渡邉哲也(経済評論家)

 先日、中国の習近平国家主席が米国を訪問した。この訪問は半年以上前から予定されていたものであり、米国と中国の関係を占う意味でも大きな意味を持つものであった。6月中旬から始まった中国株式バブルの崩壊、これは米中の関係にも大きな変化をもたらしたといえるのだろう。そして、米国の中国に対する対応は慇懃無礼なものであったといえる。そして、これは中国と米国との蜜月関係の終焉と決別を世界に宣言するものになってしまったといえよう。

2015年9月25日、米ワシントンのホワイトハウスで共同記者会見するオバマ大統領(右)と中国の習近平国家主席(UPI=共同)
 ここ数年、中国と米国が共に世界を支配するG2体制の誕生などと言っている人が居たが、私はこれを常に否定してきた。何故ならば、世界の支配者は一つだけでよく、組織論的にも、他に敵が存在しない限り、2つの権力者が手を取り合うことなどありえないわけである。そして、既存の王者である米国がその座をすんなりと渡すわけもなく、米国側の利益が少なすぎるわけである。

 そして、このような根底がありながら、米国が中国を支援してきた事には大きな理由が存在する。それは米国による中国投資の投資利益である。高い経済成長率=高い配当利益であり、GDPが8%で成長すれば8%の配当が期待できる。米国の調達金利は低い。低い調達金利で借りたものを成長が望める地域に投資すればその利ざやが稼げるわけである。特に中国の場合、通貨人民元は管理フロート制であり、事実上のドル連動通貨であった。そのため、為替リスク無しで利ざやが稼げる美味しい市場だったわけである。

 また、金融面だけでなく実体経済の面でも、中国の市場の魅力は大きかったといえよう。基本的に先進国は物が溢れており、新たに物を販売するには困難が伴う。それに対して、新興国は物を持たない人がたくさんおり、ものを売りやすい環境があるといえるわけである。かつての日本でも三種の神器(テレビ、冷蔵後、洗濯機)がもてはやされ、それを持つことがあこがれであった時代もあった。しかし、今の日本で持たない人は限りなく少ない。それに対して、中国にはまだまだこれを持たぬ人がいるわけである。そこに市場があるわけだ。現在日本で起きている中国人の爆買いも持たぬ人がいるからこそである。

 しかし、これは健全な経済成長が維持される前提のものであり、経済成長が低下すればこの前提が大きく変わるわけである。また、米国はサププライム以降の経済の混乱の中で、海外の投資資産を減らし、中国への投資も大きく減らしていたのも事実である。また、中国の安価な産品が米国の生産者を苦しめ、雇用にマイナスになっている実態もあり、これに対する米国の産業界の批判が強まってきたこともひとつの事実である。すでに米中の間では、中国のコピー商品やダンピングなど貿易摩擦が大きな社会問題になっていたのだった。

 政治的にも、AIIBやBRICs銀行など米国と対立する形で世界の中での金融支配を強めようとしており、強い経済力を武器に世界の金融市場での位置づけの拡大と米国の基軸通貨としての地位を貶めようとしていたわけである。これに対して、米国は中国人民元のSDR(IMFの構成通貨)入りに反対するなど、これを抑制する動きを強めていたわけである。

 そして、バブルが崩壊した・・・。

 これが中国の成長が減退期に移行する事を意味し、これまでのような中国の振る舞いが困難になることを意味するわけである。そして、世界の中で力をつけてきた中国を叩くにはもっともよいタイミングであるといえる。大量破壊兵器が生まれた今、核を持つ大国間の戦争は地球の破壊を意味し、勝者のいない戦争になる可能性が高い。だからこそ、今、一番の戦争は経済であり、米国の保つ最大の力がドルによる世界の経済支配なのである。世界の債券の約60%はドル建てであり、世界の資源取引の基本はドル建てである。ドルで借りたものはドルで返さなくてはならず、ドルがなければ資源が買えないわけなのだ。そして、そのドルの供給を一手に握っているのが米国であり、ドルは米国の武器なのである。

 中国は今回のバブル崩壊でこれを思い知ることになったともいえる。何故ならば、中国はバブル崩壊による実体経済の悪化を防ぐため、8月11日人民元の切り下げを行った。中国当局としては、これまでのように政府の意向で通貨をコントロールできると考えていたものと考えられる。しかし、予想以上のキャピタルフライトが発生し、大規模な介入と為替に対する規制をかけなければ為替を維持できなくなってしまったのであった。

 また、これに連動する形で中国の外貨準備に対する不安も生まれ始めたのである。中国の外貨準備は額面上世界一であり、その額は約3.5兆ドル程度である。しかし、そのうち米国債は最大でも1.2兆ドルしかなく、その中に企業の返済用や決済用資金が含まれているため、実際に介入に使える資金がどの程度残っているのかわからないという実態が明らかになったわけだ。米国の当局者や金融関係者はこれを理解していたわけであるが、これが報道に乗り始めた意味は非常に大きいと言える。

 そして、米中の首脳会談ということになったわけであるが、習近平の訪米日程とローマ法王の訪米が重なり、習近平はローマ法王の影に隠れる形になってしまったわけである。また、内容的にも習近平が望んでいた議会演説は拒否され、会談後の共同声明は出されずじまいであり、中国が望んでいたSDR入りへの支援表明も得られなかったのであった。世界に報じられた共同会見も明確な地球環境保護に対する基金設立程度のものであり、これが米国に対して、ローマ法王が与えた宿題を中国に押し付けたようなものである。これが世界に報じられたわけであり、メンツを重んじる中国にとっては大変屈辱的なものであったといえる。

 このような状況の中国に対して、更に追い打ちを掛けるものがTPPの大筋合意ということになる。米国はTPPによりアジアにおける米国の経済支配を強化しようとしていたわけであり、中国抜きのアジア経済圏の構築というのがTPPの一つの側面である。中国がTPP加盟国とビジネスを行おうとした場合、TPPに規定されたルールを厳守しなくてはならない。また、ルールを厳守しても関税が撤廃されているわけではないので、加盟国よりも悪い条件でビジネスをしなくてはいけなくなるわけである。特許や知的財産権だけでなく、インフラや法制度にもこれは関係し、これは金と力で中国式のルールを押し付けてきた中国のこれまでのビジネスを否定するものにもなりかねないわけである。