小田垣祥一郎(おだがき・しょういちろう) 元・東北管区警察局長

 筆者は2003月1月号の「Voice」誌上に「少子化は国を滅ぼす」という一文を筆名で寄稿した者である。誠に残念ながら、その後の約10年間もわが国は少子化克服に向けた真正面からの取組みを避け、及び腰の姿勢に終始した。今日、わが国の人口問題を巡る危機的状況は一段と厳しいものとなってきている。

 先般、政府の経済財政諮問会議下の「選択する未来」委員会が国を挙げて抜本的対策をとるため「50年後に人口1億人程度を維持する」との目標を提示する提言をまとめたことが報じられた。人口問題の解決に向け、ようやく大きな一歩を踏み出したものとして評価したい。

 しかしながら、その実現のための具体的な諸施策の構築はまさにこれからである。これを契機に少子化に伴うわが国人口問題の抜本的解決に向け、真正面から取り組む気運が全国的に一段と盛り上がっていくことを期待したい。
 

危機的状況が深刻さを増す日本の人口動態

 厚生労働省発表の「将来推計人口」統計等が示すように、わが国の人口動態は一段と加速する少子化、高齢化、人口減によって、ますます危機的状況を呈しつつある。その点に関し、昨今海外では先年の雑誌『The Economist』の日本特集はじめ、随所で厳しい指摘がなされている。

 また、中・長期的観点から日本経済の今後に関し、投資関連エコノミストですらずばり人口問題に言及し出している。たとえば、安倍内閣発足直後の2013年1月時点で「人口減が続く日本で潜在的成長力を高めるのは構造的に難しい」(アンドリュウ・ローズ/英シュローダー)、「人口減少を止めること以外に新政権に期待することはない」(ジェイ・タルボット/フィデリテイ投信)。また、シンガポールに拠点を置く世界的投資家ジム・ロジャース氏は日本の課題の一つとして「子供の数を増やすこと」、日本経済の活性化対策は「少子化対策につきる」と述べている。 それに引き換え、わが国内の論調は、いまだ出生率・出生数の上昇策について真正面から論じるものがほとんど見当たらない。

 連日、少子化対策の最重点施策となっている待機児童解消施策関連記事が紙面を賑わす一方で、介護・医療施設の拡充等高齢者対策としての社会保障制度のいっそうの整備充実が強調される日々である。また、経済面では、女性・高齢者の社会進出、縮む国内市場との関連で企業の海外展開、最近の景気回復を反映し海外からの人材受入れを論じるものが大半である。さらにこのところ、人口減少社会の制度設計といった観点から、「高齢者」の定義見直しや超高齢化に備えた都市機能の再編といった議論が活発になってきている。

 少子化、人口減少社会への対応策の一環としても、「女性・高齢者の活用、海外からの人材受入れ、生産性の向上による対処を」といった主張が盛んである。最近行なわれているいわゆる少子化の持続に伴う「負」の部分・「人口オーナス」論議でも、その対策として、社会保障制度の持続性の確保・信頼度の回復、海外からの人材受入れ、女性・高齢者の労働市場への参入といったことを論じるものがほとんどである。

 国民から信頼される社会保障制度を構築することはぜひとも必要なことであり、重要な政策課題である。女性・高齢者の社会進出もそのこと自体、大変重要かつ有意義な今日的課題である。しかし、こうした対策は、少子化の長期に亘る持続により国勢の衰退を招く“日本病”にとってはあくまで対症療法にとどまるものであり、過渡的、部分的な激変緩和効果を有するに過ぎない。

 また、景気浮揚の中、建設現場などでの人手不足を反映し、再び海外からの人材受入れ論議が盛んである。それとも関連し、少子化、人口減少社会への対応策として「日本型移民政策」など移民受け入れ論も活発になってきている。

 しかし、移民・海外からの人材受入れは、わが国の人口規模の大きさからいって、一時的、部分的効果はあっても、少子化の持続に伴うわが国の人口問題の抜本的解決策となり得るものではなく、安易な期待を持つことは禁物である。さらに、ある程度以上の大規模な移民受け入れは、国の姿を大きく変えることになり政治的、社会的に許容できないものとなる。この点は、ヨーロッパでの事例、最近の東アジア情勢に鑑みてもとくに留意すべきである。

 危機的状況を呈しつつあるわが国の人口動態の現状に鑑みるとき、わが国においてなされている、それに関わる論議の大半がいまだ待機児童解消対策や対症療法的観点からの議論に終始しているのは問題であろう。そこには、残念ながら、わが国の未来を担う新しい世代人口の増加策を真正面から論じるものはほとんど見当たらない。

