北京で今月3日に行われた「抗日戦勝70年」の記念式典と軍事パレードで、韓国の朴槿恵大統領に対し中国当局が見せた“異例”の厚遇と、北朝鮮への露骨なまでの冷遇。対朝鮮半島外交での南北への温度差を、中国は強烈に見せつけた。韓国では朝鮮半島統一を視野に、対中関係の進展を歓迎する熱が今も冷めていない。そんな韓国への接近を続ける姿勢からは、中国の朝鮮半島政策の本音が感じ取られる。(ソウル 名村隆寛)

異例の厚遇に今も余韻


 天安門広場で盛大に行われた軍事パレードを、朴大統領は天安門の楼上から観閲した。習近平国家主席の右隣にはロシアのプーチン大統領。朴大統領は賓客としてはそれに次ぐ2番目に座った。

 北京からの映像は、黄色い服装でただでさえ目立つ朴大統領を、その“序列”が一層際立たせた。韓国メディアは、韓国の首脳として初めて軍事パレードを参観した朴大統領の様子を、逐一速報。予想以上の中国のもてなしぶりを感激を込めて伝えた。

 また、韓国人の潘基文国連事務総長が夫妻で習主席から5番目と6番目にそれぞれ着席したことも、加えて韓国を感動させた。

 同時に韓国が驚いたのは、北朝鮮に対する中国の想像以上の冷たさだ。北朝鮮の金正恩第1書記の「代理」として訪中した崔竜海書記は、列の最も端に座った。

「中朝関係の変化を象徴」(聯合ニュース)「朝鮮半島の南北に対する中国の比重が変化」(KBSテレビ)などと、韓国メディアは中国の「変化」をこぞって指摘し、強調した。

 「感激」「感激」の雰囲気に包まれるなか、朴大統領は帰国。訪中の成果を強調する韓国政府はもちろんのこと、メディアも大統領の訪中をおおむね肯定的に評価している。中国の朴大統領への厚遇と韓国への“特別な配慮”は、韓国世論の対中国観をさらに向上させている。


苦慮の末の訪中、観閲


 朴大統領の訪中と軍事パレード観閲については、韓国国内で異論もあった。

 中国は南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島の実効支配で国際社会から批判を受けている。そんな中国で軍事パレード観閲に参加することが、果たして韓国の国益にかなうのかという批判だ。

 また、中国は朝鮮戦争(1950~53年)に介入し、韓国軍と米国を中心とした国連の連合軍を相手に戦った。緒戦で北朝鮮の南下を許した韓国側は、その後、一気に北上し、中朝国境の一部にまで達した。ここで北側に付き参戦した中国軍(人民志願軍)のために、戦況は膠着(こうちゃく)し、その結果、韓国軍は約20万人の死傷者(米軍を含む国連軍全体での死傷者は約36万人)を出したといわれ、大きな打撃を受けた。

 韓国には当時を生々しく記憶している世代が今も存命している。特に保守層の中には朴大統領の軍事パレード観閲に反発する声もあった。しかし、朴大統領はそうした反対を押し切り、訪中した。反対世論を説得したキーワードは「朝鮮半島の統一」である。

 昨年の年頭記者会見で「統一は大当たり(大もうけ)だ」とまで断言した朴大統領にとって、朝鮮半島の統一は最大の目玉政策だ。その統一のためには、北朝鮮との関係改善には中国の影響力は欠かせない。中朝関係が冷え切っているとはいえ、中国の存在は大きい。背に腹は代えられないわけだ。

露骨な対北冷遇


 韓国大歓迎の一方で、中国は今回、北朝鮮への“冷遇ぶり”を見せつけた。国家元首ではない“格下”とはいえ、崔竜海書記への対応は冷た過ぎると言ってもいいほどだ。

 金正恩第1書記の祖父である金日成主席の存命中に、中朝関係を象徴する表現だった「血の友誼」や「唇と歯のような関係」は面影もなく、全く消えうせた。また、自ら訪中し中朝首脳会談に臨み、対中関係を維持した金正日総書記の時代に比べても、中朝関係が極端に冷え込んでいることが露呈した。

 崔竜海書記を残酷なまでに“冷遇のさらし者”としたこの様子は、映像などを通して朝鮮半島の南北だけでなく、全世界に知らしめたられたわけだ。習近平体制の中国は当然、これを意図的に見せつけた。もちろん、北朝鮮の金正恩政権を意識した上でのことは間違いない。中国は北朝鮮に相当な圧力かけ、それを白日の下にさらした。

 北京の天安門で青空のもと、大胆な「南軟・北硬」のドラマを演出した中国。かつては血で塗り固められた関係であろうが、従わない北朝鮮には無言の圧力を感じさせる。ソウルからその様子を見ていて、「実にやり方が中国らしい」と感じさせられた。

