石川温(ケータイ/スマホジャーナリスト)

 いよいよ9月25日に発売となるアップル「iPhone 6s」と「iPhone 6s Plus」。一部では「世界で過去最高の予約数を達成した」という報道もあるなど、今年も大ヒット間違いなしとなりそうだ。

 しかし、この「過去最高の予約数」という言葉を鵜呑みにしてはいけない。なぜなら、アップルはiPhoneの新製品を発売する毎に、初日に販売する国を増やしている。

 しかも、今年はアップルにとって最大のマーケットである中国が初日の販売国に名を連ねている。いま、中国の人にとってiPhoneは「富の象徴」とも言える存在であり、お金に余裕のある人たちは我先にとiPhoneに飛びつく。つまり、去年に比べて中国市場が初日販売に仲間入りしたことで、「過去最高の予約数」は必然のものと言えるのだ。

 とはいえ、iPhoneの人気が高いのは何も中国に限った話ではなく、日本での人気は世界でも類を見ないほどといえる。なぜ、こんなにも日本人はiPhoneが好きなのか。

 当然のことながらiPhoneの操作性が良く、またアップルが作り上げたイメージにより、「iPhoneは使いやすくて、持っていると格好いい」からと、iPhoneを購入している人が多い。ただ、それだけでここまで日本でiPhoneが突出的に人気になるのは難しい。

 アップルが上手かったのは、やはり日本で最初にiPhoneを扱ったキャリアをソフトバンクにして、独占的に販売させたというのが大きいだろう。

米アップルのスマートフォン「iPhone 4S」の予約受け付けを前に、端末価格と料金を発表するソフトバンクの孫正義社長=2011年10月7日、東京都港区(高橋朋彦撮影)
 当時のソフトバンクは、「ホワイトプラン」という低料金プランで攻めていたが、なかなかNTTドコモやKDDIに追いつくのが難しかった。そんななか、iPhoneという武器を独占的に手に入れたことで、徹底的に販売キャンペーンを行って、一気に契約者を奪っていったことは記憶に新しい。

 さらに、アップルは通信技術の進化により、次にKDDI、2年前にNTTドコモといったようにシェアの小さいところから、日本で取り扱わせることにした。当時、NTTドコモは、自分たちのサービスを載せられないiPhoneを敬遠していたが、最後は押し切られる形でiPhone導入をせざるを得なかった。アップルの巧みなキャリア選定が、結果として日本でiPhoneを普及させるのに成功した。

 また、3キャリアで同じiPhoneを扱うことで、キャリア間での料金やキャンペーンが過熱したのも、iPhone人気を加速させることにつながった。

 iPhoneがLTEに対応すれば、各社でLTEネットワークの広さや速度などの品質を争うし、古いiPhoneを下取りするキャンペーンが始まれば、各キャリアで一斉に導入が進む。

 最近でもKDDIが月額2700円の音声通話かけ放題プランを1700円に値下げすれば、その日のうちにソフトバンク、翌週にはNTTドコモが追随してきた。

 iPhoneが発売されるタイミングに合わせて、各社のキャンペーンが盛り上がる。

 ユーザーの立場とすれば、iPhoneが発売されるタイミングにiPhoneを購入すれば、値引きされるなど、得する機会も多くなる。例えば、iPhoneを使っていれば、次の機種変更の時にiPhoneを下取りに出すと高く買ってくれることがほとんだ。

 つまり、「Androidを買うよりもiPhoneのほうが得」という結果となり、さらにiPhone人気が高まるのだ。

 また、日本人は「自分だけ違うもの」を持ちたがらない傾向にある。まわりでiPhoneが普及すれば「自分もiPhone」という空気に流されるかたちで、商品選びをする事が多い。iPhoneが普及したことで、さらにiPhone人気に拍車がかかるというわけだ。

日本でも毎年、気軽に新型iPhoneが手に入る?


 今年からアップルは、米国で「アップグレードプログラム」という仕組みを開始する。毎月、数千円を支払えば、1年ごとに新製品のiPhoneを手に入られれるというものだ。いままで使っていたiPhoneは回収されてしまうが、手軽な出費で、毎年、新製品が手に入るというのはユーザーにとってもメリットは大きいだろう。

 日本でも、KDDIを筆頭に各キャリアで一定額を支払うことで、18カ月毎に新製品が手に入る仕組みが始まっている。この9月からは18カ月から12カ月で新機種にできるキャンペーンも導入されている。

 つまり、日本でも「1年ごとに新製品のiPhoneを使い続ける」という環境が整いつつあるのだ。

 実は1年間使い続け、回収された中古のiPhoneは整備されたのち、中国やアジアなどの新興国に転売されているという。

 新興国では新品のiPhoneは高くて手が出ないが、中古品だったら何とかなるとして、人気の商品となっている。

 新品のiPhoneは富の象徴であるが、中古品ならば手に届く人もいるというわけだ。もしかすると、中古のiPhoneを手にした人が、裕福となり、翌年には新品を買うかも知れない。

 アップルとしては、単にハイエンドモデルとして世界で販売しているだけでなく、中古品を流通させることで、ユーザー層の拡大に力を入れているというわけだ。

 このような仕組みは、世界的に同じモデルが流通し、リセールバリューの高い商品だからこそ、実現できるエコシステムと言えるだろう。

 世界中のキャリアをコントロールしつつ、世界規模で製品を流通させているアップル。iPhoneの世界的な人気はしばらく安泰と見て良さそうだ。

いしかわ・つつむ 日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、日経TRENDY編集記者として携帯電話業界などを取材し、2003年に独立、フリーランスに。現在は国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップル、海外メーカーなども取材。主な著書に「iPhone5で始まる! スマホ最終戦争」(日本経済新聞出版社)。