新田哲史(「アゴラ」編集長、ソーシャルアナリスト)

 どうも新田です。山形のさくらんぼは美味しいですね。

 ところで東京では、誰も見向きもしていない山形市長選ですが、実は政治関係者界隈では結果次第で安保法制を機に目立ち始めた安倍政権の足元のひび割れが大きくなるのか、それとも修復して参院選での勝利につなげられるのか、結構注目はされていました。
 

地方選に介入してくる“永田町文脈”


 長年、非自民系の市政が続いてきたというリベラルな土地柄で、この安保法制の「逆風」にあって自公等が推す元経産官僚の佐藤孝弘さんが初当選したことは、政権運営にとっては小さくない勝利なわけですが、そもそも論として地方選挙で毎度のごとく思うのは、その地元と関連性の薄い国政マターがメインな争点であるかのようになってしまう違和感です。
山形市長選で当選を決め、遠藤五輪相(左)と抱き合って喜ぶ佐藤孝弘氏=9月13日夜、山形市
山形市長選で当選を決め、遠藤五輪相(左)と抱き合って喜ぶ佐藤孝弘氏=9月13日夜、山形市
 まあ、選挙というのは血みどろの戦なので、野党陣営が何が何でも勝つための方策として、安保法制を掲げるのはそんなものかと思いますが、そういう当事者間の刺し合いで過熱するからこそ、メディアというものは中立性を発揮して、そういう永田町文脈からは一歩引いて、その地域の有権者が直面する課題を深く考えてもらい、投票率が上がっていくようにするのが本分ではないかと思います。

 しかし、たとえば今回の市長選を取り上げた毎日新聞の記事はこんな調子です。

山形市長選:まるで地方版「安保対決」の様相(15年9月6日)

 6日に告示された山形市長選。参院で審議が進む安全保障関連法案の与野党対立がそのまま持ち込まれ、選挙戦は、さながら「安保対決」の様相だ。 遠藤利明・五輪担当相(衆院山形1区)の地元でもあり、野党側は「安倍政権を追い込める選挙」と結束。1966年以来続く革新・非自民陣営からの市政奪還を目指す自民は、法案賛成を前面に出さず争点化を避けたい考えだが、防戦に追われている。


 そして朝日もこんな感じ。

安保、市長選争点に 山形、与野党の対立軸(15年9月10日)

 国会での審議が大詰めを迎える安全保障関連法案が、山形市長選で主要争点のひとつになっている。国会での与野党対決の構図を映した無所属新顔の2人を軸にした戦い。野党が推す候補が「選挙結果は法案の行方を左右する。山形から反対の民意を示そう」と訴えれば、対立候補の陣営は「地方選と外交・安保は関係ない」と主張する。投開票は13日だ。


 両紙とも、さすがに地元の山形版は、市政担当記者が書いた定番の市政の課題連載は一応やっているわけですが、後者の朝日の記事は第二社会面(東京本社管内)に掲載されていて、本社の息がかかってくると、永田町文脈が介入してくるわけですよ。

朝日も毎日も野党に“加担”している


 沖縄の県知事選のように、県政の争点がイコール基地問題のようになっている場合は例外的に国政とリンクした報道になるのはやむを得ないでしょう。しかし中国が攻めてくるわけでもない山形市で安保法制を“主要争点”扱いとしようとすること自体、朝日も毎日もメディアの中立性を踏み越えて、安倍政権を倒したくてたまらない本音を微妙ににじませつつ、安保法制を争点化したい野党に実質的に“加担”しているわけです。

 日本新聞協会が綱領で「報道は正確かつ公正でなければならない」と示す建前論の影で、朝日新聞は昨年の第三者委員会の調査で「角度をつける報道」をやっていたのが暴露されたわけですが、永田町文脈を安易に持ち込む全国紙の地方選挙報道が、不毛な対立を招いたり、政策論議の空洞化につながっていたりするんじゃないでしょうかね。むしろ国政マターを安易に持ち込もうとする中央政党を戒めるような論調をすべきじゃないでしょうかね。別に争点化を避けたかった自民党の肩を持つつもりも全くないけど、政治関連の仕事をしていると、つくづくそう思います。

 とりあえず、山形市長選に勝って「安倍政権の打倒へ弾み」なーんてFacebookでシェアしようと思っていたSEALDsクラスタの皆さん、空振りに終わってご愁傷様でした。逆に自民党の皆さんも調子に乗らないことですね。「安保法制が支持された」なんて言わないで粛々と国政と地方のことは切り分けて仕事していただきたいと思います。ではでは。