 また、“日本病”を根本的に治療するため、出生率・出生数を上げることによって、少子化傾向を克服し、日本国の体質の抜本的改善を図るという取組み姿勢がまったく見えてこない。むしろ、避けている感さえある。

 こうした状況は、わが国の国家としての危機管理能力、対処能力に重大な疑問符を投げかけるものである。少子化を克服し、わが国の人口問題を解決するには、長期の期間を要するとともにまさに時間との競争である。国の「今」及び「未来」に責任を有する現世代が、直面するこの国家的危機への対処を誤るようなことになれば、それは後世に取り返しのつかない大きな禍根をもたらすことになりかねない。

 もし、実際に日本の人口動態が「将来推計人口」(2012年1月発表)が示すような推移を辿ることになれば、2060年から先の日本はさらに人口減少が加速し、適正な人口規模を維持することは至難のことになるだろう。現在でも、65歳以上の人が3割以上を占める過疎地での生活の厳しさがしばしば報道され、我々は超高齢社会とはどのようなものか、およその見当はつく。わが国がいまから50年後に国民の4割、5人に2人が65歳以上という超高齢社会を本当に迎えるということになれば、日本国民はそこに至るまで暗い見通しの下、激変の苦痛に耐えつつ衰退の道を歩み続けることになるであろう。後世の各世代にどのような申し開きをするのだろうか。

 そうした流れ、推移をそのまま「是」、「既定の流れ」とすることは、まさに日本国が座して死を待つ「ゆで蛙」になりかねないということではないか。

 この危機に対処するにあたって、希望的観測に甘え、危機に背を向け続けるのか、あるいは真正面から向き合い、国勢の衰退に歯止めをかけ、反転に転じ、流れを変え、そのような事態に立ち至ることのないよう、原因療法による抜本的解決策をとり誤りなきを期すのか。われわれ自身の危機管理能力、対処能力が、いま、まさに問われている。

 1994年にエンゼルプラン(今後の子育て支援のための施策の基本方向について)が策定され、わが国の少子化対策がスタートしてすでに20年になる。それ以来、実施されてきた諸施策は、個別の施策としては、それぞれ一定の成果をあげつつある。また、その間、民間レベルでも少子化問題について関心が高まり、多くの提言、アピール等が出され、シンポジュウムやキャンペーンはじめ各種の企画が打ち出されてきた。

 しかし、少子化問題の核心たる「出生率」は過去最低の「1.26」となった2005年までほぼ一貫して低下の一途をたどった中、2012年には「1.41」となったものの、ここ十数年は「1.3台」で低迷を続け、顕著な改善、上昇の兆しはまったく見えない。この厳しい現実は、少子化対策の最重点施策として全国的に展開されている待機児童解消対策も含め、これまでのような取組みだけでは、事態の顕著かつ速やかな改善はもはや望めないことを示している。

 これまでのわが国の少子化対策は、待機児童解消対策としての保育関連施設の拡充や育児休暇取得促進など「仕事と子育て両立支援」を大きな柱とするものであり、子育てにやさしい環境整備に重点が置かれてきた。それは「出生率の上昇」についての真正面からの取組みを避け、目標管理なきままの個別施策の逐次投入であったといえる。その背景の一つとして、わが国では、結婚や出産は個人の人権や自由に関わる問題ということで、政官民とも少子化対策に対する取組み姿勢にずっと及び腰の面があったことが影響していることは否めない。戦前戦中の「産めよ殖やせよ」への慮りも影響しているとの指摘もある。

国民全体の取り組み姿勢にかかっている

 わが国の少子化を巡る状況は、危機の程度がうんと軽いうちに上昇トレンドに持ち込んだフランスに比べ、はるかに厳しいものになっている。

 フランスでは、合計特殊出生率は、1975年に人口静止水準「2.08」を下回った後、1993年、1994年の「1.65」を底として上昇に転じた。12年後の2006年には、合計特殊出生率は、「2.005」と「2台」を回復し、その後もおおむね「2台」を維持している。フランスは少子化に伴う人口問題の解決については、ほぼ目途がついた状況である。

 これに対し、わが国の人口ピラミッドは、長期にわたり持続する少子化とハイスピードで進行する高齢化によって、世界の中でも群を抜いて不健全なものになりつつある。わが国の現状はもはや「1.3台」、「1.4台」の出生率を巡って、コンマ以下の数字のアップアンドダウンに一喜一憂しているような状況ではない。

 少子化の持続に伴う「負」の連鎖を断ち切り、少子化に伴う人口問題を解決するためには、フランスのとった諸施策を踏襲するだけでは不十分である。それ以上の思い切った画期的な諸施策を、短・中期集中して講じる必要がある。いつまでも希望的観測に依拠するのではなく、いまこそ発想の転換をし、真正面からの抜本的解決策を打ち出すべきである。

