河合雅司(産経新聞論説委員)

 介護保険が大きく見直される。一定以上所得がある人の自己負担を2割にするほか、「要支援」の一部を自治体に移管、特別養護老人ホームの入所基準を原則「要介護3以上」に制限-など、制度創設以来の改革となりそうだ。

難しい仕事との両立


 “大介護時代”を迎える日本。2025年の介護費は、現在の2倍以上の21兆円程度に膨らむ見込みだ。保険料もうなぎ上りとなる。制度崩壊を防ぐには、サービス低下や負担増は仕方がない。

 介護保険が抑制されれば、「家族による支え」への期待が高まるだろう。だが、専業主婦は減り、在宅介護を担い得る家族が不在の世帯も多い。総務省が7月に発表した「就業構造基本調査」によれば、働きながら介護する人は291万人で、40~50代の働き盛りが167万人を占める。こうした現実にも目を向けなければならない。

 深刻なのは、辞職や転職を余儀なくされた「介護離職」の増大だ。2012年までの5年間で48万7000人にのぼる。毎年10万人もが職場を去った計算である。

 肉親の介護はいつ訪れるか予測がつかない。男性を含め誰もが直面する問題だ。働きながら介護する40~50代の男性は69万人。過去5年に介護離職した男性は9万8000人を数える。厚生労働省の資料によれば、介護離職した40~50代男性の半数が「41~50歳」の時に辞めていた。

 40~50代といえば管理職や主要業務を担当している人が少なくない。企業にとって人材を突然失う影響は計り知れず、働き盛りの介護離職を個人の問題として簡単に片付けるわけにはいかない。

 高齢化はこれからが本番だ。日本経済の根幹を揺るがす大問題であると、認識しなければならない。

少子化問題が背景に


 なぜ働き盛りの介護離職が増えたのか。背景には少子化がある。兄弟姉妹が少ない世代が親の介護を考える年代となったのだ。夫婦共働きも増えた。介護の分担や金銭的援助を頼める相手がなく、老いた親を1人で抱えるケースは珍しくないのである。

 もう1つの要因は、介護休暇への理解が進んでいないことだ。就業構造基本調査によれば、介護休業制度の利用者は37万8000人にとどまる。先の読める育児とは違い、介護は何年続くか分からない。休みの取得を言い出しづらい雰囲気が職場にあるのだ。

 とりわけ、責任ある立場の男性ほど「現在のポジションを奪われる」との不安に陥りやすいとされる。職場で悩みを打ち明けられず、精神的に追い詰められて突然の離職に走るのである。

 働き盛りの介護離職は、団塊ジュニア以降の世代でますますの増大が予想される。出生率のさらなる低下に加え、未婚者が増加しているためだ。一人っ子同士の夫婦も多く、それぞれが自分の親を介護する例も増えるだろう。

支援の機運づくりを


 離職後も厳しい現実が待ち受ける。公益財団法人「家計経済研究所」によると、在宅介護の費用は月額平均6万9000円。収入が不安定な中で、家計に重くのしかかる。

 40~50代で復職や新たな仕事を探すのも容易ではない。要介護状態の親族が施設入所できたとしても、離職に伴うブランクは大きい。過去5年間で介護離職した人のうち、仕事が見つかったのは12万3000人。36万4000人は無職のままだ。要介護状態にあった親が亡くなり年金収入が途絶えた途端に、生活保護に頼らざるを得ない人もいる。介護離職を減らすことが急務だ。

 どうすればよいのか。介護保険に多くを求められない以上、在宅介護への理解を広め、介護する人を支援する社会機運をつくるしかない。

 まずは孤立化を防ぐため、介護と仕事の両立に関する相談窓口を整備し専門家のアドバイスや情報提供を進める。離職者の復職・転職支援の態勢も整えることだ。企業の役割も重要だ。柔軟な出退社を認め、休んだ社員が待遇や人事評価でマイナスにならないルール作りが必要となる。元気な高齢者による介護ボランティアにも期待したい。

 ケアプラン作成にあたって、家族の働き方や抱える問題まで含めて考えることも重要だ。サービスの利用方法を少し工夫するだけで、家族が働ける時間を延ばすことができた事例もある。柔軟な発想を持ったケアマネジャーの養成が急がれる。

 多くの人が“介護地獄”に陥るようなことがないよう、法整備を含めた対策を講じることが求められる。