[世界潮流を読む 岡崎研究所論評集]

岡崎研究所

 アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のブルーメンソール研究員(アジア研究部長)が、9月9日付でForeign Policy誌ウェブサイトに掲載された論説において、習近平の国賓訪米を批判し、米国はもっと現実主義に基づいた対中政策を取るべきだ、と共和党保守派の主張を展開しています。

 すなわち、米国民は一貫して中国に厳しい見方をしている。国民は中国を押し戻すことを期待しているのに、政府は反対に米国を侮蔑する習近平を最高の栄誉で迎えようとしている。

 2013年のサニーランズでの米中首脳会談から2年、中国は米国の人事管理局にまでハッカー攻撃をかけているし、南シナ海では驚くべき人工島建設を行っている。これはクリミア併合にも劣らない領土の現状変更だ。米国にとってはクリミアよりももっと大きな脅威になるかもしれない。

 前回の首脳会談がこれほど失敗しているのに、米国は、安倍総理に与えたと同じ栄誉と尊厳を以て習近平を迎えようとしている。大統領権限の乱用だ。習近平は穏健化するどころか、国賓訪米の直前に、毛沢東流の抗日戦争勝利式典を挙行し、文字通りグアムを狙うための「グアム・キラー」ミサイルなどを披露している。ハワイへの奇襲攻撃を再現できると言わんばかりである。

 軍事パレードと時を同じくして、中国海軍艦艇がアラスカ沿岸に来た。習近平の訪米前のこのタイミングでやったのは、米国に対する侮蔑の以外の何物でもない。一部政府関係者は中国艦艇の行動は、中国も同様のことを受け入れなければならなくなったという意味で好都合だと述べているが、敗北的な考えだ。
 中国が裕福になれば穏健化する、との希望的観測が今の対中政策の根底にある。それは、中国共産党も徐々に世界のルールを受け入れてゆくだろうとの考えだが、中国共産党はリベラルな政党ではない。中国は独自の世界観を持っており、国内での権力堅持と海外での自国権益拡大が戦略だ。ハイレベル会談を何回行っても、米国のネットワークは攻撃されるし、安全保障は損なわれ、価値は軽蔑され、経済の安寧は脅威を受けている。

 共和党に新しい指導者たちが登場している。彼らは中国を競争者、時として脅威になる国と捉える。冷戦勝利のためのパートナー、あるいは米国が作った国際システムを受け入れる新しい国としては捉えない。

 新しい共和党のアジア政策は、「差異のある関与(Unequal engagement)」だ。米中関係は重要だが、外交関与の大半はアジアの同盟国・友邦国にむけるべきだ。第1の優先順位は、同盟国・友邦国との関与の強化である。国防予算を回復し、活発な同盟外交をする。第2は、真のTPPを支持することである。アジアに高度の自由貿易市場ができるのであれば台湾や韓国、その他の東南アジアの国にも拡大していく。TPPは米の対アジア政策の主柱になる。第3は、中国の人権問題重視である。国内の人権抑圧と海外での攻勢はリンクしている。人権抑圧が減れば攻勢も弱まる。

 米の対中関与政策は、より現実主義的な、より大々的でないものにすべきだ。意味のないスローガンなどシンボリズムやレトリックはやめるべきだ。時には具体的な協力ができ、世界経済問題については一定の協力があるだろうが、中国が責任ある大国になるように、また、新たな大国間協調体制に中国が加わるように説得するという考え方は、当面無駄なこととして捨てるべきだ。安定の維持と紛争の回避が関与政策の中心目的である。両国の指導者は両国の利益が必要とする時に会えばよい。来る国賓訪米は、時期が間違っているし、場所も間違っている、と厳しく批判しています。

出典:Daniel Blumenthal,‘Rolling Out the Red Carpet Won’t Make China Play Nice’(Foreign Policy, September 9, 2015)

* * *

 オバマの対中関与政策に対する共和党保守派からの激しい批判です。不安を覚えるような、やや激しい表現も散見されますが、後半の三つの優先政策(中国よりも同盟国・友邦国との関与を重視する、真のTPPを支持する、中国の人権問題を重視する)と最後のやや落ち着いた対中政策の在り方に関する諸点(対中関係は重要だがより現実主義的な、より大々的でないものにすべき、首脳会談は必要な時にすればよいなど)は、今の米国の保守派のムードを知る上で興味深いと言えるでしょう。

 無意味なシンボリズムはやめるべきだとの点は理解できます。習近平への国賓待遇付与は、おそらく中国がそれを要求しているからであり、米国としては安いコストだと思っているのかもしれないが、内容のない中国流のシンボリズムは意味がないように思います。

 対中警戒感は、今、米で高まっています。オバマ政権下の8年、中国と関与しても一向に変化がなく、反対にどんどん中国が影響力を増すことに対する強い反発と懸念が基になっているものと思われます。案外広く共有されている感情かもしれません。

 いずれにせよ次期政権は、どちらの党が勝利しても、対中政策はよりリアリズムを強調したものになる可能性が高いと思われます。共和党が勝てば尚更ですし、民主党のクリントンになっても、オバマの時代と比べれば対中外交はよりタフな外交になるでしょう。政権交代による微調整は必ずしも悪くありません。