「一度に2つ、3つのことができない人はリーダーになるべきではない」。自民党の伊吹文明元幹事長(73)が、東日本大震災と福島第1原発事故の対応に手いっぱいで、外交や経済をおざなりにしている菅直人首相(64)をこう批判した。これは、憲法論議をめぐって煮え切らない民主党にもあてはめていいだろう。憲法問題や憲法改正原案を審議する参院憲法審査会の規程制定に賛成したものの、民主党の参院執行部は震災や原発事故を理由に、肝心の審査会委員の選任に前向きではないからだ。

2つの動き

 民主党は2007年の国民投票法の衆院採決が強行採決だったことを理由に、「与野党間の信頼関係がなくなった」として憲法への取り組みを怠り、07年の参院選以降は党憲法調査会も廃止していた。ところが今年5月に入って憲法問題で2つの動きを見せた。

 1つは、5月10日の党常任幹事会で党憲法調査会を復活させ、会長に前原誠司前外相(49)を充てたことだ。

 さらに、参院憲法審査会の審査会規程に賛成した(5月18日の本会議で可決)。これで衆参各院の審査会規程が出そろった。

 一見、民主党が憲法問題に積極的になったかのように見える。共産党は「前原氏会長で改憲大連立狙う。民・自中心に議論始める態勢づくり」(5月11日付「しんぶん赤旗」)と警戒をあらわにしている。

 前原氏は24日昼、衆院第1議員会館の自室で、当選1回の民主党衆院議員5、6人と憲法について意見交換した。

 「私たち1回生の多くは保守系だ。党内の空気は変わったと思います」との出席者の声に前原氏は聞き入った。

 民主党の保守系議員は「昨年の武器輸出三原則見直しは『当然やるべし』という声が9割だった。憲法論議だって意外とスルスルいくんじゃないか」と語る。

 定住外国人に対する地方選挙権(参政権)付与への賛成論者で、法律が禁ずる在日韓国人からの献金を受け取っていた問題で外相を辞任した前原氏が保守政治家といえるのかはさておき、前原氏が憲法論議に前向きなのは間違いない。

 民主党の憲法調査会や衆院憲法調査会の幹部を長く務めながら、実際のところは憲法改正にブレーキをかける「遅滞戦術」をとってきたとさえ思える枝野幸男官房長官(46)と仙谷由人官房副長官(65)が政府入りしていることも、憲法論議を進める上ではプラスかもしれない。

果たして本気か

 ただ、前原氏が登場しても民主党の本気度は疑わしい。

 「憲法は大変大きな問題で落ち着いた時にしっかり議論するべきだ。大震災、原発問題が収束していない状況下で、落ち着いた議論ができるのかを考えると、なかなか難しいのかなと」

 25日の記者会見で、参院憲法審査会の委員選任をするのか問われた民主党の羽田雄一郎参院国対委員長(43)はこう述べ、否定的な考えを示した。

 さらに羽田氏は、衆院側と協議を進める考えを示しながらも「野党との協議も大変ハードルが高くなっている。そういう中で進めていくのがいいのか、党内議論もしっかりしながら進めていきたい」と述べた。国会での与野党対決ムードを委員選任に消極的な理由に挙げたのだ。

 審査会始動を願う民主党の衆院若手は「障害がある。ずばり、輿石東(こしいし・あずま)参院議員会長(75)だ。民主党が参院で審査会委員を選ぶのかは、あの人にかかっているが、なかなか動かない。(説得は)前原さんの役目だ」と語る。

 参院のドンの輿石氏は旧社会党出身で日教組の政治団体「日本民主教育政治連盟」会長だ。憲法改正を望んでいないのは明らかだ。岡田克也幹事長(57)も憲法論議にとりたてて熱意があるわけではない。民主党には、衆院の内閣不信任案や参院の首相問責決議案の採決で社民党を敵に回したくない事情もある。

 自民、民主、みんな、国民新、たちあがれ日本など各党の有志国会議員は6月7日、憲法96条改正推進議員連盟を結成する。

 改憲案の発議要件を「衆参両院の各3分の2以上の賛成」から「両院の各過半数」へ緩和することを目指す。自民党は100人以上が参加の予定だが、焦点は民主党議員の参加規模だ。多ければ「審査会委員選任の呼び水」(自民党中堅)になる。

 内政にも外交にも閉塞感が漂っている。戦後体制は行き詰まっており、現行憲法に手を触れないままいくら改革を叫んでも世直しは成功しない。民主党が憲法審査会の始動にストップをかけ続けるとしたら、「主権者」の国民投票の権利を封印するのと同じだ。そのような政党が「民主党」を名乗るのは悪い冗談になってしまう。
 (政治部 榊原智)