中村宏之(読売新聞記者)
藤森徹(帝国データバンク情報統括部長)
三木哲男(中央公論特別編集部長)

中村宏之(読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員)

 世の中の耳目を集めている東芝の不正会計問題は、日本を代表する大企業であっても決算で利益を過大計上するような操作を組織的に行ってしまうという点で、経営者の姿勢が厳しく問われている。

 東芝の一連の動きは、6月に中央公論新社から刊行された話題の経営書『御社の寿命 あなたの将来は「目利き力」で決まる!』の中で紹介されている企業や経営者をとりまく危うさや課題、教訓に驚くほど共通している。

 ウェッジ・インフィニティでは、書評「オトナの教養 週末の一冊」の特別バージョンとして、「御社の寿命」の著者対談を行った。

 対談には帝国データバンクの藤森徹・情報統括部長と、本欄の書評執筆者でもある読売新聞東京本社調査研究本部の中村宏之主任研究員が出席し、司会は本書の編集にあたった中央公論新社の三木哲男・特別編集部長が務めた。

会社にひそむ「ワナ」に気付く


三木 お二人はなぜこの「目利き力」の本を書こうと思われたのですか?

藤森 私どもが専門に行っている仕事は、企業倒産からお客さんを守ることです。以前は国内の倒産はほとんどが「バブル倒産」でした。銀行がお金を貸し込み、過剰債務や借金まみれの会社がゴルフ場などを無理に造った末につぶれてしまうという、比較的分かりやすい倒産が多かったといえます。


ふじもり・とおる 1963年生まれ。兵庫県出身。関西大学卒業。帝国データバンク情報統括部長。スポーツ用品メーカーを経て、1992年帝国データバンク入社。2006年福岡支店情報部長、2010年から現職
 その後、金融危機を経て不良債権処理が行われ、企業の借金苦は一定程度は取り除かれました。そして今度は、借金の問題よりも、企業の成長性や、稼ぐ力、事業を継続する力などが問われるようになりました。この点はそれ以前との大きな違いです。

 こうした点は、会社のバランスシートを見るだけではわかりません。社長を見抜く力であったり、ビジネスモデルを読み解く力だったり、そうした力が必要です。またその会社にひそむ「ワナ」にも気付かないといけません。まさに「目利き力」がないと、その会社が危ないのかどうかもわからないですし、将来伸びる会社かどうかもわからない。「目利き力」とは、企業が継続するための基本的な要素が備わっているか、そうしたことを調べて解明する力ともいえます。

 では伸びる会社はどこを見ればわかるのでしょうか。そうした仕組みを自社で一からつくるのが難しければ、他社の成功事例を見て、どんな工夫やヒントがあるのかを見抜き、応用するのも「目利き力」だと思います。企業の成長や、リスクヘッジに必要なポイントは最近10年間ぐらいで大きく変わっています。その解明のヒントを提示しようというのが今回の執筆の動機です。

三木 中村さんはどんな動機だったのですか?

中村 どうして企業はつぶれてしまうのか、どうして将来伸びる企業の成長性を早い段階から見抜くのが難しいのかというのは、長く経済記者をやっていて感じるところでした。かつて世界で存在感を誇った日本の電機メーカーが21世紀に入って急速に力を失い、魅力的な製品が作れなくなっている。

 一方、中国や韓国の企業が台頭し、日本企業はこれまでのビジネスモデルが通用しなくなっている。こうした企業の盛衰をまのあたりにして、日本のサラリーマンはみんな毎日毎日、まじめに働いているのに、どうしてこんな差が出てきてしまったのだろうという思いもありました。様々な取材を通じていろいろと考える中で、それは経営力の差であり、一言でいえば「総合的な目利き力の違い」ではないかと思い至るようになりました。

 その背景には、経済記者の駆け出しの時に証券担当として山一證券の破綻に遭遇し、「会社がつぶれる時というのは本当に一瞬なんだ」と痛感した「原体験」があります。企業経営者が世の中の大きな動きを見通す力や、今後どんな製品やサービスに世の中のニーズがあるのかを鋭敏に感じ取る力がないと、企業はすぐにだめになると思います。こうした問題意識が藤森さんと一致して、一緒に本を書こうという思いに至りました。

東芝の不正会計問題 プロの目利きは何を見逃したのか? 


三木 全くの偶然ですが、出版直後のタイミングで、東芝の不正会計問題が大きく取りざたされています。東芝には社外取締役、監査法人、メーンバンクといったそれこそ「目利き」のプロがいたのに、結果として見逃してしまいました。

みき・てつお 1958年生まれ。東京学芸大学卒業。中央公論新社特別編集部長。繊研新聞記者を経てフリーライターに。2000年に中央公論新社入社。06年から「婦人公論」編集長を務め、現職。
みき・てつお 1958年生まれ。東京学芸
大学卒業。中央公論新社特別編集部長。
繊研新聞記者を経てフリーライターに。
2000年に中央公論新社入社。06年から
「婦人公論」編集長を務め、現職。
藤森 東芝問題との関連でいえば、この本に書いたことが、ほとんど当てはまっていると思います。結局、経営者次第で、企業はあのようなワナに落ちてしまうのです。3代の社長に対して、みんな「イエス」としか言えなかった社内の「空気感」。これは本書で書いた、「危ない会社の危ない社長」「危ない会社の危ない経理部長」のストーリーに通じる部分です。中小企業で社長から「君に任せたよ」と言われた経理部長が、赤字決算を言い出せずに暴走するのと同じ構図です。まさに、今回の東芝の3代の社長時代に、同じような負の連鎖反応を起こしているわけです。

 どんな巨大企業であっても、一人でもそうした経営者が出てしまうと、あのようになってしまう。「企業は人だ」とよく言いますが、まさにそれを体現しているのが東芝問題であり、この本に多く出てくるような町の中小企業の問題となんら構図は変わりません。 

中村 私も藤森さんと同じ意見です。本書で紹介した事例は中小企業の話が多いのですが、それが大企業の東芝にも見事にあてはまってしまうことばかりなのは、私も驚きです。結局、中小企業であっても大企業であっても、コーポレートガバナンス(企業統治)の本質は同じということです。東芝だっておそらく、これが自分たちの話でなかったら、「どこかの軽率な経営者が愚かな行為を行った」と認識していたはずです。

 それなのに、140年の歴史を持ち、「老舗」ともいうべき企業の社長が3代にわたっておかしなことをしていたわけです。正しくない業績で株価をつくり、投資家からお金を集め、今になって「あれは不適切なやり方で、数字が全く違っていました」というのでは、経営者の資質が問われても抗弁できないでしょう。