渡辺哲也(経済評論家)


ミンスキーの金融不安定仮説と  中国のいま


 中国経済の瓦解が進んでいる。6月中旬から始まった中国の株式バブル崩壊、ギリシャ問題深刻化を受けた7月8日にはついに最高値から30%を超える水準まで暴落した。中国政府はこれを食い止めるため、プライス・キープ・オペレーション(PKO)等さまざまな強行策を取ってきた。これにより一時的に立ち直ったかのように見えた株価であるが7月28日に再び暴落を起こし、セカンド・ショックが発生してしまった。その後の天津大爆発という実体経済に大きな負の影響を与える出来事を挟み、お盆明けの8月18日から再び下落を始めた。実体経済の悪化予測が深まるなかで8月24日には株価が年初来水準を割り込み、政府が取ったさまざまな政策は無に帰したといえる。

 中国のバブル崩壊は、中国のみならず世界の金融市場にも大きな影響を与えている。中国発の株価崩壊は米国や欧州にも波及し、それがアジア市場にも大きな影響を与えてしまった。日本も例外ではなく、日本の株価も一時1万8000円を割り込む展開になっている。

 これにより世界で失われた時価総額は7兆ドルを超える水準になっているといわれており、市場からの大量の退場者を生み出している。世界の投資家はリスクオフに動き、これが市場全体の資金量を一気に消失させている。また、これに連動する形で為替も大きく動く展開になっている。これは手仕舞いに伴う資金の巻き戻しが発生しているためであり、「世界のリスクが高くなる=円高に動く」というサブプライムの際からの流れは変わらない。

 これは日本経済の信頼性が高いことの裏返しであり、決して悪いことではないのであるが、円高は企業の業績を大きく悪化させる要因であり、「円高=株安」という形で市場に大きな影響を与えてしまうのである。そして、この繰り返し来る波により震源地である中国以外の市場では織り込みが進むとともに変動リスクは緩やかなものになっていく。

 しかし、震源地でありバブルに踊った中国にとって、これは非常に大きなダメージになる。のちに述べるが中国の株式バブルは他の市場のバブルが臨界に達したためであり、最後の砦的な意味合いがあった。この中国の大変動を受けて、外国人投資家たちの離脱が進むことになる。同時に張り子の虎といわれてきた中国経済の真の姿が国際社会に知れ渡り、中国を儲けの対象にしてきた人や国に態度変化を生むのである。

 ところで昔から、経済は生き物であるといわれているが、現在の世界をそのような観点から見てみよう。経済学においても、経済を生態系に例えたり、社会学的に捉える動きが強まっている。いわゆるシカゴ学派を代表とする新自由主義の台頭により忘れられていた「ハイマン・ミンスキー」の再評価がその典型例であるといえよう。ミンスキーの理論は、サブプライム問題時、世界最大級の債券ファンドであるPIMCOのポール・マカリーにより取り上げられ、再び脚光を浴びることになったのである。ミンスキーの金融不安定仮説とは以下のようなものである。

(1) 経済が好調なとき、投資家はリスクを取る

(2) リスクに見合ったリターンが取れなくなる水準まで、リスクを取る

(3) 何かのショックでリスクが拡大する

(4) 慌てた投資家が資産を売却する

(5) 資産価格暴落

(6) 投資家が債務超過に陥り、破産する

(7) 投資家に融資していた銀行が破綻する

(8) 中央銀行が銀行を救済する(“Minsky Moment”)

 そして、最初に戻るというものである。

 彼は金融を「通常金融」「ヘッジ金融」「投機的金融」「ポンツィ金融」という4種類に分類し、ポンツィ金融の割合が高まれば高まるほど金融全体が不安定化するという理論である。では、ポンツィ(Ponzi)とは何かという話になるのだが、ポンツィというのは出資金詐欺やねずみ講で有名になった詐欺師の名前であり、詐欺的金融をポンツィ金融やポンツィスキームと呼ぶのである。

 では、いま中国はどの過程にあるのかということになるのだが、現在、中国は(3)と(4)の過程にあるといえる。そして、バブル崩壊の本格化は(5)のプロセスが発生したときに明確化する。

 日本でもそうであったように、バブルは弾けてからわかるものといわれるが、株価暴落のような象徴的出来事と小康状態を繰り返しながら、被害が経済全体を蝕んでいくのだ。そして、それは短期的なものから長期的なものに波及し、金融システムそのものを壊していくのである。バブルの崩壊は連鎖するのだ。

 この連鎖には商品の時間的性格から時間差が生じる。短期的商品の代表格が市場で容易に売却できる株式であり、中長期的な商品の代表格が換金に時間がかかる不動産や掛ける期間が長い保険になる。現在は、さまざまなデリバティブやリートのような債券化商品の登場により、この商品間の連動性は高まり、連鎖するまでの時間が短くなり、影響も大きくなる傾向にある。

