堀義人(グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)
松本真由美(国際環境経済研究所理事)

 国は、今年7月、2030年度におけるエネルギーミックス(電源構成)の見通しの中で原子力発電の割合を20~22%程度と明記し、今後も活用していく方針を示した。エネルギー安定供給、経済性、地球温暖化対策などの面で、引き続き原発は必要との評価だ。こうした中、原子力発電の利用に当たり、使用済燃料に由来する高レベル放射性廃棄物の処分にも関心が集まっている。この問題をどう考えれば良いのか。グロービス経営大学院学長で、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの堀義人氏に、国際環境経済研究所理事の松本真由美氏が聞いた。

核のごみ問題の解決が地球温暖化問題の解決に


松本 日本では半世紀近くにわたり原子力発電を利用してきました。それに伴い、高レベル放射性廃棄物の最終処分という問題が生じているわけですが、堀さんはこの問題をどのようにお考えでしょうか。

グロービス経営大学院学長でグロービス・キャピタル・パートナーズ
代表パートナーの堀義人氏
 ものごとは全体を俯瞰して考える必要があります。最終処分に道筋がついていない原子力発電所のことを『トイレなきマンション』と批判する方もいますが、私は二酸化炭素(CO2)を生む化石燃料利用こそが『トイレなきマンション』状態にあると思っています。今、世界の一番の脅威は地球温暖化です。化石燃料を燃やすことによって温室効果ガスの一つであるCО2が排出されて気温が上昇し、南極の氷河が溶けて海面上昇が起きています。気温上昇は台風の巨大化も誘発しているとされており、何千人もの死者を出す惨事にもなっています。原子力は確かに使用済燃料が出てきますが、きちんと管理することが十分可能であり、実際に世界中でそうなっています。そして、その量は、非常に小さなものなのです。「行き場のないごみ」と揶揄する方もいますが、管理や処分に必要とされる面積は、ほんの小さなものです。国民1人が一生の間に利用する電気に伴う高レベル放射性廃棄物は、ゴルフボール3個分程度のものでしかありません。原子力の利用を今やめれば、地球温暖化はさらに進行し、被害はより深刻化していくでしょう。そういった危機意識を、日本国民のみならず世界中の人たちが認識すべきだと思います。

松本 地球全体の問題の解決策であり、廃棄物の問題だけで原子力を止める必要はないとお考えなのですね。廃棄物については、いずれにしてもすでに存在しているものであり、処分場を確保する必要があり、私たちがしっかり向き合って解決していかなければならないわけですよね。

 原子力の恩恵を受けてきた私たちの世代で解決すべきことですし、解決できると思っています。原子力という有用な技術もしっかりと引き継ぎ、かつ、廃棄物の問題も解決していく。それが将来世代との関係で必要なことでしょう。

松本 処分の方法としては、地下深くの安定した地層に埋設して処分する「地層処分」が、確実性や実現可能性の高い方法として国際的な共通認識とされていますが、この地層処分について、どのような見解をお持ちですか。

 環境主義者として知られる英国の科学者、ジェームス・ラブロック氏は、高レベル放射性廃棄物を「自分の庭に埋めていいくらいだ」と言っています。地層処分の安全性や合理性を示すために、こうした発言をしたわけです。地層処分の技術的成立性は科学的にかつ国際的に検証済みです。ただ、そのことと、国民の不安を解消し理解を得ることとは同じではありません。科学的に大丈夫であっても、漠然とした不安が人々にはあります。このあたりをどうするか。地層処分は方法論としては確立していますが、問題の本質は政治的なものだと私は思います。

松本 政治的、といいますと。

 ある地域が処分場を前向きに検討しているとの情報が出てくるたびに、メディアや原子力発電に反対する人たちが押し寄せ、せっかく前向きに考えようとしていた自治体や住民の方々がしり込みをしてしまうことが何回か繰り返されてきました。こうした部分について、自治体などを矢面に立たせておくのではなく、国がしっかりと前面に立って、その地域や周辺地域の人々にきちんと説明し、地域の将来像を一緒に考えていくことが重要だと思っています。

