佐々木正明(産経新聞外信部記者)

 シー・シェパード(SS)が北大西洋に浮かぶ群島に集い、現地の捕鯨に過激な妨害を加えている。デンマーク領フェロー諸島。香川県よりも小さい面積1400平方キロに人口5万人の住民が暮らすこの地域では、数百年前から続く伝統の捕鯨が行われてきた。

 沖に出た漁師らがゴンドウクジラの群れを見つけると、他の漁船にも連絡しあい、協力し合って湾に追い込む。陸側には連絡を受けた島民が待ち構え、群れが近づくと一斉に海に入り、クジラを仕留める。海が真っ赤に染まる勇壮な北欧の捕鯨は、一方で、反捕鯨活動家にしてみれば、残虐に生き物を殺す野蛮な営みに映った。

 島で生まれ育ったジェグヴァン・ア・ホーダナム・ジュニアさんは、SS創設者、ポール・ワトソン容疑者(64)=国際指名手配=に率いられた団体の姿や彼らのフェロー諸島での行動ぶり、そして、地元の食文化を紹介する風刺画を描いている。

 コミカルなタッチは親しみやすく、その中にしたためられた辛辣な文句は、「新興宗教のようだ」とも指摘されるシー・シェパードの実態を如実に表現している。

 ホーダナムさんは、厳しい気候条件にあるフェロー諸島で、鯨肉は貴重な食料源となっており、「われわれの文化の一部となっている」と話す。その上で、シー・シェパードのフェロー諸島での活動は何の成果も生み出さず、「世界中にフェロー諸島にまつわるうそをばらまいている」と訴える。

 被害の構図は、イルカ漁が行われている和歌山県太地町での状況と似通っている。ホーダナムさんの興味深い作品を紹介したい。

(1)「操り人形師」
「踊れ、私の小さなペットたち」といいながら、両手のゆびにひもをつけ、SSの活動家を意のままに操るポール・ワトソン。机の上で、デンマークとフェロー自治政府の旗が燃やされている。恐ろしい表情のワトソンは、「$」の首飾りをつけており、金の亡者であることを揶揄している。実際、SSは過激な行動をすることで、支持者から寄付を集めている。
 活動家たちは「恥を知れ」「デンマークをボイコットせよ」「フェローのこんちきしょうたち」とのメッセージを掲げている。

(2)「クジラ好き」
 前作とは一転して、コミカルな作品。ポール・ワトソンは捕獲する漁師らを「キラー」(殺し屋)と罵り、身をはって愛するクジラやイルカの命を守ろうとする。しかし、一方のクジラは、抱きつくワトソンに迷惑といわばかり、「フェロー諸島の人たちよ、頼むから今、殺してくれ」と頼んでいる。

(3)「国際指名手配」
 ホーダナムさんの風刺画にはポール・ワトソンを描いた作品が多い。欧米諸国では有名人であり、彼自身の存在こそがシー・シェパードなのである。団体は彼の指示なしでは動くことはない。
フランスに本部を置く国際刑事警察機構(ICPO)の公式サイトでは、国際指名手配犯の個人データが掲載されている。掲載情報によると、ワトソンは1950年12月2日、カナダ・トロント生まれ。身長180センチ、体重120キロ(約240パウンド)。白髪で目の色は茶色という情報まで紹介されている。
 「Vegan」(ビーガン)とは菜食主義者のことで、ワトソンは団体内でビーガンスタイルを徹底している。日章旗をバックに、太ったワトソンの絵。「240パウンドの菜食主義者」と揶揄しているのだ。

(4)「刑務所での会話」
 フェロー諸島では、シー・シェパードの猛攻に備え、今年、捕鯨妨害に関する違法行為を厳罰化する法律改正を行った。しかし、SSは果敢に妨害行為を働き、10人以上の活動家が逮捕された。
 この作品では、刑務所の中で活動家が、施設から出された食事について話し合っている。今日のメニューは「チキン」。食べるか否か? 活動家の中には、菜食主義のルールをやぶって、肉や魚を食べている者がいることが、和歌山県太地町でも確認されている。
そこで、刑務官が「明日は鯨肉を出してみようか」と同僚に打ち明けるのである。