株価下落を示す証券会社のボード前で、顔を覆う個人投資家=8月25日、中国海南省海口市(共同)
株価下落を示す証券会社のボード前で、顔を覆う個人投資家=8月25日、中国海南省海口市(共同)

 再び中国に戻ろう。中国の株式バブル発生過程と前提条件を見ていこう。中国の株式は、6月中旬の最高値をつけるまでの1年間に約2・5倍程度、年初から60%近く上昇していた。この原因にはさまざまなものがあるが、最大の理由は他の商品の利回りがリスクに見合わなくなったためであり、魅力的な投資先がなくなったことが原因だと考えられている。

第2のサブプライム問題か


 まずは、不動産から見ていこう。不動産は価格と家賃から利回りが算定できる。たとえば、月5万円の家賃が得られる物件があったとしよう。この場合、年間に得られる家賃は5万×12で60万円ということになる。この物件の価格が1000万円ならば年利回りは6%ということになる。これが2000万円まで値上がりすれば年利3%、3000万円まで値上がりすれば年利2%という計算になる。じつはすでに中国の都市部の不動産利回りは2%以下まで低下しており、1年物の定期預金金利以下の状態になっていたわけである。すでに不動産は投資対象にならない状態だったのである。

 日本でも中国人の日本国内の不動産購入が話題になっているが、これは中国の国内不動産では運用利回りが稼げないためであり、日本の不動産利回りが中国を大きく上回るからにほかならない。日本でもバブル末期、日本人の海外不動産購入が話題になったが、これも同様の理由からであった。

 次に債券を見ていこう。中国の債券市場の市場規模はシャドーバンキング(銀行システム以外の融資)などを含めると600兆円以上といわれている。そのうち、比較的安全な社債だけでも150兆円程度といわれているわけであるが、この社債市場にも暗雲が広がり始めたのである。中国の社債発行企業の多くは大企業であり、中央政府や地方政府、そして、その親族などが関係する企業である。このため、中国人の多くが、政府が救済に入るため倒産することはないと見ており、安全な商品として取り扱われてきた。これを「暗黙の保証」と呼ぶ。しかし、中国政府は他国政府からの強い批判とその額の拡大から、破綻を容認する方針に切り替え始めた。これにより、中国の社債市場の政府による暗黙の保証は崩れ去った。当然、暗黙の保証がないとなれば、リスクが強く認識され、社債の価格は下落し、投資する人は大幅に減少する。

 じつはサブプライム問題の本質もここにあり、フレディマックやファニーメイなど米国政府機関債に対する暗黙の保証が失われたことで、債券価格が暴落した影響が大きい。債券には政府保証がないと明記されていたが、民間企業ではあるが政府機関債である以上、最終的には政府が保証すると投資家が勝手に信じていたのである。しかし、これが否定されたことで、債券の価格が暴落し、銀行などに膨大な損失をもたらしたのであった。

 比較的安心とされる社債市場がこの状況になったわけであり、それより危険度が高いシャドーバンキングは、それ以上のリスクが認識される結果になっていた。中国のシャドーバンキングには、大きく信託会社などが販売する「信託商品(ファンド)」と銀行などが販売する主に個人向けの「理財商品」というものがある。信託商品というのは、銀行などを介さず、資金を必要とする先に信託会社が直接融資を行ない、それを販売しているものである。理財商品というのは「融資平台」を用いて、融資を行ない、それを小分けして銀行などが販売している金融商品である。

 この「融資平台」が最も活用されたのが不動産関連融資である。中国の中央政府は地方政府による債券発行を禁じていた。また、中央政府が地方政府の財源の多くを奪ってしまったために、地方政府としては独自の財源確保をせざるをえなかった。そして、地方政府の財源確保に利用されたのが先ほどの「融資平台」というものである。簡単にいえば、地方政府が別会社をつくり、不動産を担保に金を借りて、不動産開発を行ない、それを分譲することで利益を得ていたのである。銀行などがこの債権を小分けして顧客に小売りしていたわけである。この仕組みは不動産価格が上昇を続け不動産開発が成功するという条件のもとでしか成立しない。不動産価格が下落に転じるなどで原価割れしたり、不動産開発が途中で止まってしまった場合、破綻してしまうのである。

