藤田孝典(「ほっとプラス」代表理事)

 藤田孝典さんが代表理事を務める「ほっとプラス」は、生活困窮者への支援活動を行うNPO法人だ。そこでの活動経験をもとに書いた著書『下流老人』(朝日新書)は、発売された6月に新幹線での老人の自殺事件があったこともあり、大きな反響を呼んだ。藤田さんはその後も、「下流老人」という言葉の名付け親としてマ
スコミの取材に引っ張りだこだ。いったい高齢化社会にいま何が起きているのか、「ほっとプラス」の事務所のある埼玉で話を聞いた。


――6月に新幹線で焼身自殺した老人さんは、6月に仕事を辞めたのに年金受給額が増えずに生活できなくなったと言っていたようですが、それは本人の誤解だったのでしょうか。

新幹線放火事件。出火した1号車の隣、2号車でも煙が押し寄せていた=6月30日(乗客提供)
藤田 低賃金で35年くらい働き続けたようですが、年金受給額もそう多くないので、老後も働き続けないと暮らせない、そのケースなんですね。でも70歳を過ぎたら仕事もなかなか見つからない。恐らく生涯働きながら、その収入プラス年金で暮らしていこうと思っていたんでしょうが、失業したことでその人生設計が崩れたということではないでしょうか。失業したら年金受給額が増えるということはないのです。年金制度自体に対する誤解があったのかもしれない。

 それよりも残念なのは、元々年金受給額が低い人に対しては「補足性の原理」といって、生活保護基準に満たない場合は足りない分だけ補助が出るんですよ。例えば彼の場合は、足りない分が給付されたはずなんです。

――そういう仕組みを知らずに申請していなかった可能性があるわけですね。

藤田 実際には生活保護の相談も区議会議員や福祉課の方にしていたようですけれども、彼の場合はちょうど難しいラインなのです。私たちも一番相談が多くて、難しいのが年金受給額が12~13万円というラインです。生活保護の対象になるのかならないのかわかりにくいボーダーライン層なんですよ。私も元ケースワーカーで、非常勤で福祉事務所で働いていましたけれど、計算の仕方によっては該当してこないという難しい事例なんですね。

――年金受給額が12~13万円というのは平均的なんですか?

藤田 むしろ多い方ですよ。今の年金受給額の全国平均は、確か6万円から8万円程度だったと思います。この人の場合は、低賃金とはいえ厚生年金が上積みされているのでそうなるんです。彼は長いこと真面目に働いてきた労働者なんですよ。現役の時代には月収28~29万あったという人ですね。

 だから私が言う「下流老人」というのは、底辺労働者だった人ということでなく、一般の生活をしていた人たちが貰う年金の金額がこれで、そういう人たちが独居暮らしになると生活できなくなってしまうということなんです。大半の人がそうなる可能性を秘めているんです。

 私も試算していますけれども、年収400万円の平均的な所得の今のサラリーマンは皆これくらいの基準ですよね。その下の世代になるともっと低い。生活保護基準をゆうに割ってくる金額しか支給されないんです。だから老後は皆そうなる可能性があるよ、ということで警告を発しているんです。

 高齢者といっても夫婦ふたりで暮らしている間は両方の年金が得られるので何とかなるのですが、いま一人暮らし世帯が凄く増えているんですよ。一人暮らしの高齢者は東京都内で暮らすのは本当にしんどいと思いますね。もし認知症になったとか、病気になったとかというトラブルに直面すると、入院する費用もなかったりすることがあります。

――藤田さんの「ほっとプラス」に年間100人くらい相談が来るそうですが、だいたい生活が成り立たない人?

藤田 生活が成り立たない、病気の医療費が払えない、サラ金からお金を借りているけど返せない、とかいろいろですね。

 だから私たちは、医療費を払えないという場合には、医療費を払わなくてもいいような病院、無料低額診療事業という病院を紹介したりだとか、一応ソーシャルワーカーという社会福祉の専門家として相談を受けて支援をしているので、「この人は生活保護かな」とか、どの制度を使うと一番良いかな、ということで一人一人アドバイスしています。借金があれば弁護士を紹介して、一緒に自己破産手続きをやったりすることもあります。