(5)「ハンバーガーは食べていいの?」
 フェロー諸島でも住民は、なぜシー・シェパードは鯨肉だけに特化して、過激な妨害活動を続けるのかと不思議がっている。じゃあ、牛肉や鶏肉なら食べてもいいのか?。そんな素朴な疑問を諷刺した作品。シー・シェパードの活動家がファストフード店でハンバーガーを食べようとしている。そこに、「クジラ殺しを止めろ」ならぬ「ウシ殺しを止めろ」のプラカードを持った活動家が抗議しに訪れる。
 ホーダナムさんは「何の違いがあるのか?」と皮肉っている。

(6)「われわれはシー・シェパードのことを忘れない」
 シー・シェパードの活動家は島々に土足で上陸し、住民たちの誇りや伝統の食文化を踏みにじっている。
 1人の島民が「プロパガンダだ」「嘘つき」「憎たらしい」と言っても、意に介さず、デンマークやフェロー自治政府の旗を痛めつける。
 SS活動家たちは常に、自分たちの「正義」を正当化するために、ネットで自らの活動を中継している。
 カメラマンの1人が「われわれには真実なんて関係ない」と言いながら、様子を撮影する。活動家の意地悪そうな顔に、SSに対する島民の気持ちが反映されている。
 右上にはフェロー諸島の美しい自然を紹介したサイトや伝統捕鯨に関するサイトのアドレスが紹介されている。

(7)「見ざる、言わざる、聞かざる」
 看板に記されたフェロー諸島の捕鯨に関する専門サイトのアドレス。しかし、「猿」になった活動家は聞かぬ、存ぜぬの態度。フェロー諸島で継承されてきた捕鯨の情報など知らなくても良いらしい。
ホーダナムさんは「世界はシー・シェパードがどんな人たちなのかを知る必要がある」と訴える。自分の風刺画が世界中に知れ渡れば、人々はSSが広めている視点とは違った情報が行き渡ると考える。

(8)「デンマーク人を責めないで」
 2コマの漫画。フェロー諸島の青い海をバックに、デンマーク本国からきた若い男性が島民に訴える。
「僕らはゴントウクジラを殺していないのに、フェロー諸島のクジラ殺しで今も責められるんだ」。
 しかし、次のコマでレストランに行き、鯨肉で調理したフェロー料理を食べると、笑顔になり「なんておいしいんだ。約束してくれ、絶対に捕鯨をやめるなよ」と島民に話しかけている。
 実は、デンマーク本国でも他の欧州諸国と同様、フェロー諸島の捕鯨について複雑な感情を持つ国民がいる。それでもホーダナムさんは、デンマーク本国から多くの支援があるといい、「感謝する」と述べている。

(9)「オークションで」
 デンマークの治安当局は、シー・シェパードの過激違法行為で犯行に使われた高速ゴムボート4隻を押収した。法治国家として厳格に法を執行した姿勢は、SSに対する強い牽制である。
 しかし、ゴムボートが並べられたオークション会場では不人気で、なかなか値段がつかない。オークショナーが「ゴムボートは捕鯨にもいいよ。5ドルでどうだ? 誰かいるのか?」と呼びかけるが…
 シー・シェパードはこの押収がよほど痛かったのか、ネット上で寄付金を急募した。20万ユーロ(2700万円)がすぐに集まり、集金力の高さを見せつけた。

(10)「ハッピー・バースデー、ポール」
 ポール・ワトソンは現在、フランスのパリに滞在している。今年の2月には、「彼女なしの生活など想像できない」と自らのろける相手のロシア人女性と人生4度目の結婚を果たした。
 美しい新妻が「誕生日のあなたにプレゼントを用意したの。外に出てみて」とワトソンに呼びかける。
 しかし、外に出てみるとプレゼントはトヨタの新車だった。日本が大嫌いなワトソンはすぐにドアを閉めて、不機嫌そう。新妻は「なんで?」と疑問がっている。
 実際、ワトソンがフェイスブック上で出す最近の声明には、反日とも受け止められる主張が目立ってきている。

ジェグヴァン・ア・ホーダナム・ジュニア氏(Jógvan á Høvdanum Junior) 1979年9月生まれ、36歳。デンマーク・フェロー諸島在住 子供のころから絵を描くのが好きで、販売業としての仕事をもつかたわら、数々の風刺画を発表。地元のメディアで作品が掲載される。シー・シェパードに関する動画を作成し、作品はYoutubeでも公表されている。

連絡先
mynameisjogvan@gmail.com
『シー・シェパードに関する風刺画集』
『Youtubeでの動画集』