岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

 来年11月の大統領選挙に向けいまアメリカでは共和党の討論会が始まり、10月には民主党のそれもスタートする。

 現在は候補者絞り込みの“Vetting process”。それぞれの政党がもっともふさわしい候補者を選ぶためであるが、特定の立候補者に献金しようとする個人や団体が献金の無駄回避のためも含め、いわゆる「身体検査」=候補者適格審査の進行中。

 キャンペーンや集会などにおける立候補者の主張や討論の際の発言、質問への回答などが判断材料となり、世論調査が行われ、その時点での各党における各候補者の支持状況がわかる。8月末時点での各党のフロントランナーは、民主:クリントン(州によっては、サンダース)、共和:トランプの各氏である。

 これから何が起き、どう展開するのかを予測するのは難しい。誰が各党の大統領候補に指名され、選挙結果がどうなるか、わからない。しかし、大統領選出に向けての壮大なプロセスからは、アメリカ流の民主主義や「政治」を学ぶ多くの材料が提供されているように思う。日本に居て知りうるアメリカで流れているニュースをもとに―自分の英語力の限界を感じつつも、現状の一端を述べてみたい。
 論争の争点は、経済・財政、外交、移民・女性など広範にわたっている。いくつか具体例を挙げると、オバマケア(低所得者層が民間保険を購入する際に連邦政府が補助金を出す皆保険制度)、TPP、金融規制改革法(ドト・フランク法)や経済成長の数値目標、イランとの核合意、キューバとの国交回復、ロシアや中国への対応、不法移民問題、女性の妊娠中絶をめぐる問題、地球温暖化対策、教育改革、所得格差是正など。

 政治的にはoutsiderでstraight-talkerといわれているトランプ氏が多くの共和党支持者の支持を取り付け、共和党のfrontrunnerとなっていることがとても興味を引いている。Email疑惑で支持を失いつつあるクリントン氏との対比で考えると、トランプ氏の正直さが支持を得ている大きな理由の一つと言えそうだ。

クリントン氏のEmail問題


 同氏は、国務長官時代、official accountとprivate accountとを使い分けないで“convenient”(本人の発言)だから個人アカウントだけを使った、何も間違ったことはしていない、と言っている。
 
 国務省が認めたところによると、それは55,000ページあるとのこと。同省は、逐次、発表しているが、近時、そのメールのうち7,000ページを公表し、国務省Mark Toner氏は約150通は”classified”(機密扱い)と認定されたと言っている。クリントン氏は、いかなるclassified emailも送受信していないと否定しているが…
 
 Emailを把握し、政府内の情報機関が内容チェックし、公表する役所のあり方に感心するー日本の霞が関では想定できない。
 
 市民は、彼女が完璧にhonestとは信じられない、と言うし、批判者は、公的なアカウントを使わないことにより彼女のメールが野ざらしとなり(機密が保たれず)、ハッカーや外国のエージェントの好餌になったと非難している。(クリントン氏がprivate accountのみの扱いにしたのはオバマ氏にその内容を知られたくなかったためであると報道しているメディアもある。)
 
 最近の世論調査では、クリントン氏は5月以来民主党支持者の約20%を失ったと言っている。(このニュースは9月1日付VOA)

 Emailがこんなにも問題視されるのは、ネット社会になっている証左ともいえる。誰もがのぞき見されたり、突然に”炎上”の対象となったり、密かに対抗手段を講じられたりする。

 我々は成熟した自由な社会に生きている。誰もが自由に発言できるはずだ。しかし、今の日本では、特に有名人になれば、その一言や発言の一部が取り上げられ、メディアやネットの集中砲火を浴びる危険が高い。その結果、多くの人が八方美人的発言しかしなくなっている。

 この視点から、アメリカの政治現象を見ると、「政治」の世界だからなおさらかもしれぬが、歯に衣着せぬ発言が飛び交っている。
 
 特に、トランプ氏はbillionaireで自分のキャンペーンは自身でファイナンスできるので、つまりdonorsの献金に頼る必要がなく、献金者―特に大型献金する大企業などへの義理立てや遠慮は無用の立ち位置に居て、自身の信念を正面から言える。(トランプ氏の出現はアメリカにおける政治献金やロイビストの在り様を問いかけているのかもしれない。)

アメリカ国民、恐るべし!


 大統領選挙を通して実演されているアメリカ民主主義から学ぶべきものが多くあるように思う。

 民主主義を論ずるなら、お互い発言に対する寛容さを保ち、うそを言わず、なじるのではなく合理性に基づいて正面から論じ合う率直さを共有し、公開し、問題を自ら受け止め、自分の頭で考え、その考えに基づき自ら行動する当事者性・自律性と責任を持ちたいと、痛感するものである。

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