韓国が朴槿恵(パク・クネ)大統領の訪中を「大成功」と有頂天である。大統領府は「中国との外交ルートをフル活動する」と表明、尹炳世(ユン・ビョンセ)・韓国外相は「韓中関係の進展は桑田碧海(世の中が大きく変わった)」とその成果を国内に強調している。そんな韓国を牽制(けんせい)するかのように、北朝鮮はミサイル発射を予告、第4回核実験も示唆した。中韓の対北認識はどこまで深化したのか。中国の習近平体制は韓国側に付くのか、それとも北朝鮮を擁護するのか?自信満々の韓国の対中観がさっそく試されることになる。(久保田るり子)

キムチも中国味


 現在の日中韓関係は、韓国のキムチ事情に現れている。目下、韓国の食卓を席巻しているのは中国キムチだ。韓国キムチの6分の1という安価で韓国市場を広げている。一方、韓国キムチの輸出先のほとんどは日本で、これまでは約8割以上を占めてきたが、日韓関係の悪化などで日本向け輸出が急速に減少している。
 象徴的なのはその物量。輸入キムチは年間22万トン、日本への輸出キムチは年間約2万6000トンに過ぎない。そこには経済依存から中国に傾斜していく韓国の姿がクッキリみえる。また中国キムチは年々おいしくなっており、キムチ業者は「中国産の需要はさらに増える」と断言している。

 キムチの中国味に慣れたからでもないだろうが、朴大統領の訪中成功に韓国世論は沸いた。今年6月、中東呼吸器症候群(MERS)の影響で就任以来最低の29%まで落ち込んだ朴大統領の支持率は訪中後、54%に急上昇した。任期後半の大統領支持率では歴代最高の記録となった。

 一体、訪中の何が評価されたのか。韓国政府は「新たな能動的外交で、韓国の存在感を高め、強固な米韓同盟と中韓戦略的協力パートナー関係を同時に進めることができた」などと自賛している。

 世論には、政府の中国一辺倒を批判する声や、中国との半島統一協議には慎重論もある。だが政府サイドはこの訪中を「歴史的なターニングポイント」と位置付けている。

 尹外相は訪中直後のラジオ番組で、北朝鮮による地雷事件をめぐり、「解決に向けて中国は背後でさまざまな役割を果たした」と暴露したり、首脳会談では「北朝鮮の核問題で中国は積極的な役割を果たす考えを示した」と語った。

 中韓関係がいかに緊密化したかのアピールだったとはいえ、外相自らが相手国の水面下の動きを語るのは外交儀礼上はあり得ない。こんなところにも期待と熱望の韓国外交の中国に寄せる「熱い思い」が現れているようだ。

“エビ・コンプレックス”は克服?


 韓国には「クジラのけんかでエビが潰れる」(強いもののケンカで弱い者が被害を受ける)ということわざがある。米中は「クジラ」、韓国は「エビ」である。そして朴政権が中国傾斜を強めて、安全保障を米国、経済を中国に後ろ盾を求め、両国の意向にも気をもむようになったことを「エビ・コンプレックス」と呼んでいる。

 一例は、米国が韓国側に駐韓米軍の配備の了解を求めている戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)問題と中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への韓国の参加問題だった。韓国はこの問題で米中のはざまに立った。そんな韓国を「ソウルエビ」などと揶揄(やゆ)して、その外交戦略の危うさを指摘した欧米メディアもあった。

 朴大統領は先月、訪中を前にしてのセミナーの演説でこの「エビ・コンプレックス」を取り上げた。そしてこう述べた。「私たちは世界史に類例がないぐらい成長を成し遂げたのだ。“クジラとエビ”の話を口にするのは敗北主義だ」

 このところ韓国政府は訪中問題を「国民は誇りを感じ、米国など友好国は理解や共感を示している」とコメントし、訪中は米国とも緊密に協調してきたなどと強調して、「エビ・コンプレックス」の払拭に懸命だ。

 朴大統領自身も韓国メディアに「内容を具体的には明らかにできないが」としながらも、習近平氏と北朝鮮による軍事挑発を抑制する方策について「非常に緊密に話し合った」などと述べ、首脳外交に自信を示している。

 ただ、中韓が急接近したからといって中国にとっての北朝鮮という戦略的な価値が簡単に変化するわけではない。中国の対北戦略は、国際的な緊張関係のなかで国益に即した戦術的選択がなされることになる。長年、北朝鮮を見てきた韓国のウオッチャーは、中韓首脳会談の成果について「まず、北朝鮮の長距離ミサイル発射に中国がどのような立場を取るかを見定めることだ」と冷静に指摘している。

 朴大統領は来月中旬に訪米予定で、「もう一方のクジラ」である米国のオバマ大統領との首脳会談が控えている。次いで10月末には日中韓首脳会談と日韓首脳会談が続く。韓国の「エビ・コンプレックス」の行方は、今秋の首脳外交の課題となりそうだ。