[サイバー空間の権力論]

塚越健司(学習院大学非常勤講師)

 随分と間が空いてしまった本連載ではあるが、前回は昨年多発したTwitter犯罪自慢事件を取り上げた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3179)。内輪のルールで行った悪ふざけが広く世間に拡散したために生じた事件ではあるが、前回も指摘したとおり、こうした悪ふざけは以前から日常的にあった行為であることが予想される。

 インターネットの発展により、内輪発信のつもりが全体に拡散されることに無自覚な事件が多発する一方で、全体に拡散することを最初から意図した事件を今回は扱う。それが、国会でも議論が開始されつつある「リベンジポルノ」である。

問題は山積み
リベンジポルノとは


 リベンジポルノとは、過去に交際していたカップルの一方が、交際期間中に撮影した(撮影に合意したものもあれば、合意を得ずに隠し撮りしたものも含まれる)性的な画像や動画を多くの第三者に晒すことを目的としてネット上にアップする行為である。大抵はカップルが別れた後、元恋人に対する恨みを持った者が復讐(リベンジ)目的で行うものだ。

 画像・動画をアップされた被害者の精神的苦痛は計り知れない。さらに悪質なものだと、加害者が被害者にポルノ削除の代わりに金銭を要求するケースもある。いずれにせよ、元交際相手が意図的に加害者になるという点で、以前ファイル共有ソフト「Winny」等で生じた、意図しない画像流出とは根本的に性質が異なる。
 事件を取り巻く問題は山積みだ。まず、一度アップされた画像は回収不可能という問題である。友人限定のSNS等であればまだ拡散を防げる可能性もあるが、ポルノサイト等の第三者が閲覧可能なサイトにアップされたものは、半永久的に誰かの手に渡ったままとなり、常に世界のどこかのサイトにアップされてしまう怖れがある。

 次に、報道に際しても慎重な態度が求められる。リベンジポルノ犯罪に関する報道は、例え匿名で事件を伝えたとしても、インターネットで検索すれば簡単に当該ファイルにたどり着けてしまう恐れがある。ただでさえ事件によってショックを受けた被害者を、報道が二重に傷つけてしまうのである(したがって、本稿では具体的な事例については言及しない)。訴えを起こしたりその報道によって逆に事件を有名にしてしまうことを、実際にそうした被害に陥ったアメリカの有名芸能人の名前を取って「ストライサンド効果」というが、こうした問題にマスメディアが敏感にならなければ、二次被害を恐れて被害者が声を挙げることができなくなってしまう。

 最後に、スマートフォンで容易に情報発信が可能になったことが、根本的に事件の増加を引き起こしてしまっている。近年、リベンジポルノと似た構造をもち、英語圏で「セクスティング(sexting)」と呼ばれる問題がある。これは、sex(性ないし性行為)とtexting(携帯電話でメッセージを送る)をかけた言葉で、携帯でポルノ画像を相手に送る行為である。主に10代の少年少女が互いのポルノ写真を送りあうことが多いが、それを一方が学校内の友達に送ってしまい、被害者が学校に出られなくなるといった事件が多発しているという(詳しくはジャーナリストの小林恭子が以下で述べている(http://www.yomiuri.co.jp/it/report/20140331-OYT8T50203.html)

 こうした問題は、日本でもLINE等を通して生じており、実際に筆者も友人の高校教師からこの種のトラブルを聞いている。スマートフォンで簡単に実行できることや、また友人間の内輪ノリが、誰も送りたくないのにポルノを送らせてしまう、奇妙な空気を作り出してしまっている可能性が考えられる。

 いずれにせよ、リベンジポルノもセクスティングも以前から存在していたであろうが、技術の発達によって画像の拡散が世界中に及ぶようになってしまったのだ(ちなみに前回指摘したように、技術発展故の事件の増加と、そもそもこうした行為を行う人々の習慣が存在し続けていることは別の問題である。内輪ノリの中で恋人のポルノを見せ合ったり、芸能人の写真を週刊誌に売ったりといった行為は以前から存在している)。

法規制には表現の自由や
行政権の拡大に関わる問題も


 リベンジポルノ問題はアメリカでも以前から議論されている。リベンジポルノの影響で職場や氏名を変更する例もあるアメリカでは、カリフォルニア州が昨年10月、撮影時には同意であってもその後意図的に画像をアップした者には、最高で禁錮6カ月、罰金1000ドルの罰金刑といった、リベンジポルノを禁止する法が成立した。同様の法はニュージャージー州でも成立している。

