室谷克実(ジャーナリスト)

韓国人の労働意識の低さ


 「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録に対する韓国の妨害活動は大成功だったと言っていいでしょう。

 韓国は、長崎県の端島炭坑、いわゆる軍艦島をはじめ日本が登録を申請した二十三の施設のうち、軍艦島や旧八幡製鉄など七つの施設で「第二次大戦中に朝鮮人が強制労働をさせられた」と主張して登録に反対していました。日本が産業国家に生まれ変わる幕末から明治にかけての「一八五〇年から一九一〇年まで」が対象だったにもかかわらず、韓国は「第二次大戦中の強制労働を隠蔽しようとするものだ」と難癖をつけた。そもそも、戦時中の徴用は国民徴用令に基づくものであって、「強制労働」などではありません。戦時下の労働力不足を補う「徴用」は欧米をはじめどこの国でも行われており、給料も支払われます。これを非人道的な強制というのなら、韓国の徴兵制だって「強制」として拒否できることになる。

 しかし、韓国国内で、元徴用工が「強制労働をさせられた」と日本企業を相手取って訴訟を起こし、賠償金を要求しているため、いつのまにか徴用が強制連行という話になった。つまり〝従軍慰安婦〟と構造はまったく同じです。

 考えてみると、これは単に日本を貶め、金を巻き上げるためだけでなく、彼らの労働観が日本人とはまったく違っていることも理由の一つかもしれません。

「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録決定後、スピーチする韓国政府関係者=10月5日、ドイツ・ボン
「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録決定後、スピーチする韓国政府関係者=10月5日、ドイツ・ボン
 日本が進出するまでの朝鮮半島では、商工業は無きに等しかったから、労働者といえば「奴婢」のことでした。奴婢は両班と呼ばれる貴族階級の家に属し、家事や雑用、畑仕事などをしていました。別に給料が出るわけではない。飯を食わせてもらって、たまに着るものをもらうくらい。ご主人一家の残飯を雑穀にかけて混ぜて食べたのがビビンバの始まりで、それが御馳走です。半島の古典などを読んでみると、仲間同士でおしゃべりをしたり、適当にサボったりしながら最低限の仕事しかしない。そういうものが労働だと彼らは思っていた。

 その感覚で日本の近代産業工場に働きに来てみたら、流れ作業で次から次へ仕事が回ってくる。そんなところでマゴマゴしていたり、サボったりしていたら、昔なら「こいつめ、何やっとる」と、それこそ頭の一発も殴られたでしょう。それが朝鮮人にとっては「強制的に働かされた」ということになるのかもしれない。もちろん、当時の記録や手記などを読むと、優秀でよく働く朝鮮人もいたようです。しかし、一般的な朝鮮人の勤労意識の低さが、強制労働だ、奴隷労働だという発想に結びついていることは十分に考えられます。

 いまの韓国でも、現代自動車の工場労働者たちに言わせれば、トヨタ自動車では「奴隷労働」をさせている。ヒュンダイの工場は世界的にみても一人あたりの生産台数が非常に低い。トヨタの半分くらいです。それでいて給料はトヨタの倍近く取っている。だから生産効率からいったらトヨタの四分の一しかないのです。

 七〇年代後半から八〇年代にかけて、日本の自動車メーカーがアメリカに進出して現地生産を始めたとき、アメリカ人工場労働者の意識の低さ、勤労意欲の欠如に頭を悩ませたことがありました。クルマを組み立てながらものを食べる、組み立てラインに平気でゴミを捨てる、勤務終了時間になると途中で放り出して帰ってしまう。おそらく意識としてはヒュンダイの工場労働者も同じようなものでしょう。労働観のまったく違う彼らからみれば、トヨタは規律が厳しく、半分の給料で二倍働かされる。まさに、日本はいまも日本人に〝強制労働〟を強いているわけです(笑)。

スパイか大バカ者


 世界遺産登録の審議がドイツのボンで開かれる二週間前に、韓国の尹炳世外相が来日して日韓外相会談が行われました。それまで尹外相は議長国のドイツに行って外相と会談し、韓国の閣僚が一度も足を踏み入れたことのない委員国のクロアチアにまで足をのばして日本の世界遺産登録反対を働きかけていた。それが日本に来たら一転して「日本の世界文化遺産登録に協力します」と言い出しました。

