片山修(経済ジャーナリスト)

入っていなかった魂


 近年、大企業の不祥事はあとを絶たない。2011年の大王製紙の巨額不正借り入れ、オリンパスの粉飾決算、13年のJR北海道のレール検査データ改竄などに加え、今年に入って判明した東洋ゴム工業の免震偽装、東芝の不適切会計、独フォルクスワーゲンの燃費規制逃れなどは、記憶に新しい。

 とりわけ東芝は、08年4月から14年12月にかけて計1562億円の利益過大計上が明らかになった。減損処理を含めた過年度利益の減額修正は、2248億円にのぼった。これを受けて、歴代三社長、取締役、常務執行役ら10人が辞任に追い込まれた。

 東芝は、9月の臨時株主総会を経て、社長を室町正志氏、取締役11人のうち7人を社外取締役とする新体制が発足した。これをもって、問題は一応の決着を見た形だが、この事件は、日本企業のガバナンス体制の不備を改めて浮き彫りにした。

 東芝は、98年、日本企業では早期に執行役員制度を導入したほか、99年社内カンパニー制導入、00年指名委員会、報酬委員会設置、01年社外取締役3人体制に移行など、日本の企業統治改革をリードしてきた。これまで、いわばコーポレート・ガバナンス体制の“優等生”だった。

 ところが、その東芝で問題が発生した。

東芝の定時株主総会の会場に向かう株主=2015年9月25日、東京都墨田区の両国国技館
 5月に設置された第三者委員会は、調査報告書において、問題の原因を以下のように分析している。

 直接的には、経営トップらの関与を含めた組織的な関与、当期利益至上主義と目標必達のプレッシャー、上司の意向に逆らうことができないという企業風土、経営者における適切な会計処理に向けての意識または知識の欠如、監査法人などの外部からは発見しにくい方法で行われていたことなどである。

 間接的には、各カンパニーの経理部や内部監査部門、経営者、財務部・経営監査部などコーポレート各部門、取締役会、監査委員会などによる内部統制が機能していなかった。また、会計監査人による監査、業務評価制度、人事ローテーション、内部通報制度などに問題があったと指摘する。

 すなわち、監視、監督する部門や制度は整えられていたにもかかわらず、トップの意向や企業風土によって、それらが適切に機能していなかったと見ることができる。いわゆる魂が入っていなかった。

バブル崩壊で弱体化した日本的経営


 日本企業は、バブル経済崩壊以前は、日本的経営に基づいたガバナンスを行ってきた。

 企業間の株の持ち合いにより、株主は長期安定的だった。「物言わぬ株主」である。企業の健全性や収益性は、メインバンクの審査部が実質的に「監視」した。

 また、日本企業は、終身雇用、年功序列、企業別組合など日本的雇用慣行をもち、経営者を社内から輩出してきた。社内で認められなければ経営者には選ばれないという意味で、従業員や組合が経営者を「監視」してきた。

 高度経済成長期、多くの業界で事業は拡大し、収益は伸びた。この間、株主や従業員らステークホルダーは経営に満足していた。そして、経営トップの責任が問われるような厳しい経営判断は、ほとんど必要なかった。

 ところが、91年のバブル経済崩壊をきっかけとして、状況は一変した。企業や金融機関は保有株の売却を進め、株の持ち合いは解消した。不良債権問題から、メインバンクの「監視」の体制はおぼつかなくなった。終身雇用の廃止や、年功序列に代わる成果主義の導入など、日本的雇用システムは崩壊し、従業員や組合による「監視」も薄れた。

 日本的経営に基づいたガバナンスは弱体化した。結果、アングロサクソン型ガバナンスの導入が目指された。

 アングロサクソン型ガバナンスの特徴は、「株主主権」のもと、外部取締役や監査役の導入など、厳格な監視体制をとることだ。経営の透明性の確保、四半期ごとの業績開示などが求められるようになった。

 ソニーは、執行役員制を日本で初めて導入したことで知られる。グローバルにビジネスを展開する企業は、海外資本を呼び込むためにも、アングロサクソン型ガバナンスの制度を積極的に導入した。東芝もまた、先に記した通り、執行役員制度の導入や各委員会の設置などを先駆的に行ってきた。

日本企業に求められるガバナンス


 ただし、アングロサクソン型ガバナンスの効果は、欧米においても、エンロン事件をはじめとする優良企業の不祥事によって万能ではないことが指摘されている。

 ソニーのその後のマネジメントの混迷や業績の長期低迷、東芝の不適切会計問題を見るに、制度を整えても、運用に問題があれば、ガバナンスは機能しないといえる。

 では、日本企業は、いかにしてガバナンスを機能させるべきなのか。

 アングロサクソン型ガバナンスを参考に、取締役会や監査委員会など、経営を監視、監督する社内外のシステムを整備することは、引き続き必要である。加えて、それを運用するうえで求められるのが、企業風土である。

 前にも触れた通り、東芝の第三者委員会調査報告書は、「上司の意向に逆らうことができないという企業風土」を指摘した。すなわち、かりに制度が整えられていても、「上意下達」の企業風土では、トップの意向次第でガバナンスが正常に機能しなくなる。したがって、異なる主張を排除せず、活発な議論がなされる企業風土づくりが求められる。

 東芝が、企業風土を変えるとすれば、危機意識の高まっている現在が絶好のタイミングである。ただし、東芝生え抜きの室町正志氏が社長を務める体制下において、企業風土を変革することは、容易ではないだろう。

 組織の末端まで危機感が行き渡らない限り、企業風土の改革が難しいのは間違いない。