 じつは、この構図は、サブプライム問題での銀行の簿外債務やバブル崩壊で大きなダメージを負ったドバイとほとんど同じものであり、先述の不動産利回りなどから多くのものが借入金利よりも利益が少ない逆ざや状態に陥っている、または陥るものと思われる。この場合「資本蚕食(利払いなどで資本が食われる)」が発生し、最終的に資本を食い尽くしたときに破綻が表面化することになる。中国の各所で発生している「鬼城(開発途中で止まってゴーストタウン化した街)」の金融部分はこれが支えているわけである。当然、このような状態であれば、債券市場は不活性化し、債券市場からのキャピタルフライト(資金逃避)が発生する。この資金の流れた先が株式市場であったとも考えられるのである。

 そこで、中国の株式市場の市場規模は1年で4兆ドルから、中国のGDPと同レベルの10兆ドル程度まで拡大した。この拡大資金は、不採算に陥った不動産や債券市場から流れ込んだお金と「信用取引」などにより膨れ上がった「フェイクマネー」であったと考えられる。これが一気に失われたのが6月中旬からの株価下落(400兆円以上)であったといえる。この事態を受けて中国側は大胆かつ強行的な政策を取ったわけである。

 それは、IPO(新規上場)の停止、大口投資家や経営陣などに対する1年間の株式売却禁止、「悪質な空売り」の禁止、下落株の売買停止など規制措置と証券会社などによる株式買い上げPKO、信用取引向け融資を行なう国営中国証券金融による証券会社に対する資金供給、中国人民銀行による証券会社向け特別融資(特融)などである。

 市場は市場原理で動く。価格は売り手と買い手の需給バランスで決まり、買いよりも売りが少なければ上がり、売りよりも買いが少なければ下がる。意図的に売りが出ないようにして、買いを増やし価格の操作を行なったのである。そして、その規模も非常に大胆なものであった。1番の急落を示した7月8日の売買停止銘柄は全株式の49%に及び、ストップ安を含めると74%にも達したのである。つまり、市場の4分の3が売りたくても売れない状態に置かれたわけである。

 このような一連の政策により一時的な回復を見せた中国の株式市場であるが、これは安定した流れにはならなかった。7月28日に約8・5%下落するセカンド・ショックが訪れたのである。この原因はさまざまだが、国際社会からの強行的な政策への批判から株価対策が打ち切られるという噂や「中国の実体経済を示す指数などが悪かったこと」が大きな要因といわれている。いくら株価を釣り上げたところで、実体経済が悪く企業業績が改善されなければ、配当は減少し、破綻リスクも高まるわけである。現在 中国本土の予想配当利回り(PER)は20倍程度であるが、非金融分野だけでみれば40倍以上であり、高すぎる水準にあったし、いまもあるといえる。これが改善されるためには景気が改善され、実体経済がプラスに転じる必要があるが、現在のところこれは厳しいといわざるをえない。

中国を苦しめる構造問題


 次の段階で問題になるのは株価下落と追証による破綻問題ということになる。中国では信用取引の割合が高い。中国の信用取引であるが、証券会社によるものは4倍程度と日本と大きくは変わらないのであるが、中国には全土で1万社以上の「外部配市」という証券専門の金融会社が存在し、株式を担保に資金を貸し出しているのである。そして、そのレバレッジは平均で10倍以上になっている。外部配市は株式が担保であるため、空売りができず買いしかできなかったわけである。

 株価の急落はこのような信用取引を行なっていた人を大変な事態に追い込むのである。10倍のレバレッジで取引していた場合、買った価格よりも1割株価が下落すると全損扱いになってしまう。今回の急落では大きな値動きがあったため、これに該当する人が多数出ていると考えられる。今年に入り、中国の証券口座の数は昨年末の1億8000万口座から2億2500万口座に4500万増加した。この多くの人たちは膨大な損失を抱える結果になっているだろう。中国の旺盛な消費は、このような新興富裕層に支えられていたことは間違いなく、株価下落によりこれが抑制されるのは間違いのないところであろう。このような人たちの損失補てんのための資産売りもこれから始まるものと思われる。

 なぜ、中国人が資産運用に熱心かといえば、これには歪んだ急速な発展に伴う社会保障制度の未整備が指摘できる。中国では公的年金制度が整備されておらず、自己の老後の資金を自ら用意しておく必要がある。また、1979年から始まった一人っ子政策により、老後の扶養を子供たちに容易に頼れない構造にもある。一人っ子政策開始から30年以上が経過し、1人の子供に両親とその祖父母がのしかかる構造になっている。今回の暴落は、資産を維持しなくてはいけない高齢者にも被害が及んでいる可能性が高く、これはデフォルトが増加傾向にある理財商品とともに大きな社会問題化する可能性も高い。

