佐伯順子(同志社大学大学院社会学研究科教授)

 NHK大河ドラマが1963年に始まってからほぼ半世紀。硬派な歴史ドラマの印象が強いこのシリーズだが、女性主人公の初登場は時期的には意外と早く、『三姉妹』(1967年)の旗本永井家の三姉妹に遡る。その後、女性主人公(『利家とまつ』は夫婦もの)は2017年放送予定の第56作『おんな城主 直虎』まで含めると全13作、全体の約23%で、ほぼ5分の1の割合で女性主人公が描かれている。

 しかし初登場の後、20年近く女性主人公は登場せず、次作は1979年『草燃える』の北条政子を待つ。続いて80年代に、『おんな太閤記』(1981年)のねね、『春の波濤』(1985年)の川上貞奴、『いのち』(1986年)の女性医師、『春日局』(1989年)と、立て続けに女性主人公が描かれたのは偶然ではなく、男女雇用機会均等法(1986年4月施行)に象徴される、女性の社会進出を促す社会的気運が後押ししたのであろう。逆に90年代には、女性主人公は『花の乱』(1994年)の日野冨子のみであり、『篤姫』(2008年)まで間隔があいたのは、フェミニズムや女性学が台頭した80年代に比して、バックラッシュ的な動きが生じた経緯ともつじつまがあう。

 2010年代に入ると政府の女性活用の推進とも連動してか、『江』(2011年)『八重の桜』(2013年)と、隔年で女性主人公ものが制作されるようになった。歴史は男性のみで作られたものではないのだから、世間的注目度の高い大河ドラマで女性主人公を描くことは、女性が日本史上に果たした役割について考えさせる重要な取り組みといえる。

 ただ、女性主人公ものの平均視聴率は19.2%(関東地区、ビデオリサーチ、放送終了『八重の桜』まで)で、シリーズ全体の平均22.7%に照らせば若干苦戦傾向である。とはいえ、男性主人公ものでも10%代はままあるので(歴代最低視聴率は『平清盛』の12.0%)、女性主人公ものがあたらないと一概にはいえない。

八重(綾瀬はるかさん)の生涯を描いた「八重の桜」最終回の一場面(NHK提供)
 表立った政治ドラマを描くとなると、事実に即せばどうしても男性主人公が浮上してきてしまい、『八重の桜』では前半、“八重の桜ではなく覚馬の桜”と揶揄されることもあった。だが、知名度の低かった女性をあえて主人公に取り上げ、従来は男性の視点から描かれがちであった日本近代史を、女性の視点から描こうとする試みは画期的であり、同類の試みを『花燃ゆ』でも続ける大河の姿勢は評価に値するだろう。男たちが社会で躍動している間にも、身内の女たちは自宅や藩内という限られた空間に縛られていた事実を提示したこと自体が斬新であり、逆照射的に、女性の歴史的に制限された立場を認識させることにつながる。高視聴率でなくとも、表現すべきものを表現していく。それが公共放送の使命であれば、今後も大河ドラマで女性主人公ものを制作し続ける社会的意義は大きい。

 脚本家に占める女性の割合も18回分を数え、女性主人公の登場回数をしのぐ32%におよぶ(複数回の執筆者は複数回、複数女性による執筆は一回分で計算)。平岩弓枝、橋田壽賀子、小山内美江子、内館牧子等の大御所、売れっ子も執筆し、『新・平家物語』『竜馬がゆく』『花神』といった男性主人公ものも少なからず女性脚本家の手になっているのが興味深い。もっとも、『新・平家物語』の常盤御前や『花神』のオランダお稲のきめ細かい描写を思い出せば、脚本における女性視点は健在である。

 歴史的に重要な役割を果たした女性主人公を探すのが難しいとの見方もあるが、五十年以上のドラマの歴史をふりかえると、平清盛、坂本龍馬、豊臣秀吉など、複数回登場する男性もあり、男女を問わず、大河ドラマで一年もたせるほどの歴史上のビッグ・ネームは限られていることに気づかされる。

 有名人が登場する歴史ドラマは、その人物の功績を中心に描かれがちであるが、今期の『花燃ゆ』では、吉田松陰の行動にはらはらする家族たちに焦点をあてることで、有名人の身内は型破りな行動に振り回されて、実は楽ではないと認識させたのがユニークで面白かった。『江』では江を主人公らしく描くため、江がいるはずのない場面にもしばしば彼女を登場させたことが、史実と違うと批判の的にもなったが、視聴者としては、史実とフィクションの落差を踏まえながらも、ドラマ的虚構の意図するところをくみ取るのも一興であろう。女性主人公ものは中世、近世、近代と時代的にもまんべんなく描かれており、目配りがうかがえる。今後は、持統天皇や光明皇后など、より古い時代のドラマに挑戦してみるのも一案ではなかろうか。

 多メディア時代の到来で、そもそも、テレビという媒体やドラマというコンテンツ自体の視聴率低下が指摘されるなか、コンスタントに10%以上の視聴率を維持している大河ドラマは健闘しているといってもよい。

 今春、中津城を訪れる機会があったが、『軍師官兵衛』の幟が翻り、グッズも販売されていた。ひとたび舞台となれば半永久的に地域活性化のシンボルともなり得る社会的影響力の高いこのドラマ枠で、今後も魅力的な女性主人公を発掘する冒険を期待したい。