは変わりません」と述べ、今春を期限とはしない考えを改めて示した。

 民主党政権内には、春の大型連休中の日米外務・防衛首脳会談(2プラス2)や6月の首相の米国訪問と、普天間問題の決着の切り離しを米国は容認しているとの見方が広がっている。今回の発言にしてもゲーツ氏が「沖縄(との協議)がどうなるか明確にならないと海兵隊のグアム移転を前に進められない」と議会に説明した方に重点があるとみているようだ。

 これにはゲーツ氏が1月13日、防衛省で行った北沢俊美防衛相(72)との会談後の共同記者会見で、普天間移設について「日本の国内事情が非常に複雑だと米国は理解している。日本側の指導に従って、それに関しての行動をとる」と繰り返したことが背景にある。

 民主党外交安全保障調査会事務局長の長島昭久衆院議員(49)はツイッターで次のようにつぶやいた。

 「(ゲーツ氏発言の)背景には、朝鮮半島情勢の緊迫化と中国の動向があることは間違いない」(1月14日)

 「ようやく普天間移設と同盟深化のプロセスを切り離した菅政権の努力も認めてやってはいかかでしょうか?」「我々にとって貴重な『時間』を手に入れたということです。もちろん無限ではありませんが」(いずれも1月15日)

米韓演習のシナリオ

 米統合参謀本部が今月8日に公表した「国家軍事戦略」は北朝鮮について「核能力や潜在的に不安定な権力継承は地域の安定や国際社会の核不拡散努力に悪影響を与える危険性がある」と指摘した。

 米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長(64)は昨年12月8日、韓国軍の韓民求(ハン・ミング)合同参謀本部議長とソウルで会談し「日米韓3国合同軍事演習」の必要性を訴えた。異例の要請であり、日韓とも及び腰だが、両国の難しい歴史的関係を知る米軍部があえて持ち出したのは、よほど危機感を持っているからだろう。

 今月18日から米韓合同軍事演習が始まった。米空母や両軍の20万人以上の兵員が参加する大規模なものだ。北朝鮮に核、生物、化学兵器といった大量破壊兵器を使用させないよう米韓両軍が対処するシナリオが新たに入った。

 北朝鮮は韓国正面の38度線に大量の兵力を貼り付けているが、中朝国境はがら空きも同然だ。

 ある自衛隊幹部は「金正日(キムジョンイル)総書記(69)でさえ権力掌握に長期間かかった。後継者の三男、正恩(ジョンウン)氏(29)は若すぎるし、父親の体調からみても時間が足りず権力継承はうまくいかない。このままでは北に中国の傀儡(かいらい)政権が生まれ、中国軍が38度線までを支配下におくのではないか。安全保障環境が激変する」と懸念する。

 南西方面での対応すらおぼつかない日本は、中国の一層大きな軍事的圧力にさらされかねない。

 北朝鮮の混乱や崩壊があれば、北による大量破壊兵器の使用や拡散を防ぐため、もう一つは北が中国の完全な影響下に入ることを防ぐため、米韓軍は38度線以北に進攻するだろう。米海兵隊も重要な役割を果たすことになる。

 起きてほしくはないこととはいえ、邦人救出や弾道ミサイルからの国民の防護、難民対策、工作員の制圧、核攻撃の恫喝(どうかつ)への腹構えなど備えるべき課題は多いが、日本の危機感は薄い。かろうじて防衛省で、自衛隊の米軍への洋上補給が可能な範囲を、領海だけでなく公海へ拡大する周辺事態法の改正論が出てきた。朝鮮有事や中台有事の際、日米同盟を維持する上でも現周辺事態法は役立たずだからだが、崩壊間際の菅民主党政権では何もできそうにない。
(政治部 榊原智)