 すでに、中国は重大な構造的問題に直面している。

 1つは先ほど述べた少子化による人口ボーナスから人口オーナスへの変化であり、低賃金の若年層労働者が多く発展しやすい社会から、中高齢の高所得労働者が増加し効率の低下する社会への変化である。もう1つは「中進国の罠」と呼ばれる賃金上昇に伴う国際競争力低下である。年間の平均賃金が1万ドルを超えると、国際企業はさらに低賃金の地域に活動拠点を移し、国内企業は賃金コスト上昇により国際競争に勝てなくなるというものである。この問題を解決するためには、知的所有権やオンリーワンなどそこでしか作れないものを多数保有する必要があるが、中国の場合、いまだ組み立てなど「人口集約型産業」が中心であり、このプロセスに移れている企業はほとんどない状況なのである。

 挙げればきりがないのだが、何よりの問題は中国の国家的粉飾ということになる。中国政府が出す数字は信用できない。鉄道貨物の輸送量を示すデータが10%以上のマイナスであり、電力消費量も低下するなかでGDPのみが7%成長を維持する。地方政府のGDP合計と中央政府のGDPで4兆円以上の誤差があるなど、中国の公表数字は何1つ信頼に値しない。英国の独立系調査会社ファゾム・コンサルティングによると、同社の試算では実際の成長率は公式統計の半分以下だったとされているのである。

 これは国だけの問題ではない。国以上に企業の中身もわからないところがある。日本が関係するものとして、LIXILが買収した中国子会社の粉飾発覚と破産、江守グループホールディングスの中国子会社の粉飾による破綻がその典型といえるのだが、中国企業の決算とその内容には不透明な側面が強い。このような粉飾の多くは手元資金の枯渇により発覚する。企業は赤字でもつぶれない。企業の倒産原因は手元資金のショートであり、融資でも何でも手元資金さえ確保できれば倒産しないわけである。そして、企業が破綻した場合、売掛金の回収不能などの形でその関係企業にも影響が及ぶ。企業の倒産は連鎖するのである。

 また、今回の株式バブル崩壊は、「財テク」で手元資金の流動性を確保してきた企業の粉飾を表面化させる可能性が高いといえる。日本でもバブル崩壊期、企業の投資失敗による破綻が大きな問題になったが、中国でも同様の事態を迎えるケースが増加すると思われる。そして、これは銀行や保険会社など貸し手側にも波及する。

 企業同様、中国の銀行のバランスシートや資産内容には不透明な部分が多い。中国の4大銀行はすべて事実上の国営であり、共産党の意思でいかようにも動く部分があり、その実態もよくわからない部分が大きいのである。じつは遡ること2年前、2013年6月、中国の銀行間市場に大きな異変が起きていた。一部銀行の信用不安と銀行の手元資金の枯渇から銀行間金利が高騰し、オーバーナイト(翌日返却)の金利が一時30%以上まで上がっていたのである。中央銀行による銀行への特別融資によりこれは解消されたわけであるが、本質的な体質改善が行なわれている形跡はなく、今年に入っても特別融資が行なわれている実態がある。

企業の命運を決めるとき


 最後に、バブル崩壊による日本経済への影響だが、これが株式市場に限定されているかぎり軽微であるといえる。なぜならば、今回崩壊した中国の株式市場は主に中国人向けのものであり、中国国内の貸し出しのほとんどが人民元建て取引であるからである。ある意味、自由化されていなかったことが他国への波及を抑制する形になっているわけである。

 しかし、バブル崩壊は連鎖し、消費の減退と不良債権処理などを通じて、日本にも大きな影響を与える可能性が高い。都心の不動産価格上昇は、中国人の積極的な投資が大きな要因になっており、都心部の百貨店などの消費も中国人観光客が支えているのも事実。また、日本企業のなかでも中国関連の事業の割合が高い企業があるのも事実で、中国の経済悪化がそのような企業の業績を悪化させる可能性も高い。しかし、中国関連企業といってもさまざまなものがあり、すべてを同列に語るのは間違いであろう。中国のバブル崩壊で最も影響を受けやすいのは、中国で生産し輸出している企業ではなく、中国の内需向け割合が高い企業ということになる。

 すでにこれは日本の株価にも反映されつつある。中国関連株は中国の指標や株価に連動するのである。投資家は企業の業績予測を基に株式の売買を行なっている。株価が一種の未来指標といわれるゆえんでもある。当然、これは当事者である企業側も意識しており、まともな経営者ならば適切なリスクマネジメント体制を敷くことになる。そして、結果的に企業業績へのリスクが軽減されていくことになるのである。

 しかし、深入りしすぎてしまった企業や依存度が高すぎる企業にはこれは容易ではないだろう。中国の場合、計画経済的側面と政府による大胆な強行策が取れるため、一般論で語るのは難しい部分もあるが、一般的にバブルの崩壊が始まってから、それが実体経済に反映され、影響が顕著化するまで半年程度かかるといわれている。この残された時間にどのような経営判断をするかが、今後の企業の命運を決めるかもしれない。