 わが国の少子化に伴う人口問題を抜本的に解決することを可能にするものは、原因療法となる「出生率・出生数の大幅な上昇」実現であり、それのみである。換言すれば、「出生率・出生数の大幅な上昇」の実現こそが日本を救う。この自明の理をすべての国民は愚直に肝に銘じるべきである。そして、「出生率・出生数の大幅な上昇」実現により、わが国の将来に明るい展望を切り開くことが可能になることを指し示すグランドデザイン(国家戦略)を掲げるときである。

 その成否は国全体、国民全体の取組み姿勢、やる気いかんにかかっている。この国のリーダーには、「難問ではあるものの必ず解決できる」ものとして、その実現に向け大きく動き出す気運を国全体に醸成していくことが求められている。われわれは、そんなことは無理難題であるとする悲観論、少子化は先進諸国の大きな流れであり、それに逆らうことは出来ないとする諦観論、このままの状況が続いても女性・高齢者の社会進出、移民や海外からの人材受入れなどで何とかなるだろうといった誤った楽観論に惑わされることがあってはならない。

 「為せば成る、成さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなり」 。 上杉鷹山公のこの言葉に思いを致し、政官民ともに立ち上がるときである。 

グランドデザイン(国家戦略目標)の構築を

 時間との競争が最重要ファクターとなり、待ったなしのこの危機に対処するため、「出生率・出生数の大幅な上昇」の実現を柱とする、少子化に伴う人口問題の抜本的な解決策を指し示すグランドデザイン(国家戦略目標)を構築する必要がある。それによって、国民に国の将来についての明るい展望を提示し、国民が希望と自信を持ってその方向に立ち向かう気運を醸成しなければならない。以下に私案を示す。

 まず、グランドデザイン(国家戦略目標)の構築にあたって必要なことは、シミュレーション事例による分析を最大限活用し、出生率・出生数の大幅な上昇を実現できれば少子化に伴うわが国の人口問題を抜本的に解決することが可能になる道筋を示す。

 それによって、国民の国の将来に対する不安感、悲観的な見方を払拭し、わが国の将来について、末永く平和かつ安全で、安定し繁栄する国家であり続けることが可能になるとの明るい展望を指し示す内容が盛り込まれることが大切である。

 次に、具体的な諸施策は、子育て世代の要望、ニーズを吸い上げるなどしつつ、叡智を結集して策定されるべきものであるが、以下の事項が包含されることが望ましい。

<位置付け>
 少子化に伴うわが国の人口問題は、わが国の中・長期的観点からする最大の国家的危機管理問題であり、その解決は喫緊の最重要、最優先政策課題として位置付ける。

<政策目標の設定>
 将来のわが国の総人口の適正規模を模索する中で、まずは、危機的状況にあるわが国の少子化状況を踏まえ、人口動態の激変緩和に努めつつ、少子化に伴う「負」の人口問題を解決し、わが国が末永く平和かつ安全で、安定し豊かで将来に明るい展望が持てる最先進の長寿国として、世界の模範になることをめざす。
 少子化対策の最終目標数値(出生率着地点)は、わが国の総人口の適正規模レベルで、人口静止水準である「2.08」とする。
 途中段階では、人口動態の激変緩和を図る観点からも、適宜参考目標数値(例:出生率―「2.08」以上の数値を含む、出生数―2割、3割、4割増)を掲げ、政策目標の達成に資する。
 政策目標の達成に向けては、諸施策の有効性をきめ細かく点検、評価し、目標達成に効果があると考えられる新しい施策等については、タイミングを失することなく打ち出していくこととする。

<「子ども・家庭省」の設置>
 縦割り行政の弊を是正し、「子育て・家庭支援」を一元的に担当する組織として、「子ども・家庭省」を設置する。その場合、専任の「子ども・家庭大臣」が少子化対策の政策目標、数値目標の達成について、真の司令塔的役割を果たすことができるように組織や権限の整備を図る。