白猫でも黒猫でも。南でも北でも


 朴槿恵大統領を最大限に厚遇し、韓国を感激させるかたわら、国際社会で孤立する北朝鮮を容赦なく追い込む中国。中国の朴大統領厚遇について韓国大統領府関係者は「(中国当局の)大きな配慮で、変化した韓国の地位を示した」(聯合ニュース)と評価したという。だが、果たして韓国メディアが分析したように中国の朝鮮半島政策は変わったのだろうか。

 習近平国家主席が朝鮮半島の南北に示した態度を見ていて、トウ小平元国家主席が残した名言が頭をよぎった。

 「白猫であれ黒猫であれ、ネズミを捕るのがよい猫である」という言葉だ。経済での生産力第一主義を言い表したものであり、時代背景やその意図は全く異なる。

 ただ、私見ではあるが、この「白猫と黒猫」を朝鮮半島の南北に置き換えてみたら、すんなりとくる。「北であれ南であれ、中国に従順な朝鮮半島であればいい」。中国の本音は、あえて言えばこんなものではないか。

 秋波を送れば近寄ってくる韓国は“予想通り”に感激し、近寄ってきた。一方で、北朝鮮の金正恩政権は親中国派の張成沢氏を処刑した後も、ますます中国の言うことを聞かなくなっている。仕方ないから中国は、さらに北朝鮮を締め上げる。北朝鮮が本心から米国と関係を改善し、米国ベッタリにならない限りにおいては。

 北朝鮮の経済状況が悪化しようが、当分は米国との防波堤のままでいてくれればいい。それほどに中国はこと朝鮮半島に対しては歴史的にもドライであり、したたかであり続けているのだ。

変わったのはむしろ南北


 先述のように、韓国には過度な対中国傾斜を戒める声が厳然としてある。特に同盟国である米国とのからみで、中韓接近が米国の「誤解」を招かないかという懸念だ。

 そうした韓国国内の心配や米国に配慮したのか、朴大統領は最後まで毅然(きぜん)とした表情で座ったまま軍事パレードを観閲し続けたという。韓国なりに頭をひねり、気を配ったことがうかがえる。

 訪米した習近平主席は、25日にオバマ米大大統領と会談する。ほぼ同時期に朴大統領も訪米し、ニューヨークで国連総会に出席。さらに10月にも再度、訪米し、米韓首脳会談に臨む。この場で朴大統領が米韓関係、米韓同盟の緊密さを確認しアピールすることは必至だ。

 韓国外務省の元当局者は「朴政権は対米関係の重要性や誤解を招いてはならないことは十分に理解している。慎重に扱うべきことは対米、対中との距離のバランスではないか」と指摘する。

 米中の間で苦慮する韓国の様子を眺める中国。その韓国の胸中を中国が十分に見透かしていることは濃厚であり、この元外務省当局者もそのことについては否定しない。

 米国に気を使いながらも、中国との関係進展を歓迎し、期待通りに近づいてくる韓国。一方で、弾道ミサイルの発射や4回目の核実験を示唆するなど中国の言うことを聞かなくなってしまった北朝鮮。そんな朝鮮半島の南北を中国は高みから眺めているかのような状況だ。長年、中国が朝鮮半島にとり続けてきた基本的な変わらない姿勢である。

手のひら返しも


 朴大統領の訪中の際、韓国厚遇で見せたように、中国は韓国を感激させ、韓国世論(メディア)の操作も簡単かつ巧妙にやってのける。中国が今後も韓国に対し“笑顔”で接し続けることは容易に予想できる。ただし、韓国が自ら中国に接近し、北朝鮮のように逆らわない限りは。

 中国が現在、韓国に対して最も神経をとがらせているのは、ミサイル防衛(MD)だ。米国は最新鋭の迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード」の韓国配備を韓国に促しており、中国は配備に強く反対している。

 THAADへの韓国の対応次第では、中国が手のひらを返したような反応に出ることは十分に予想できる。笑顔で手招きする一方で、相手の出方によっては態度を急変させる。中国はそうしたことをできる国である。とりわけ朝鮮半島に関しては。さらに、THAAD配備をめぐる韓国の胸の内、対中懸念についても、中国は十分に把握しているとみられる。

 朝鮮半島では今、南が米中双方の関係維持に苦慮する一方で、北は孤立の度を深めている。これまでの“挑発ポーズ”の繰り返しではなく、北朝鮮の本気の暴発が起きた場合、中国がどのように出てくるかは分からない。ただ、南であれ北であれ、素直に言うことを聞いてくれる朝鮮半島の政権の動向を中国は今、冷静に見守っていることだろう。