萱野稔人(津田塾大学教授、哲学者)
開沼博(社会学者)
春香クリスティーン(タレント)

 原発再稼働の問題にあわせて、「核のごみ」に関する注目が高まっている。典型的な主張は、行き場のないごみをこれ以上増やすな、処分方法も決まっていないのに無責任、といったものである。しかし、実際には、原子力発電に伴って発生する廃棄物の量は非常に小さなものである。また、処分方法が決まっていないという話でもない。地下深いところに埋設して人間の生活環境から隔離するという方法が最善であり、技術的にも可能であるということは、国際的にも確立していると言える。しかし、こうしたことに国民の多くが納得しているという状態にはない。私たちはこの問題にどう向き合い、どのように解決を図っていくべきなのか、哲学者の萱野稔人氏、社会学者の開沼博氏、タレントの春香クリスティーンさんという独自の考えを持つ3名の論者に語り合っていただいた。

原発利用の是非とは別議論


萱野稔人氏
萱野 高レベル放射性廃棄物の問題を原発再稼働に必要以上に結び付けようと考える人がいますが、賛成できません。再稼働してもしなくても、目の前にある廃棄物はなくなりません。既に存在している以上、その処分は今後の原発利用とは切り離して議論すべき問題です。

開沼 廃棄物の処分が前に進んでしまうと原発が推進されてしまう、そういうことを恐れて、廃棄物問題についても慎重なスタンスをとろうとしている人が多いですね。

春香 若い世代も、せいぜい「処分地の選定とかいろいろ大変だよね」というところ止まりで、その先の情報収集や議論にはなかなか至らない状況だと思います。この問題の解決に向けて真剣に取り組むと原発推進に見えてしまうことが、若い人がこの問題に関わる壁になっている気もします。

開沼 議論の整理が必要です。過去を振り返って、これまでの取り組みに問題もあったのではないか、例えば行政や事業者の情報公開の不十分さは徹底的に反省し改善すべき。その上で、私たちも課題解決の道を模索すべきです。これまでどおり「信頼できない」と言い続けても廃棄物は増え続けるばかりです。

国民的議論で合意形成を


春香 スウェーデンとフィンランドでは、20年以上かけてようやく処分地選定に至りました。この問題は、解決までにとても時間がかかる問題です。だからこそ若い世代も今から考えていかなければならないですよね。

萱野 一人ひとりが当事者意識を持ち、「自分だったらどうするか」という問いをみんなで共有することが大事です。しかも、具体的な候補地が出てこないうちから共有し、考えていくことが大事だと思います。今こそ、国民的議論を起こし、総論において合意を形成していくべき段階でしょう。

開沼博氏
開沼 この問題は福祉や増税の問題と実はよく似ています。前の世代がやってきたことの負の遺産が次の世代に押し付けられてきた。最初は見て見ぬふりができたけれど、いよいよどうにかしなければならないところまで来てしまったように思います。そのことが、福祉や増税ほど国民生活に直結しないので肌感覚で判りにくいだけで、構造は同じ。いま議論しないと後世につけを回すばかり。あまりに無責任です。

春香 確かに、今の世代にしっかり取り組んでもらわないと、次の世代に問題が先送られることになります。誰かが解決するだろうと目をそらすのは、自分の子供や孫のためにも絶対にしてはならないことだと思います。

萱野 メディアの役割としては、アジェンダセッティング(議題設定)が大事だと思います。今こういうことが問題になっていますということを社会にはっきりと示さなければならないということです。しかし、それは情報の受け手であるわれわれとの共同作業で成り立つものです。読者に関心がないとメディアも取り上げません。そういう点で、国が率先して取り組むという姿勢は評価できると思っています。今は、日本の中で適性が高い地域はどこか、「科学的有望地」を示すということが検討されているようですが、議論喚起の材料として期待したいですね。やはり政策として動かなければ、メディアも国民も動きにくいですから。

開沼 これまで国が全く動いてなかったわけではないけれど、伝わってなかったことも多くあったでしょうね。国民から信頼と承認を得るために必要なのは、何があろうとも「国民への押し付けはしない」という原則を貫くこと。そして、国民も自ら民主的に解決する道を模索すること。この前提の上での両者の努力が必要です。

時間かけ解決する問題


春香クリスティーン氏
春香 安全を裏付けるデータがあるということはわかっても、今はネットでいろいろ調べられるということもあって、批判的な意見などに触れると疑心暗鬼になる部分もあると思うんです。だからデータの提示の仕方も難しいですね。

開沼 大事なのは、関心を持った人が簡単に情報にアクセスできる環境を用意しておくことだと思います。

萱野 「いろんな方法がある中で地層処分がいかにベターであるか、われわれはこう考えていますが、みなさんはどう判断しますか」ぐらいのスタンスで臨んでも良いのでしょう。「これが最善策で、他に方法はない」というと、かえって受け入れにくいということもあるように思います。

春香 それしかないと言われると、いや他にもあるはずだ、となりますからね。それと、賛成反対という極論が出すぎると、新しく関心を持ったり自分で発言したりすることをためらいがちになるので、ニュートラルな議論の場も必要だという気がします。

萱野 こういう問題にはバラ色の解決策はないという認識を広げていくことも大事です。これだけの人口の人間が近代文明のもとで生存していくためには、ある程度のマイナスの影響はどこかで受けざるを得ないけれど、それを何とか最小限に抑えて持続可能なものにするにはどうすればいいかという姿勢や議論を広げる方が、理解が深まりやすいのではないでしょうか。エネルギーには特にそういう面があります。すべてに優れたエネルギー源というのは存在しません。廃棄物の問題も、そういう全体像の中で、時間をかけて解決していくべき問題です。

春香 日々生活していると楽しいことがたくさんあって、こういう問題から目を背けようと思えば簡単に背けられます。だけど、考えることを止めてしまうと何も進みません。感情論にならないように、というのはなかなか難しいかもしれないけれど、この問題にはどういう事実があるかということを知り、一人ひとりが考えてみることから始めたいですね。

かやの・としひと 哲学者。津田塾大学教授。社会哲学、社会理論専攻。早稲田大学卒業後に渡仏し、パリ第10大学で哲学博士号を取得。東京大学大学院国際哲学交流センター研究員を経て、現職。現在、衆議院選挙制度に関する調査会委員などを務める。

かいぬま・ひろし 社会学者。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程在籍。資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会原子力小委員会委員等を歴任。

はるか・くりすてぃーん タレント。スイス・チューリッヒ出身。16歳で単身来日。国会議員の追っかけを趣味としており、「おもしろい政治ジャパン」などの著書がある。産経デジタルが運営する総合オピニオンサイトiRONNA(いろんな)で特別編集長として活躍中。