BLOGOS編集部

ノンフィクションライター・常井健一氏に聞く


 9月8日に告示された自民党総裁選において、安倍晋三氏が無投票での再選を果たした。これに対し、「自民党に多様性が失われた」と批判する声や「ポスト安倍」争いの混迷化を指摘する報道も見られている。今回の総裁選の結果を、どのように読み解くべきか、「誰も書かなかった自民党: 総理の登竜門『青年局』の研究」「小泉進次郎の闘う言葉」などを執筆、自民党の内情を新聞やテレビとは違った角度から取材している常井健一氏に話を聞いた。

“次の総裁”が見えない3つの理由


―先日の自民党総裁選において、無投票で安倍首相の続投が決まりました。対立候補が出てこなかったことで、「ポスト安倍」となる「次の総裁」がまったく見えなくなっていると思います。現在、自民党内で「ポスト安倍」を狙う動きというのはあるのでしょうか?

常井健一氏(以下、常井):自民党の歴史を見ると、現職の総理を総裁選で破った例は、1978年の福田政権時の大平正芳だけです。つまり、対抗馬が出ても無風状態で終わり、次のリーダーの顔が見えて来ない状況というのは、それほど珍しいことではないんですね。

 7月に「保守の肖像 自民党総裁六十年史」(小学館)という本を上梓したのですが、自民党の60年を振り返ってみると、長期政権が続くと、次を狙える人間が育ってくるのが見えてくるものでした。例えば、ポスト佐藤であれば、「三角大福中(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘)」、ポスト中曽根であれば、「安竹宮(安倍晋太郎、竹下登、宮沢喜一)」、小泉政権の時は「麻垣康三(麻生太郎、谷垣禎一、福田康夫、安倍晋三)」と言われていました。その大半が実際に総理総裁になっています。

 「ポスト安倍」についても、今回の総裁選においては顔が見えないにしても、これから安倍政権が続くであろう3年の間に徐々に頭角を現すのではないでしょうか。ただ、昔と違って「次の総裁が見えない理由」には、大きく3つあると思います。

 その中で一番大きいのは、派閥のトップに総理候補がいないということだと思います。つまり、麻生さんや二階俊博さんが総理を目指すか、というと現実的ではない。昔であれば、若手・中堅どころが、派閥のトップを総理にするために集まって、総理候補に仕立てあげるという形があったのですが、現在の派閥にそうした機能はありません。

 2つ目の理由は、劇的な変化をもたらした閣僚が現政権にいないということです。長期政権下で難局を打開した閣僚が次の後継者として国民の目にも浮上してくるというケースは過去にも見られました。例えば、田中角栄は佐藤政権時代に、通産大臣として日米繊維交渉の妥結に成功しています。それまでは、福田赳夫の方が後継者としては相応しいと言われていたんですが、この交渉をまとめたことによって、「じゃあ、佐藤の次は田中だ」という流れが出てきたのです。現在の安倍総理も小泉政権時代に、内閣官房副長官を務め、拉致問題で実績を挙げました。帰国した5人の拉致被害者を日本に留めたという成功物語によって、次は総理になるのでは…という流れが国民の中に生まれたのだと思います。

 ところが、安倍政権を見ていると、なんでも安倍総理の実績、もしくは官房長官である菅さんが寝技を使ったんじゃないかということばかり言われてしまいます。例えば、色々と揉めているオリンピックの問題を、担当閣僚の下村博文文科相が手腕を発揮して、うまい落としどころを見つけるとか、韓国・中国・ロシアなどとの外交問題に風穴を開けるような実績を岸田外務大臣が上げれば「次は…」ということになる可能性が高いでしょう。しかし、これまで閣僚の中で劇的な変化を起こした人間はいません。これが2番目の理由です。

 3番目は、安倍さんに対抗軸を示している実力者がいないということです。例えば、村上誠一郎さんが、安倍さんの方針に対して反旗を翻して注目を集めるのですが、じゃあ彼が一匹狼ではなく、表立って一緒に活動する仲間を集めているのか、という問題があります。小泉進次郎さんもよく報道陣の前で政権運営への疑問を唱えますが、対抗軸の有無はさておき、安倍さんにとっての菅さんのような多数派工作ができる腹心はいません。議会人というのは、「仲間を集めて多数派を作ってなんぼ」という側面があるのは事実です。つまり、そういう当たり前の政治をこつこつやっている実力者が出てこない。

 「総理の登竜門」と呼ばれた自民党青年局の歴史を調べると、実際に総理になった青年局長経験者は「対抗軸を掲げて多数派をつくって実力者に挑む」という基本動作を若い頃からやっています。第31代局長の安倍さんもそうでした。安倍さんの初当選は93年ですが、これは自民党が下野した時の選挙で、野党という状態からスタートしているんです。当時の総裁は河野洋平さんでしたが、その後、自社さの村山政権の中に、河野さんが総理になれず組み込まれるという状況でした。当時は自民党全体でリベラル派が強く、安倍さんのような思想は少数派だったのです。

 河野談話や村山談話が出たのもこの時代ですが、安倍さんは当時1、2年生にも関わらず、これらに反旗を翻したわけです。後藤田正晴、野中広務さん、加藤紘一さんといった当時の大物はみんなリベラルでしたから、若手が派閥に守られていた部分はあったとはいえ、今の安倍政権以上に異議を唱えるのに躊躇してしまうような状況です。

 その中で安倍さんは自主憲法制定や歴史教科書の是正を旗印に掲げて、党内野党として訴えてきたわけです。95年の総裁選では、河野氏の後継にハト派の橋本龍太郎が無風で収まる流れに刃向かって、小泉純一郎氏を担ぎ出し、惨敗を喫しています。そこから10年ぐらいかけて、自らスカウトして仲間を増やして、自民党は安倍さんに近い考え方の人が多数派になり、二度も総理が狙える基盤を作り上げたという現実があるんですね。現在、安倍さんに対抗したいというリベラルの人達が、そういうことを地道にやっているかというと、誰もいないですよね。

