林信行(ITジャーナリスト)

 日本は他の国々と違ってAndroidよりもiPhoneの人気が高い。このことからよく日本人はiPhone好き、アップル好きと言われる。その理由は色々あると思う。

 最も美しい答えは、iPodやiPhone、Macなどのアップル製品のシンプルで洗練されたデザインが、審美眼に優れた日本のユーザーに受け入れられているから、と言うもの。

 筆者もある程度は、この答えを信じたい。加飾を嫌い、余計な要素を徹底的に排除しつつ、質を磨きあげたアップル社のミニマリスティックなものづくりの姿勢。そこから生み出された製品の美しさは、本来、誰よりも日本人にアピールするものだと思う。

 今や世界的ブランドとなったMUJI(無印良品)などが描く「用の美」とも通じるところが多い。

 しかし、現代の日本のマス(大衆)がそうした感性を備えているとは思わない。KDDIはiPhone登場前から、美しいデザインにこだわった携帯電話をいくつも出してきたが、出荷台数は醜悪な機能詰め込み型より常に1桁ほど少ない。多くの人々は携帯電話を美しさよりも、機能の量や価格の安さで選んでいる。

 そんな現代日本で、iPhone人気に真っ先に火がついたのは、電車で言えば東急の東横線沿線や、駅で言えば表参道駅などクリエイターやファッションリーダー系が多いエリアからだ。嗅覚が鋭く、文化的影響力を持つトレンドセッターが、好んでiPhoneを利用したことが、多くのフォロワーを生み、iPhoneをマスへと押し広げる推進力となった。

 これに関してはスターバックスコーヒーなどの「場」も重要な役割を果たしていそうだ。トレンドセッターが、こうした公共の場でiPhoneやMacBook Airを使ったことが、iPhoneだけでなくMacBook Airのイメージアップや売り上げにも貢献したはずだ。

 さらに「価格」という要因も関わってくる。iPhoneは海外では高価なスマートフォンとしてアップルが盗難防止機能を搭載するまでは盗難される率も高かった。しかし、日本では真っ先にiPhoneの販売に着手したソフトバンクが、販売2年目から実質価格0円も含めた戦略的な価格付けを開始した。その後、iPhoneの取り扱いを始めたKDDIやNTTドコモも、必然的にそれに追随せざるを得ない状況になった。

 このためiPhoneは「美しい」、「機能や性能のバランスがいい」という2つの特徴に加え、日本に限り「値段も安い」という3拍子が揃った。

 これに加えてAndroidよりも面白いアプリがたくさんあることがテレビなどでも紹介されたり、ミニマルなものづくりなだけに、カバーなどをつけて簡単に自分好みに装飾できる魅力がファッション雑誌などで広がったり、周辺機器やアクセサリーが充実していることがIT系の媒体で広がったりと言った形で人気は加速していった。

 こうしてある程度まで人気が広がった後は収穫逓増の原理が働く。周りがみんなiPhoneを持っているのだから、何かトラブルがあったり充電ケーブルを忘れた時でも、学校や職場で利用者が多いiPhoneを選んでおけば、すぐに助けが得られる(おまけにiPhoneを選んだ方が値段も安い)。

 現在では、女子高生の間で何らかの理由によりiPhone以外のスマートフォンを持っていると同情されるという話も一時、インターネットで話題になった。
米アップルが発表した新型スマートフォン「iPhone 6s」(手前)=2015年9月9日、米サンフランシスコ(共同)
 iPhoneなら見た目もよく、機能(特にカメラ機能)が優れ、値段も安く、周りのみんなが持っていて、それでいて皆と同じにならないようにカバーなどのアクセサリーで個性を出すこともできる。こうした状況下では、よほど特殊な理由やこだわりがある人でもない限り、あえて他の端末を選ぶ人は少ない。

 ただ、こうしてiPhoneが普及してきたことによって、多くの人々がアップルが目指す「質の良さ」がどういうものかを感覚として身につけ、評価するようになった面もある。これがiPhoneだけでなく、MacBook Airに代表される、その他のアップル製品の人気にも寄与したし、英ダイソン社の扇風機や掃除機といった商品の人気の高まりにも貢献したのではないかと思う。

 日本の家電製品はというと、かつてはアップルにも影響を与えたソニーの製品が、優れたデザインで世界を魅了していた。しかし、お膝下の日本では90年代以降、こうした製品の売られる場所が大量の商品在庫と安値販売を目玉にした家電量販店に変わり、製品が赤や黄色のドギツイ色の値札や強すぎる蛍光灯の光の下で陳列され、外観よりも製品に貼られた商品説明に書き込まれるスペックの(質ではなく)量で競うようになってから、まっとうな良いものづくりができなくなってしまった。

 アップルのものづくりにはこうした日本的なコンテクストは関係なく、商品の人気を武器に「販売したいならば」と売り場での展示方法までアップル流に変えてくる。こうした企業としての姿勢や、実際の展示の美しさもアップル人気の一因となっているはずだ。

 このようにアップル人気の理由はさまざまな要因が複雑に絡み合っていて、どれか1つに集約するのは難しいが、あえて一つにまとめるとしたら「真摯に良いものをつくり、売るときにもベストを尽くす」ーーこの製造業の基本中の基本をごまかさずに正面から貫いていることではないか。

 そして、そんなアップルがこの日本で何故人気なのかと言えば、他の日本のメーカーが、90年代の変な合理化のせいで、まっとうなものづくりができなくなってしまっているからではないだろうか。iPhoneを好む一方で、日本メーカーの復権を心待ちにしている人も少なくないと思う。