山岡鉄秀(AJCN代表)

 報道などでご承知の読者も多いと思うが、オーストラリア・シドニー近郊のストラスフィールド市で今年8月11日、中国や韓国系の団体が求めていた戦時中の「日本軍慰安婦」像の設置計画案について、市議会が全会一致で否決した。

 昨年3月、突如として浮上した慰安婦像設置計画への賛否を問う市の公聴会のスピーチ合戦を、われわれAJCN(Australia-Japan Community Network)が制し(実際には4月1日の公聴会の前日夜に会ったばかりの見知らぬ者同士が連携して設置反対のスピーチを行った。そのメンバーで結成したのがAJCN=当時はJCN。本誌今年2月号を参照)、計画の決定を先送りさせてから16カ月。今回、否決が決まった翌日の地元紙には「民主主義の勝利」と否決を支持する見出しが躍った。この新聞をはじめ、ほとんどの地元メディアが当初、慰安婦像を設置すべきだという報道ぶりだったことを考えると、大きな様変わりである。コミュニティの融和を軸に戦ってきた我々の主張が全面的に受け入れられた証左だ。

 しかし、慰安婦像が、「いかなるモニュメントも市に直接関連したものでなくてはならない」と定められた市のモニュメントポリシー違反だったことは最初から分かっていた。また、この問題がコミュニティを分断し、対立を生み出すこと、中国系や韓国系を含む非日系市民からも多くの反対の声が寄せられていたことも、市は昨年のうちに認めていた。それならなぜ、こんなにも長い時間が費やされなくてはならなかったのか?

中韓に取り込まれた市長


 結論からいえば、それは、2014年9月に市長となった自由党所属のジュリアン・バカリ氏が、中韓反日団体に有利になるように、とことん時間稼ぎを行ったからだ。実は、バカリ市長は「この問題は市のレベルを超えた国際問題であり、市民を分断してしまうことだとよく認識している」と発言している。にもかかわらず、2015年3月に慰安婦像反対派のヘレン・マクルーカス市議会議員が「この問題が市に悪影響を及ぼしていることは明らかなので、さっさと片付けてしまおう」と動議を発した際、「もっと時間をかけて考慮する必要がある」との理由でさらなる先送りを主張し、慰安婦像設置の申請者で、利害関係者として投票できないはずの韓国系のサン・オク議員に投票を許可して否決に持ち込むことまでしている(これには我々から間髪入れずに抗議し、当該議員は以降、本件に関する投票権を失った)。

慰安婦像の設置を否決した豪ストラスフィールド市議会の議会棟(共同)
慰安婦像の設置を否決した豪ストラスフィールド
市議会の議会棟(共同)
 さらに今年6月、慰安婦像に関する住民の意識調査を行う決定をした際も、「慰安婦像に、女性に対する家庭内暴力反対の趣旨も加えよう」と、中韓反日団体の戦術に沿った方向に誘導しようとし、反対派の議員から猛反発を受けて撤回するということまであった。中立を装っていたバカリ市長が、中韓側に傾いたことが暴露された瞬間だった。同じ自由党のステファニー・ココリス議員と、副市長の席と引き換えに、無所属ながらバカリ支持に動いたアンドリュー・ソロス議員は、完全にバカリ市長に追随していた。バカリ市長が市長に与えられたキャスティングボートを使えば、強行採決することが可能な状態が続いた。しかし、さすがにそれはせず、時間稼ぎをして、好機が到来するのを待つ作戦と見えた。

言い訳探し


 2014年4月、当時のダニエル・ボット市長は、「この問題は市のレベルで判断できる問題ではない」として、州や連邦の大臣にアドバイスを求めた。上位者の誰か、特にアボット首相が「こんなものは止めろ」と言ってくれるのを期待したのだ。そうすれば、中韓の選挙民に言い訳ができる。しかし、アボット首相、ビショップ外相をはじめ、全員が「これはあくまでも市の問題である」として逃げた。誰も火中の栗を拾いたくなかったのだ。この時点で、「これは我々には判断できない政治的な問題である」として破棄するべきだったが、それもできず、9月にバカリ市長へと交代。この問題は迷走を続ける。誰もが「言い訳」を探していた。

 最も良識的なマクルーカス議員は、早くから市民に賛否を問うアンケートの実施を主張していた。ストラスフィールド市民の多くは慰安婦像などに反対であるとの確信があったからだ。しかし、私は嫌な予感がしていた。アンケートの結果は質問の内容に大きく左右される。我々は質問内容を予め開示するよう、再三市に求めたが、完全に無視された。反対派の欧米人男性が直接バカリ市長に尋ねると、「アンケートで賛成が多数を占めたら慰安婦像を建てるつもりだ。調査がいつ始まるかは知らない」と答えたという報告があった。はたして悪い予感は的中する。

悪意ある電話調査


 市内に住む、AJCN日本人メンバーの自宅に調査会社から電話がかかって来たのはその直後だった。「慰安婦とは何のことか知っていますか?」と聞かれ「いや、よくわからない」と答えると、「日本軍は第二次大戦中、20万人から36万人の女性を拉致して売春を強要しました。中国と韓国系コミュニティが慰安婦像を建てることを希望していますが、あなたは賛成ですか?」と質問され、男性が唖然としながら「反対です」と答えると、「なぜですか?」とさらに聞かれたという。ここまで露骨な誘導がなされるとは驚きを禁じ得ない。

 ただちに、欧米人メンバーが市の行政サイドに抗議の電話を入れ、再度質問内容の提示を求めた。電話を受けた市の女性職員は「でも、本当の出来事なのよ!」と答えてメンバーを驚愕させた。市はこちらの再三の要求にしぶしぶ応じ、約束の期限に大幅に遅れながら質問内容を開示した。しかし、そこには前述の誘導質問や数字の記載が一切無かった。また更なるメンバーの質問に対し、市のサーベイ責任者から、前述のバイアスがかかった説明内容が反日組織から提供された一方的な情報に基づくものであるとの回答を得た。2回目のサーベイの内容として、「この問題について判断すべきは、市、州、連邦のどのレベルの政府だと思いますか」というような質問も追加されていた。一週間ほど遅れて、別の日本人宅にも電話がかかって来た。この時の質問は、開示されたものに近かったという。慌てて説明と質問を差し替えた可能性がある。