「ポスト安倍」候補は石破、岸田、稲田と“あの人”


―では、「ポスト安倍」というのは現状ではまったく予想もつかないという状況なのでしょうか。

常井:永田町内部では、「ポスト安倍」が、なんとなく見え始めてはいますよね。石破茂さん、岸田さん、稲田朋美さんは次の総裁選で手を挙げる可能性があるんじゃないかと考えています。

 石破さんは、昨年、図らずして地方創生担当の無任所大臣に収まったという経緯はあるのですが、これは良く解釈すれば自身が秘書をしていたこともある田中角栄の境遇と似た部分があると思います。

 田中角栄は幹事長時代に、参議院選を戦い自民党の議席を減らしています。その責任を取る形で幹事長を退いたんですが、無役になって総理を狙う準備をするという意図があったようです。総理の佐藤栄作としては、その後、官房長官にしたかった。官房長官にすれば、忙しいし、自分の下にいるわけですから、変な動きが出来ない。これによって、強くなり過ぎた角栄の力を弱めたいと考えていたのですが、様々なめぐり合わせで、結局、通産大臣に収まりました。

 それでも、角栄は通産省で優秀な若手官僚を集め、「日本列島改造論」をまとめ、これが大ベストセラーになります。ブームを起こし、総理になり、この時に集まったブレーンを自分の官邸に持ち込んだという経緯があるのです。

 石破さんも、これに近いことができるかもしれません。「地方創生」というのは、40年以上前の「列島改造論」に代わる未来の国家像を示すチャンスだからです。ここで石破さんが、どのような未来図をまとめるか、どれだけ国民の支持が得られるかということに、今後が掛かってくると思います。現在、石破さんは、小泉進次郎さんを政務官、平将明さんを副大臣、伊藤達也さんを補佐官にして、毎週月曜に会議を行っています。これが、「バーチャル石破官邸」というか、安倍カラーとも異なる上に、非常に結束力の固いチームになっているので、このメンバーでそのまま官邸に移っても政権運営ができるといったような準備運動は、ある程度出来ているんじゃないかというのが、私の見方です。なので、こうした状況にも関わらず、なぜ今派閥を立ち上げ、目立った成果物のないうちに無役になろうとしていると報じられるのかは疑問です。

 岸田さんの場合は、55年体制的な形で総理になる可能性があります。過去の事例でみれば、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一が少数精鋭の宏池会に所属しながら、最大派閥の力を借りて総理になった方式は考えられます。岸田さんも宏池会会長ですから、細田派や額賀派といった派閥を取り込むことが出来れば、数合わせの上では総裁になれる可能性があるでしょう。しかし、そのような旧態依然とした総理選びで国民が納得するか、選挙で勝てる顔になれるかというと少し違う気がします。現状では「岸田文雄」というフルネームを知っている人は一般的にも少数派でしょう。だから、外相としてレジェンドを作れるかにかかっています。

 稲田さんは、まさに安倍さんと同じような方式で総理になる可能性が考えられます。小泉さんが閣僚経験のない若手の安倍さんを内閣官房副長官や幹事長に指名し、最後は官房長官にして経験を積ませて総理候補に育てるということを3~4年間でやりました。稲田さんは、現在4回生で、あまりパワーがないように見られているのですが、05年初当選の小泉チルドレンで作る「伝統と創造の会」の会長を務め、同期の間では「総理にしよう」という声もある。安倍さんとはカラーも一緒です。現在、政調会長として霞が関からの情報を掌握し、党務の動かし方を覚えているところですが、次にどういうポストになるかによって、この先の可能性が見えてきます。安倍さんと同じルートをたどって化けることがあれば、自民党が不人気になった時に「女性初の総理候補」というカードとして待望論が出てくるかもしれません。

 野田聖子さんについては派閥があるわけでもないですし、今回の出馬騒動を見ても明確な国家像を訴えたわけでもありません。女性であることと、安倍さんとタイプが違うということだけが強みであって、ワイドショーで騒がれ、露出が多い割に国民にとっては「有名だけど、何をしたのかわからない政治家」という印象しかない。気さくな人柄で野党議員や記者にも人気はありますが、どうやって総裁になるかという道筋が見えてこないですよね。

―菅官房長官はどうなのでしょう。

常井:自民党には衆参合わせて400人以上の国会議員がいますが、そのうち4分の1が45歳以下の若手です。トリッキーな見方かもしれませんが、総裁選では「潜在的な最大派閥」である若手の票が左右します。派閥が機能した時代は大物がコントロールし、時にはニューリーダーが彼らの不満を取り込んで下克上を試みたものでした。現在、若手を丹念に取材していると、そこにきちんとアプローチできている大物は、無派閥の菅官房長官なのです。

 若手から頼まれれば、地元から連れてきた首長や地方議員と官邸で面談する機会を作ってあげ、夜の懇親会にも10分でも顔を出して一緒に乾杯する。悩みやトラブルがあれば相談に乗る。頼りなく見られていた若手が「東京に行ったら菅さんに会わせてくれた」というふうに地元での評価も変わり、菅さんに恩義を感じている議員も多いと聞きます。また、各省の幹部候補を若手に紹介し、定期的に私的な勉強会を開いている。これは派閥が強い時代のボスが若手を飼いならすのにやっていた面倒見と同じです。

 本人は決して意欲を示すことはありませんが、今仮にポスト安倍を争う総裁選が行われ、菅さんが手を挙げれば最有力になるといっても過言ではありません。