上海総合指数は昨年の6月から今年の6月までの間に、約2.5倍の5000ポイント台まで上昇した。しかし、その時点をピークに、6月、8月と立て続けに大暴落して、現在は3000ポイント台前半にある。

 大暴落の原因について、空売り規制だとか、人民元の切り下げだとか、あるいは江沢民率いる上海閥による空売り陰謀論だとか、いろいろなことが言われている。確かにそうかもしれない。とはいえ、これらはすべて本当かもしれないが、原因の一部でしかない。

 本当の問題は支那の経済構造がもはや限界にぶち当たっていることにある。いや、もうとっくの昔に、リーマンショックあたりから限界にはぶち当たり始めていた。しかし、そのことを隠蔽し、高度成長を演出するために、支那共産党は文字通りありとあらゆる「臭いもの」に蓋をしてきた。

 例えば、温州市で不動産バブルが弾けたのは2011年である。8月までは上海に匹敵する高値をつけていた温州のマンション価格は、10月に入り急降下した。このとき、支那共産党は金利減免や緊急融資などで臭いものに蓋をした。

 例えば、2013年6月に上海の銀行間取引金利(SHIBOR)が突如として9%まで急騰した。通常銀行間の取引金利は市中金利の中でも最も安いはずだが、それが9%という異常値を示した。支那ではこういう信じられないことがたびたび起こる。あの時、銀行のATMから引き出しボタンが消えるなど、すわ金融危機発生かと思われた。しかし、この時も支那人民銀行が流動性を供給したことで当面の危機は去った。またしても臭いものに蓋をしたのだ。

 例えば、2014年1月に中誠信託が販売した30億元(約600億円)の理財商品が償還できなくなるという事態に陥った。この理財商品の投資先である非上場の石炭会社「山西振富能源集団」の経営が思わしくなくなったのがその原因だ。しかし、この時も謎の投資家が突如として現れた。謎の投資家は山西振富能源に巨額の資金を出資し、約700人の信託委託者が手にする株式を買い取ることで臭いものに蓋をした(おそらく謎の投資家の中の人は共産党の密命を帯びていたのであろうと言われている)。

 例えば、上海超日太陽能科技(太陽光電池・パネルメーカー)が、2014年3月7日に償還期限を迎える社債について、利息支払い分の4%程度しか資金調達ができていないことを発表した。この時は謎の投資家は現れず、そのまま社債のデフォルトをやらかしてしまった。そして、3カ月後の6月27日、上海超日太陽能科技は破産手続きに入ると発表した。ついにこのとき、支那共産党には臭いものに蓋をしている余裕がなくなったようだ。

 このとき、支那共産党は思っただろう。「これ以上社債のデフォルトが続くと、企業が資金調達に困難を極め、倒産が相次ぐかもしれない」。そんなことになれば、株式市場までもがメルトダウンしてしまう。

 そこで、支那共産党は考えた。無理やり株価を上げて、企業の資金繰りを楽にしなければならないと。そこから始まったのがプロパガンダによって株価を上げるという毛沢東も真っ青の「大衆運動」である。共産党が株高を公認し、官製メディアを使って「株を買うことはいいことだ」という運動を繰り広げたのである。

 プロパガンダの効果はてきめんだった。株価の高騰によって、新興企業の株価は特に急上昇した。中でも株式を新規に公開するIPO市場は活況を極めた。子会社が運よく上場すれば、親会社の資金繰りの悪化は解決する。しかも、個人投資家はIPO銘柄で一攫千金を狙う。両者の利害が一致した。

 もちろん、こんなねずみ講は長続きしない。ファンダメンタルズを大きくかい離した株価はいつか調整される。6月から続く大幅な株安はまさにそれだ。しかし、ここでも支那共産党は臭いものに蓋をしようと悪あがきをした。公安警察を使って、株を売ろうとする人を取り締まるという荒業に出たのだ。デマを流したという理由だけで一般人の投資家も多数拘束されたという。しかし、今回もそれは通用しなかった。