国が前面に立った「科学的有望地」の提示に期待


国際環境経済研究所理事の松本真由美氏
松本 最終処分は各国にとっても難しい問題であり、現在、処分地が決定している国はフィンランドとスウェーデンだけです。日本ではこれまで、自治体に立候補してもらい、国は受け身の立場でしたが、今年5月に政策を変更し、国が前面に立って、科学的により適性が高い地域、つまり「科学的有望地」を提示し、国民的議論の契機にしていく考えを表明していますね。

 期待したいです。ただ、国が科学的有望地を提示すれば、それがどれだけ「検討の参考材料」のようなものだとしても、抵抗が起こる可能性があります。その際に、強力な“推進力”となるものが必要です。その一つが、この廃棄物の処分が進めば、地球温暖化問題も解決に近づく、ということへの国民の共通理解だと思います。ある地域が国家的な課題を引き受ける場合には、その地元の方々の理解はもちろん、国民的な理解を得ることがすごく重要になってくるでしょう。地元の方々が心の中では賛成でも、地元以外の人たちによる反対運動が活発化して大騒動になると、ほっといてくれ、静かにしておいてくれ、となってしまいます。調査を受け入れようとする地域が出てきた場合に、そのほかの地域の多くの人たちが拍手を送るような状況になるよう、国民的な議論の喚起が不可欠だと思います。

将来世代のためにいま何をすべきか考え、声を上げていくことが重要


松本 私は、全国各地のシンポジウムで議事進行役を務めることがありますが、多くの方々が地層処分に反対という会場もある一方で、この問題を自分の事として冷静に考えなければいけないと思っている方たちが比較的多くいらっしゃる会場もあります。

 原子力発電に絡む問題として、高レベル放射性廃棄物の最終処分をどう考えますか―とそこだけを切り取って聞くと、多くの方々は問題だ、難しい、だから原発も反対だ、となってしまいがちです。しかし、この問題が解決しなければ、もっと大きな脅威がある、ということまで合わせて議論すると、前向きに解決していこうという方々が増えてきます。そうした全体論で考えることが大切です。

松本 堀さんは各界のリーダー的な方々ともお付き合いがあります。そうした方々はオピニオンリーダーとして発信力もありますし、影響力もあると思うのですが、最終処分の問題に関して各界のリーダーに何を求めますか。

 見識のあるオピニオンリーダーがこの問題についてしっかり考え、何が一番重要なのかを考え、逃げないで声を上げていくことが重要です。これは財界や学会の方々、そして政治家の方々も含め、ポピュリスト(大衆主義者)的に動くのではなく、100年後、200年後、500年後の将来世代のためにも、いま何をすべきか考え、声を上げていくことが重要だと思います。
堀義人氏(左)と松本真由美氏
松本 国とNUMOは、国民や地域の理解を得ながら最終処分問題の解決を進めていこうとしています。期待することは何でしょうか。

 常に発信し、可能な限り多くの人を巻き込んでいくことが大切です。一番良くないのは黙ってしまうことです。私はソーシャルメディアが重要だと思っていますので、ツイッターやフェイスブックなどを活用したコミュニケーションをもっと多くやっていいと思います。特に主婦層を含めた女性がコミュニケーションしやすい方法で、なぜ最終処分が重要なのかを地道に発信していけば、必ず世論が変わってくると思います。

松本 ビジネスマン層、高齢者層、そして主婦層、さまざまな対象の方がいらっしゃいますので、それぞれの層のご意見や質問にも応える形で、双方向のコミュニケーション活動を続けていく、こうした活動を積み上げていき、信頼を醸成していくことが大切ですね。本日はありがとうございました。

ほり・よしと グロービス経営大学院学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー。1962年生まれ。京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、92年(株)グロービスを設立し代表取締役に就任。96年グロービス・キャピタル設立し、代表パートナー。2006年グロービス経営大学院を開学、学長に就任。著書に『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)など。

まつもと・まゆみ 国際環境経済研究所理事。大学卒業後、テレビ朝日報道局、NHK BS1のキャスターを経て、2008年度より東京大学の環境・エネルギー分野の人材育成プロジェクトに携わる。教育と研究を行う一方、講演、シンポジウム、執筆など幅広く活動。NPO法人国際環境経済研究所理事。東京大学教養学部客員准教授。