児玉克哉(三重大学副学長)

民間企業間でも抵触する贈収賄


 今年に入ってから中国のニュースでは毎日のように「重大な規律違反と違法行為」で様々な役人の摘発の報道が続いています。腐敗防止を政策の重要課題として取り組んでいる習近平政権ですが、その勢いは止まるどころか勢いを増してきています。

 中国では役人が関与する贈収賄だけが刑法に抵触するのではなく、民間企業間でも贈収賄は「商業賄賂」と言う刑法に抵触する犯罪となっています。

 今後も腐敗防止政策を推進していく場合、まずは役人や国営企業の不正を重点的に取締って行いますが、次には民間企業へ推移していくと思われます。その場合には外資企業がまっ先に目標とされるでしょうが、特に日系企業はその中でも最優先でターゲットとされる事は現地事情に詳しい人であれば想像が付く話です。

 先日も中国最大手弁護士事務所に勤務されている日本人弁護士の方と会食した時に、「中国では99%の企業が商業賄賂問題を抱えている」とお話をされていました。

 最近では日本企業もコンプライアンス重視の傾向があり色々な相談があるそうですが、「購買担当が不正を行っているようだが、どのように対処したら良いのか?」と言うような事後処理的な相談が多いようです。

 しかし、贈収賄に関しては起きてしまった後の処理は立証する事が非常に難しく、また多くの関係者の聞き取り作業なども行わなければいけないので社内にネガティブな空気が漂い、更に悪い方向にも進みがちとの事。如何に事前に防止するかが今後重要な課題だと弁護士さんも言われてました。

「各事業所に任せているので…」という無責任


 皆さんの記憶にも新しい江守グループホールディングスの破たん事件ですが、これは中国子会社による不正取引、不正会計が原因でした。

 実に2005年より10年以上も不正を続けていた訳ですが、なぜここまで放置されてしまったのでしょうか?

 この事件の原因は、現地総経理を信頼して任せっぱなしにしてしまった事にありますが、現地トップも関与できない正しい監査制度が本社側として構築されていなかった事が最大の問題点でしょう。

 弁護士さんのお話では、大手企業の現地統括会社トップとお話しする機会に、「購買の不正対策など、何らか特別な制度をとっておられますか?」と質問されると、現地統括会社のトップは概ね「各事業所に任せているので…」と言う回答をされるそうです。

 しかし、各事業所が不正防止などの対策を考えさせたとしても、江守グループホールディングスと同様に、統括会社や日本本社側はその闇を知る事無く過ぎてしまうことでしょう。

 よってこの問題をしっかり解決するには、本社側もしくは現地統括会社が不正防止の仕組みを新たに構築し、各事業所へは新たなルールとして導入させる事が必要です。

ではどうしたら良いのか


 ここで分かりやすくするために、各事業所の責任者の立場になって考えてみましょう。

 仮に疑わしき行為が事業所内にあったとしましょう。それを発見し問題にする事は、彼ら自らが今まで何もしてこなかった事を証明する事にもなってしまうため、消極的な対応になってしまいます。

 また、本社側もしくは統括会社側より各事業所に「コンプライアンス重視で不正を防止しなさい」と発しても、駐在期間が短い彼ら各事業所のトップは、実はその為に何をどうするのかすら考え付かない人も多くいるのも現実なのです。

 一般的に本社側は現地統括会社に「省エネしなさい」と指示を出し、現地統括会社はそれを受け各事業所に「省エネしなさい」と指示を出す事が多い。しかし現実には、何のツールも与えずに具体的な取り組み方法などの指示もなく「省エネしなさい」と指示する行為は無責任の連鎖でしかありません。

 良くある出来事として設備の省エネに詳しくない各事業所トップが、工場に昔から長く勤務する設備担当者などを集めて省エネしなさいと言う。ところが、担当者が進めるという省エネ方策が正しいのかどうかの判断すら、実際には事業所トップは判断できません。そんなところに大きな予算が使われるのです。

 これは正常ではありませんね。

 「掃除をしなさい」と言うのであれば掃除道具を買い与え、「整理をしなさい」と言うのであれば棚を作ってあげる事が必要であるのと同じで、コスト削減や省エネにも何らかのツールを与えてあげる必要があるのです。

 ある日系の省エネ専門会社の社長に話を聞きたところ、既にその会社では300社以上の日系現地事業所を訪問されておられるとの事でしたが、90%以上の事業所は省エネを正しく行えていないと言われてました。

 「省エネしなさい」と言うのであれば、ツールとなる省エネの専門家(中国では節能服務公司)に委託し、その指導に則って省エネを進めるべきだというのが正論でしょう。

 東芝の不正会計問題が発覚しましたが、本社経営管理部は「何とかしろ」と命令するだけで、具体的な指示を出していませんでした。その結果として、命令を受けた方は不正行為を行ってしまいました。

 「何とかしろ」と言うのであれば、何とかできる仕組みを構築し、その仕組みの上で部下に行動をさせるべきだったのでしょう。

 東芝問題も、まさに無責任の連鎖が生んだ重大なコンプライアンス違反行為だったと言えるのです。