<出産・子育て家庭に対する経済的支援>
 これについては、以下に挙げる取り組みを行なう。脱少子化へ向けて、社会全体の流れが変わるまでGNPの相当部分を投入する必要があろう。
 (1)高齢化社会対策偏重から出産・子育て重視へのウエイトシフトを一段と推進し、より均衡のとれた社会保障制度とする。
 (2)出産・子育て家庭に対する経済的支援をするにあたっては、「手当」と「控除等税制上の優遇措置」の両面から支援することにより、出産・子育て家庭に対する経済的支援の徹底振りが一目瞭然となるように配意する。その場合、第2子、とくに第3子以降にメリハリの効いた優遇格差を設ける。さらに大家族優遇制度を整備する。(例:子供の数に応じた税制上の「子ども控除」)。また、公平上の観点から、いわゆるフリーライダーと出産・子育て家庭とのあいだで思い切った税制上の負担是正を図る。
 (3)企業社会といわれる今日、企業(団体)の出産・子育て家庭に対する取組み姿勢は、少子化克服の成否に大きく影響する。企業(団体)が出産・子育て支援のための各種取組みを一層実施し易くなるように、国・地方自治体は可能なかぎり税制上等の優遇措置を講じる。とりわけ、「本給一本建」の給与体系から「出産・子育て支援重視」の給与体系への転換が促進されるよう配意する。
 (4)子育て環境の整備については、これまで講じられてきた諸施策を踏まえ、待機児童解消や育児休暇取得促進、子育て一段落後の社会・職場復帰促進のための施策等の一層の充実を図る。

広報活動にも力を入れるべき

 こうした諸々の施策に加え、国を挙げて抜本的な少子化対策を講じる必要があることについて全国民のコンセンサスを得るべく、さらなる全国的な広報・啓発活動を展開すべきである。

 多くの国民にとっては、日々の生活の中で実感しにくいこともあり、少子化問題が抱える危機的状況の深刻さについての自覚度、危機意識の共有度はいまだ不十分と言わざるを得ない。

 たとえば、内閣府の調査結果(2009年12月5日発表)によれば、「結婚しても必ずしも子どもを持つ必要はない」と考える人は、男性が38.7%、女性が46.5%、全体では42.8%となり、その2年前の調査に比し、6%増で過去最高であった(年齢別では、20歳代46.5%、30歳代が59%)。

 広報・啓発活動を展開するにあたっては、今日の日本の少子化を巡る状況は、それがたんなる人口減少社会の到来といったことではなく、スノーボールが急坂を転がり落ちていくがごとく、人口減少を制止、コントロールすることが時々刻々難しくなってきている。そういう危機的状況にあることを、わかりやすく説明することにとくに意を用いる。

 同時に出生率・出生数の大幅な上昇の実現に向けて、国民の理解を得、意欲を引き出すべく、プラスの仮定数字を使った複数のシミュレーション事例を活用した広報・啓発活動を大々的に展開する。たとえば、もし、出生率・出生数の大幅な上昇が実現したならば、年金・医療等の社会保障の分野での財政見通しの改善、経済分野での国内消費市場の拡大・労働力不足の緩和はじめ各分野で好循環が始まり、明るく、活力あるわが国の未来像を描くことが可能になることを具体的数字によって、わかりやすく説明する。

 それによって、前向き志向の政策論議を活発に展開する機会を国民に提供し、少子化に伴う人口問題の抜本的解決にためには、出生率・出生数の大幅な上昇を実現することが必須であり、最も確実な解決策であることをすべての国民があらためて自覚し、その実現に向け、一丸となって動き出す気運の醸成を図る。

 

「出会い・縁結び支援」の美風復活キャンペーンを推進せよ

 晩婚化の進展と未婚率の上昇に歯止めをかけ、少子化問題克服の重要な決め手の1つである結婚率の上昇を図るため、家族・親戚・知人間、地域・職場等における「出会い・縁結び支援」の美風復活に向けた各種キャンペーンを国、地方自治体が率先して推進する。それに応じ、企業(団体)等民間レベルにおいても「出会い・縁結び支援」の美風復活に向けた取組みを積極的に展開することが望まれる。

 自由恋愛の時代と言われる今日ではあるが、晩婚化のいっそうの進展、未婚率のさらなる上昇が少子化克服への大きな障害となりつつある。民間営利企業、NPO法人、地方自治体等による婚活活動が年々盛んになってきているが、いまだ流れを変えるまでの成果は得られていない。

 かってそうであったように、各人が積極的に縁結びの神様役になろう。そういう気運が社会全体に出てくれば、経費・予算やプライバシー保護の問題に、より煩わされず、「出会い・縁結び支援」を広範に行なうことが可能になる。

 「出会い・縁結び支援」の美風が社会全体に復活することによって、少子化に伴うわが国の人口問題解決の決め手の1つである結婚率の上昇、ひいては出生率・出生数の大幅な上昇につながることをめざすのである。


小田垣祥一郎(おだがき・しょういちろう) 元・東北管区警察局長
1936年、京都市生まれ。京都大学法学部卒。ジョンズホプキンス大学院修士。東北管区警察局長、日本鉄道建設公団監事、明治安田生命保険(相)顧問などを歴任