森口朗(教育評論家、東京都職員)

捏造朝日新聞の面目躍如


 平成27年は中学校の教科書採択の年であり、朝日新聞が最も嫌う育鵬社の社会科教科書が大躍進しました。歴史教科書で前回採択年(平成23年)の51%増、公民教科書でも34%増となったのです。

 朝日新聞はよほど悔しかったのでしょう。それを「育鵬社教科書、シェア微増」と伝えました。企業の売上が前回の集計時と比較して50パーセント増となっているのに、それを「微増」と書く新聞を誰が信用できるでしょうか?クレバーなビジネスマンならば、即日解約するでしょう。

 同じ趣旨で、朝日新聞を購読している人がいたならば、即日解約をお勧めします(心ある人は、慰安婦狩りを捏造するような新聞など既に解約済とは思いますが念のため)。

置き去りにされる94%の中学生


 具体的な数字としては育鵬社のシェアは、歴史教科書で3.7%から6.2%、公民教科書で4.0%から5.7%となったようです。

 育鵬社の教科書は、歴史教科書の記述があまりに日本のネガティブな側面を強調しすぎているという反省に立った教科書改善運動から誕生したものです。教科書改善運動で最大の焦点になったのが「従軍慰安婦」でした。当時はまだ、朝日新聞の一連の従軍慰安婦に関する記事が吉田清治氏の偽証言に基づいて書かれたことが明らかになっていませんでしたから、歴史教科書批判も

「日本政府が関与した証拠がない中で教科書に載せるのはいかがなものか」
「思春期の多感な時期に生徒に教育すべき内容ではない」

といった穏やかな内容だったと記憶しています。
育鵬社の歴史、公民教科書の東日本大震災関連の記述
育鵬社の歴史、公民教科書の東日本大震災関連の記述
 しかし、従軍慰安婦の強制連行が朝日新聞の捏造、少なくとも誤報であったことが明らかになったことで、ほとんどの教科書から「従軍慰安婦」の記述が削除され、今回の教科書採択では大きな争点になりませんでした。

 本当にそれで良いのでしょうか?私は、今回の採択こそ「従軍慰安婦」が焦点になるべきだったと思っています。捏造された歴史を書き続けてきた教科書と、それに批判的だった教科書、教育委員会の委員達はいったいどちらを選択するつもりなのだと。

 朝日新聞は遅きに失したとはいえ、また、故意の捏造であると認めなかったとはいえ、「誤報」を謝罪しました。ところが、教科書会社は一切謝罪していません。強制連行がなければ「慰安婦」はただの「売春婦」です。戦場に売春婦がいた、それだけの事実をあたかも日本政府が朝鮮人に酷い仕打ちをしたように教えられた中学生はどうなるのでしょう。

 私は育鵬社の教科書が6%前後のシェアを占めたことを素直に喜んでいます。ですが、未だに94%の中学生が、過去の「慰安婦」記述について謝罪さえしない出版社の教科書を使っていることに危惧を覚えずにはいられません。

日本人分断プロパガンダに好都合な他社教科書


 「慰安婦」記述を横においたとしても、歴史教科書にはまだまだ見過ごせない点があります。その最たるものが縄文文化に対する記述です。縄文土器は現在判っている世界最古の土器であり、縄文文化は世界最古の文化です。それは日本人としてとても誇らしいことですが、より重用なのは縄文土器が「北海道から沖縄まで日本列島全体から出土して」いる事実です。ところがそれを書いている教科書は育鵬社しかありません。育鵬社教科書では、その事実から縄文時代が「その後の日本文化の基礎」になったと説きますが、他の教科書は和人とアイヌ、「やまとんちゅう」と「うちなんちゅう」が同じルーツである事実にほとんど触れていません。

 現在、日本を巡る国際情勢で最も深刻な課題は、中国が尖閣列島への侵略を試みている点ですが、中国の本当の狙いは沖縄諸島です。2010年に中国で吹き荒れた反日デモでは「琉球回収、沖縄解放」という横断幕が掲げられ、2011年には中国人民解放軍の幹部が「琉球諸島は日本の領土ではない」と発言しており、彼らは領土的野心を隠そうとしていません。

 この動きを封じるには、安全保障政策が最重要ですが、私たち日本人自身が「沖縄は紛れもなく日本の一部である」という自覚を持つことも同じくらいに大切です。そのためには学校教育において、「やまとんちゅう」も「うちなんちゅう」も同じ日本人であるという意識を育まなければならないはずなのに、他社の教科書では「日本人と琉球人は別の民族だ」という日本人分断プロパガンダを受け入れる土壌を育んでしまうのです(もっとも、幸いなことに、近年の研究でDNA的にも言語的にも沖縄人は日本人の一部であることが解明されつつあります)。

教職員組合に屈せず、まともな教科書を


 教科書改善運動は、今まで大きな成果をあげてきました。平成13年度における扶桑社の歴史教科書の採択数は全国でたったの450冊でした。それが平成27年には扶桑社の子会社である育鵬社の歴史教科書が72410冊も採択されています。14年間でなんと160倍にも成長したことになります。

 しかし先にも述べたように、全国では未だに94%の中学生が、若干薄められたとはいえいわゆる「自虐史観」に彩られた歴史教科書で授業を受けているのです。その最大の原因は、「戦争賛美」というデマを撒き散らす、教職員組合により採択妨害行為にあることは自明です。今回の採択妨害では、「戦争賛美」に加えて「受験に不利になる」「安倍政権の広報誌」「ヘイトスピーチの一種」といった誹謗中傷まで彼らは行いました。

 私は改めて、次回採択時にはこういった行為を規制する必要があると感じましたが、それとは別に各自治体の教育委員達の無自覚、無定見も見過ごせません。

 今回の採択では、文部科学省は事前に通知を出し、教員などによる下部機関に教科書の順位付け等を固く禁じていました。自らしっかりと教科書を読めば、どれが健全な中学生を育てるに適した教科書であるかは一目瞭然だったはずです。

 全ての中学生がまともな教科書で学習できる日が来るためには、教職員組合のデマに屈しないことはもちろん、「教職員組合が非難する教科書だからこそまとも教科書ではないか」と疑ってかかるくらいの常識的感覚を有する教育委員を選定することが何よりも重要なのです。

もりぐち・あきら 日本の教育評論家、東京都職員。95年~05年まで都内公立学校に勤務。偏差値で学力を測ることの妥当性と限界を明らかにした。紙媒体で初めてスクールカースト概念を紹介し、いじめとの関係を解明。著作に『日教組』(新潮新書)、『いじめの構造』(新潮新書)、『偏差値は子どもを救う』(草思社)などがある。