 日本でも昨年夏や今年の2月に、リベンジポルノによる名誉毀損の疑いで逮捕者がすでに出ている。こうした動きの中、自民党が2月27日、リベンジポルノに関する新法制定を目指し平沢勝栄議員を委員長とした特命委員会を設置、今国会中の成立を目指すという。法案では、加害者への罰則規定やプロバイダへの当該画像の削除要求、さらに諸外国との条約を結ぶことも視野に入れている。

 こうした法整備に賛成する読者も多いだろうが、そこには表現の自由や行政権の拡大に関わる問題もあり、一定の議論を求める声もある。

 例えばデジタル時代の言論の自由を求めるアメリカのNPO団体「電子フロンティア財団」は、法制定には慎重にとの意見を述べている。日本でも近年、児童ポルノ禁止法改正に際し、児童ポルノに対する明確な定義が困難な以上、児童ポルノの所持を理由にした別件逮捕など、行政権力の肥大化や、ドラえもんのしずかちゃんの入浴シーンすらも放送禁止になるとの問題が大いに議論を呼んだ。

 リベンジポルノでも問題は同じだ。例えば政治家のスキャンダルの暴露としてポルノ写真を掲載した際に、それが公益性があっても法を理由に掲載が不可能になるかもしれない。そういった意味で、単純な法規制にはいくつもの問題が付随していることを忘れてはならない。

EUで議論 「忘れられる権利」とは?


 ではどうするべきか。まず日本の現行法上でも、わいせつ物公然陳列罪や、名誉毀損罪、ストーカー規制法や対象が18歳未満であれば児童買春・児童ポルノ禁止法等でも対処可能であることを忘れてはならない。またプロバイダに画像の削除を要請するプロバイダ責任制限法などもある。

 とはいえ、現行法では画像の削除に1週間程度かかってしまうこともある。ネットに上がった画像は半永久的に残ってしまうことも多く、また海外サイトの場合、日本の法律が適応外になってしまうのが現状だ。したがって、迅速な対応を求めるため、また海外サイトへの対応のために、新法が議論されるのだと思われる。

 では新法を制定することで、こうした問題は解決されるだろうか。世界中のポルノサイトから画像を取り除くためには、世界中の国家と条約を結ぶ必要があるが、現状では困難であろう。むしろこの種の条約はリベンジポルノに限らず今後も進められる必要がある。

 より重要な論点として、画像削除までの時間短縮である。現状においても、各プロバイダやブログ運営・SNS運営企業等の規定では大抵、公序良俗に反するもの等については、掲載者の了承を得ずに削除するとの旨が書かれている。ただし人的作業に伴う高コストが対応を困難にしているために、法による迅速な対応の徹底が求められている。筆者としては、法規制によって各企業に命令される前に、企業による自助努力によって柔軟な対応を願いたい。あるいは現行のプロバイダ責任制限法等を改正し、画像削除までの時間を短縮させれば新法をわざわざ制定する必要はない。

 一方EUでは、「忘れられる権利」についての議論が続いている。情報化の時代において、過去の過ちや見せたくないモノがネット上に残ることがある。これらは当時は個人の意志に基づいたものであるかもしれないが、人の意志は当然変わるもの。ネット上で自由に表現するために、現在とは違う過去の自分の情報を削除するための権利が忘れられる権利である。こうした権利が広く浸透していくことで、リベンジポルノに関する問題も緩和されていく可能性があるだろう(こうした問題に関しては、以下の記事が大変参考になる http://www.huffingtonpost.jp/2013/10/13/revengeporn_n_4093699.html)

リベンジポルノ改善に向けて
「撮らせない」を徹底させる


 法整備問題は今後も議論するとして、最後に我々がどういう対応ができるかを考えたい。まず大前提として、ポルノは撮らせないという常識を徹底させることだ。例えば文部科学省は今年3月、リベンジポルノを含めた様々なトラブル防止の目的で、高校生を対象とした「ちょっと待って!スマホ時代の君たちへ」(2014年版)(http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/taisaku/1345380.htm)を公開している。

 またリベンジポルノの被害者からは、交際相手の求めに応じることが愛だと感じているケースや、また送ることが当たり前という空気=圧力を感じて送ってしまうケースもある。無論、信頼や愛情とポルノ写真は別物だ。写真を撮らせることが非常識だという「常識」やそうした空気を社会に浸透させていく必要がある。さらに、写真を撮らせないだけでなく、写真を撮るという行為そのものが非常識な行為であるという認識を形成する必要があるように思われる。

 以上のように議論してきたが、リベンジポルノに対する根本的な解決策はないのが現状である。誰にでも起こり得る問題であるが故に、まずは他人事ではないという認識を持つことからはじめよう。