井本省吾(元日本経済新聞編集委員)

 昨夜、テレビ朝日の「報道ステーション」を見ていたら、古舘伊知郎キャスターが九州電力川内(せんだい)原発の「合格証」交付について10日に放映した同ステーションの番組に「大きな間違いがあった」として訂正して謝罪、画面に向けて深く頭を下げていた。

 これは原子力規制委員会が「同番組に事実誤認と意図的な偏向編集がある」として訂正と謝罪を要求した結果だ。私はたまたま10日の同番組も見ていた。その時の内容はこうだ。

<記者A:火山に対する予測であるとか、影響に関して非常に多くの批判がありましたけれども。
記者B:現在の科学の知見をねじ曲げて、これで審査書を出すと、これはいわゆる安全神話の復活になるということは言えないでしょうか。

田中俊一委員長:答える必要がありますか?なさそうだからやめておきます>

 見ていて、なんとも高飛車な人だなあ、と感じさせた。エリート意識に凝り固まり傲慢で唯我独尊、上から目線でしか庶民を見ていない。そんな印象である。実際、田中委員長の過去の発言にはそう思われても仕方のない点がしばしば見られた。だから、「やはり」「またか」と思わせたのだ。

 だが、これは「意図的な偏向編集」だった。規制委員会のホームページとテレ朝の12日の訂正番組によると、実際のやりとりはこうだった。

記者会見する原子力規制委の田中俊一委員長=2015年7月15日午後、東京都港区
 <記者A:今回、川内原発の審査書に関しては、大きく火山に対する予測であるとか、影響に関して、非常に大きな批判がございましたけれども、この辺については、当初から予測されていたものなのか、それとも全く想定外の批判であったのか。
田中委員長:火山については、今回、新しい規制の中で初めて火山の影響というのを取り入れたわけです。それについて、きちっと評価をしていって私どもとしては、川内については、火山の影響というものは運転期間中には及ばないという判断をしつつ、かつ、自然現象ですので、未確定というか、絶対という言い方はできませんので、モニタリングをしながら、その対応についても、安全確保の面できちっと心配のないようにしようということを取り組むことにしました。(中略)
記者B:火山についてお伺いします。東大の藤井先生や中田先生の主張に基づけば、分からないことは分からないというスタンスもとり得たのではないでしょうか。あとは判断を政治に委ねるとか、そういうこともできたように思うのですけれども、いかがでしょうか。
田中委員長:そういうお考えの方もいるでしょうけれども、私どもとしては、判断は、今、持っている知見に基づいて行ったということです。藤井さんとか中田さんが言っている、分からないというレベルは、多分、ハマダさんが理解している、分からないということとか、予測できないということとは意味が違うのだと思います。
記者B:いや、そんなことないです。中田先生に、川内原発運用期間中にカルデラ噴火が起きるかと聞いたら、ないと思うとおっしゃっていました。私もそう思っています、はっきり言って。だけれども、それはそれとして、科学に基づいて審査書を出すのであれば、やはりそこは分からないと言って、残余のリスクについては政治に任せるという方が、かえって原子力規制に対する信頼が増すのではないでしょうか。これは別に川内の例だけではなくて、今後の審査にも影響しかねない話だと思うので、これだけ問題になっているという点もあると思うのですけれども、いかがでしょうか。
田中委員長:今、おっしゃったように、姶良カルデラの噴火はないということで、私どもの判断したのは、原子炉の運転期間中、今後、長くても30年でしょうということを私は申し上げているのですけれども、その間にはないだろうという判断をしたということなのです。だから、単に分からないと言っているわけではないのです>

 この後、記者Bが同様の質問を繰り返して、食い下がったので、田中委員長は「答える必要がありますか。なさそうだから、やめておきます」と質疑を打ち切ったのだ。
 
 10日のテレビでは田中委員長が回答していた部分をすべてカットしたので、高飛車で傲慢な印象を与えたのである。12日の番組はこのカット部分を放送し、謝罪した。

 田中氏の発言とかけ離れた編集のひどさに、原子力規制委員会は翌日のホームページで事実経過を流し(本文もそれに基づいている)、「不適切だ」と批判した。

 親会社の朝日新聞社が「吉田調書」「従軍慰安婦の強制連行」の誤報で、謝罪し、木村伊量社長が辞任を約束した当日での規制委員会の「抗議」である。テレ朝幹部は震え上がったに違いない。早急に訂正と謝罪をしなければ、自身にも火の粉が降りかかってくると。

 朝日新聞が「炎上」していなかったら、テレ朝はこれほど迅速に謝罪に動いていただろうか。
 
 もともと朝日新聞及びその系列下にあるテレ朝は反原発の編集方針だ。その方針に都合の良い事実を大きく取り上げ、不都合な真実は小さく扱い、時に無視する。それが嵩じると、意識的、無意識的に事実を意図的に捻じ曲げる方向に動いてしまう。

 私も景気予測や企業経営について新聞記事や雑誌記事を書いてきた記者だったから、わかる。方向性の明確な歯切れの良い記事にするには都合の良いファクトを強調して書き、方向性に合わないファクトを小さく扱うか、無視しがちになる。

 もとより不都合なファクツの発見がふえると、修正せざるをえない。その健全な判断力、修正意識を失わないことが大切だが、思い込みが激しいとしばしば視野狭窄状態となり、後で内心忸怩たる思いに至ることがあった。

 とりわけ、新聞社全体の方針が例えば「反原発」となると、軌道修正は容易ではない。

 東京電力福島原発の吉田昌郎所長(当時、故人)に事情聴取した「吉田調書」の誤報もそうした反原発の大方針のもとで生まれた。

 テレ朝は10日のテレ朝番組についても編集の仕方のミスで、意図的な偏向はなかったというだろう。

 だが、私は疑っている。反原発という大方針のもと、半ば意識的、半ば無意識に番組内容を作り上げてしまったという疑いだ。事実を捻じ曲げることへの贖罪意識はある。その意識を消し去って行動に移すときの心理状態はこうだ。

 <事実を捻じ曲げてなんかいない。だって、我々は田中委員長がしゃべった映像をただ流しているだけだ。放送時間は限られているから、冗長な部分をカットしたにすぎない>

 でも、あまりのひどさに今回は修正せざるをえなかったということだろう。

 ただ、朝日新聞もテレ朝も慰安婦問題について誤報はあったにせよ今も、「基本的な記事の方向性は間違っていない」という姿勢だ。反原発方針も同様だろう。

 だから、朝日への批判を怠れば、これからも不都合な真実に目をつぶり、自分に都合の良い点を誇張、歪曲して報道する姿勢は続くと見た方がいい。

 「ゴホン!といえば龍角散」というCMになぞらえれば、ゴホウといえば朝日新聞。

 そう心得て、朝日の誤報を追及する姿勢を緩めてはならない。