 しかも、そんなことをやっているうちに、足元が危うくなる。人民元の為替レートを維持できなくなってしまったのだ。今年に入ってからの支那経済の弱さを確認した投資家は、今後は為替レートを維持するのは不可能と見抜いていた。だから、今年の8月上旬まで、実勢レートでは5%程度元安が進行していたのだ。

 そこで、支那人民銀行は実勢レートと公定レートの乖離を縮めるという大義名分の下、8月11日から3日連続で約5%の人民元切り下げを行った。ところが、誰もこの大義名分を信じなかった。支那経済は我々が想像している以上に悪化しているに違いないと多くの人が考えた。

 景気が悪化しているということは政府により財政、金融政策によるサポートが必要だ。ところが、為替レートを高めに維持するためには元の量を少なめに誘導しなければならない。為替レートはその通貨の希少性を示すものだからだ。しかし、元の量を減らせば経済はデフレ化する。まして、現在の支那は過剰な投資によって作られた設備が、想像を超える過剰生産によって在庫の山を築いている。モノはあふれるがお金が足らない状態、これがまさにデフレなのだ。デフレを脱却せずして景気の回復はあり得ない。だとすれば、高すぎる為替レートは早晩維持できなくなる。世界中の投資家はこう考えていたのだ。

 今回の人民元切り下げは、実勢レートと公定レートの乖離がある程度の大きさになると、公定レートが実勢レートを後追いする形で切り下げが行われるという悪い習慣を作ってしまった。投資家は高い公定レートで人民元を売り浴びせることで、実勢レートとの乖離を大きくする。結果としてそれは人民元の切り下げを促す。

 支那人民銀行がたまらず人民元を切り下げたら買い戻して大儲けできる。そして再び乖離が小さくなったら、即座に人民元を大量に売りを浴びせる。そうすると、またもや乖離が大きくなる。そして再び乖離がある程度の幅まで広がると、支那人民銀行が再び人民元の公定レートを切り下げる…。

 この悪魔のサイクルに入った国は例外なく通貨危機に陥る。イギリスのポンド危機も、アジア通貨危機もすべてこのパターンである。そう考えると、人民元の切り下げで臭いものに蓋をしたつもりが、逆効果になってしまった可能性がある。利に聡い投資家たちは、人民元の売買を大きなビジネスチャンスとして参入してきている。いわゆる投機家による売り崩しによって人民元は大暴落するかもしれない。

 ただ、ここで間違えてはいけないのは、支那における人民元大暴落は、日本における超円高の終焉と大幅な円安とは似て非なるものだということだ。日本はもともと変動相場制であり、日本銀行が望ましい為替レートを発表したり、管理したりはしない。日本銀行が明示するのは望ましいインフレ率の目標(インフレターゲット)である。現在、日本は日銀が掲げる2%というインフレ率をまったく達成できていない。ということは、2%を達成するまで円の増刷は止まらないだろうと投資家は考えている。円がたくさん刷られるなら円安が起こって当然だ。とはいえ、インフレ率が目標に達する段階になったら円の増刷は止まる。その時に円売りを仕掛ければ投資家は非常に痛い目にあうだろう。

 人民元の大暴落は経済の掟に反して為替をコントロールしたいと熱望する支那共産党に対する制裁である。日本でやっているリフレ政策とは全く次元が異なる。

 支那が本来やるべきは、投資を中心とした歪な経済構造の改革である。ところが、その構造の隅々に支那共産党の利権が染みついているのが問題なのだ。一党独裁を続けながら、その利権だけ排除することができるのか?もちろんそんなことは不可能だろう。だとすると、経済の不調は必ず政治問題に発展する。日本のような民主主義の国でないからこそ、そのリスクは重く見なければならない。この点について見通しの甘い人が多すぎる。