 岸田文雄外相は「両国が協力することで完全に一致した」と胸を張り、日本は韓国側の「百済の歴史遺跡地区」の登録に全面協力すると発表しました。それだけならともかく、世界遺産委員会の審議の場で、朝鮮人が徴用されて働かされた歴史に触れること、登録後は軍艦島などにそうした歴史を記した案内板を設置するなどと約束して、この件は解決済みとした。実に甘い。

 韓国が急に好意的になったわけではありません。この件に関して尹外相は公式には「円満に解決しようという共通認識をもって緊密に協力することにした」と言っただけでした。つまり、最後の交渉の余地を残しておいたのです。あの国のことを少しでも知っている人間なら、そんなことをしたら韓国人が最後に手のひらを反し、ゴネ始めることはわかりきっていた。

 野田佳彦前首相が六月二十九日、BLOGOSに「油断禁物」と題するコラムをアップしています。李明博ジキルが一晩明けたらハイドになっていた体験を語り、世界遺産の件でも「油断禁物」と。

 案の定、遺産登録審査の土壇場になって、韓国は「軍艦島はアウシュビッツと同じものだ」とまで言い出して強硬に反対し、審査が一日延びた。さらに登録決定後の委員会におけるスピーチで日本代表団は「(朝鮮人は)意に反して労働を強いられた(forced to work)」と付け加えざるを得なくなりました。

 日本からすれば詐欺にあったようなものです。しかし、韓国からすれば、「協力することに原則としては一致したが、課題はまだ残っているということは日本もわかっていたではないか」ということになる。それは韓国の言い分のほうが正しい。「それについては今後また詰めましょう」という話だったのですから。

 非難されるべきは、そんな重要なことを今後の課題として残した人間です。私は、初めからそういう手筈を整えていた内通者がいたのではないかと疑っています。そうでなければ、日本の官僚はこれまでの日韓関係史を何も学んでいない大バカ者としか言いようがない。

「国連なんて田舎の信用組合」


 「徴用は強制労働を意味するものではない」と岸田外相は弁明しましたが、後の祭りです。韓国に言わせれば、ボンでは強制労働を認めておきながら日本は二枚舌を使っている。だから、「これは日本との戦いである。強制労働だったという正しい解釈を、国を挙げて世界に広めなければならない」という論調になります。韓国人は「正当性はわれにあり」と心から信じているのです。

 外務省は、「強制性を認めた」日本代表団の委員会での発言を資料として裁判に利用しない旨、韓国政府から言質を取ってあると言っています。しかし、三権分立の建前からすれば政府は政府、司法は司法です。資料は行政府から渡されたのではない、ユネスコの委員会から受け取った資料で裁くのに何の問題もないはずだと言われれば、どうしようもない。

 まして、一九六五年の日韓請求権、経済協力協定で「法的に完全かつ最終的に解決済み」だった問題さえ蒸し返す国ですから、そんな〝約束〟はいつでもひっくり返すでしょう。現に韓国の聯合通信は「日本が強制労働を認定した」「日本が第二次大戦中の強制徴用の事実を国際社会で公式に言及したのは初めて」と、勝ち誇るような記事を配信しています。

 韓国側が登録申請した「百済の歴史地区」など、あんなもの何もないつまらないところです。日本はお人よしにも全面的に支持しましたが、日本は韓国と渡り合うためにこれを利用すべきだった。「百済は日本人がつくった」と韓国流に難癖をつけて相打ちにするとか、やりようはいくらでもあったはずです。それを百済のほうは無条件で先に通してしまって、それから韓国にゴネられて「強制労働」の表現をどうしようと悩むのだから、バカに上・中・並があるとしたら特上の大バカです。

 そもそも、ユネスコごときに世界遺産と認定されるのがそんなにありがたいことなのか。かつて佐藤栄作内閣の防衛長官だった西村直己氏が「国連なんて田舎の信用組合みたいなものだ」と言って辞めさせられたことがありましたが、あれこそ正論です。観光客が増えると言ったって効果はせいぜい一年か二年でしょう。観光客向けに、田舎の信用組合からもらった表彰状を仰々しく飾っているようなもので、そんなもののために日本に関する歪曲史を世界に広める権利を、日本の外務省は韓国に売り渡したのです。