木曽崇(国際カジノ研究所所長)

 ドラフト会議を翌日に控えた10月21日、野球賭博問題に揺れる読売ジャイアンツの久保博社長が緊急記者会見を行い、本問題を巡る球団内での調査結果を発表した。報告によると、すでに今月の冒頭に野球賭博への関与が判明していた福田聡志投手に加え、新たに笠原将生、松本竜也の両投手が同様の野球賭博への関与があったことが明らかにされた。特に、本問題の発覚当初から「関係者」として名前が挙がりながら、一方で本人は賭博への関与を否定いしていた笠原将生投手においては、自身が野球賭博を行っていたことはおろか、他の2選手に賭博を持ちかけ、その「賭け」の仲介や清算の手伝いまでもをしていた事が判明した。笠原投手は、球団内において一種のブローカー的な役割を演じていたこととなる。

 そもそも野球賭博とは、主にプロ野球や高校野球の試合結果を予想して行う「賭け」の一種であり、我が国では刑法で原則的に禁じられる犯罪行為(賭博罪)である。今回、問題となっている3選手は、野球賭博の他にも賭けマージャンや賭けゴルフ、違法カジノへの出入りなどを日常的に行っていた事が判明しており、そもそも「賭博罪」に対する認識が非常に甘かったことが見て取れる。球団では、毎年、若手選手を対象にした研修で賭博に関連する指導を行っていたとされるが、こうなってくると当初報じられたような「ギャンブル狂」のいち野球選手の問題だけには収まらない。球団全体の管理体制が問われざるを得ない状況にまで事態は発展したといえる。

 また今回の野球賭博問題の対応にあたっては、球団側の事件発覚後の対応に関しても、その認識の甘さが批判の対象となっている。高校野球においては、いち野球部員が起こした不祥事が発端となって、部全体の対外試合が自粛されるなどの処分が行われることは常である。実際、2005年の夏の甲子園では、当時すでに県代表として本選出場が決定していた高知県の明徳義塾高校が、部内での暴力や喫煙行為などの発覚によって出場を辞退した事は未だ記憶に新しい。

 対して読売ジャイアンツは、新たに2選手の野球賭博への関与を発表した記者会見において行われた、翌日に予定されるドラフト会議に関する質問に対して「有望な新人を獲得するための唯一の手段であると思うので、球団としては参加させて頂く」などとコメントしており、実際に参加を強行した。球団としては、未だプロ野球を統括するNPBによる採決を待っている状況であり、それが判明してから関係者等の処分を改めて考えたいとしているが、全国の高校球児たちの「鑑」としてのプロ野球球団の「身の処し方」が改めて問われている事態であるといえる。
プロ野球 巨人練習 練習前、円陣の輪の中で選手たちに話をする巨人・原辰徳監督(右)=10月6日午後、東京都文京区の東京ドーム(撮影・大橋純人)
プロ野球 巨人練習 練習前、円陣の輪の中で選手たちに話をする巨人・原辰徳監督(右)=10月6日午後、東京都文京区の東京ドーム(撮影・大橋純人)
 また気になるのが、本事件の今後の展開である。まず、本事件に関する暴力団等の関与であるが、現時点での球団発表では暴力団等の関与は未だなんら指摘されていない。これは、本件が未だ球団による自主的な内部調査に留まっており、その手法が選手への聞き取りと、彼らが使用していた携帯電話等の利用履歴の確認によるものであることに起因する。民間組織である球団としては、あくまで賭博に関わったとされる自組織内の3選手サイドからしか調査が出来ないのは当然であり、その背後関係にまで切り込めていない現状は仕方がないともいえる。

 一方、メディア各社による報道では、球団はすでに警察への相談を始めているとの情報もある。最初に野球賭博への関与を報じられた福田聡志投手に関しては、すでに数百万円におよぶ借金があり、またその借金の取り立て人が球場に押しかけた事が事件発覚の発端となったと言われている。客観的にみるならば、この福田投手に関する単独事案だけを見ても、すでに警察が動くレベルの違法賭博事件となっており、その主体がプロ野球選手であるという社会的影響の大きさも考えると、これより警察による捜査が始まるのも時間の問題であると思われる。暴力団等の関与の有無に関しては、これら警察による捜査の進捗によって徐々に明らかになってゆくだろう。

 次に気になるのが他球団への問題の波及である。ジャイアンツ以外の球団も今月冒頭に本問題が発覚した時点で独自調査を始めており、現時点では野球賭博への関与があった選手の存在は確認されていない。ただし、これらもあくまで各球団による所属選手への聞き取り調査などが中心となったものであり、強制力を伴うものではない。ここに警察による介入が行われ、特に背後に大きな違法賭博シンジケートのようなものの存在が明らかになった場合には、胴元側の顧客リストなどから芋ヅル式で他球団の選手の関与が判明する可能性はある。この点に関しても未だ予断を許さない状況である。

 そして、最後の懸念が八百長事件への発展である。球団による現時点での調査では、今回野球賭博に関わった3選手の八百長行為、もしくはチーム内の他選手に対する八百長の持ちかけなどは確認されていない。一方、未だ記憶に新しい2010年に発覚した大相撲を舞台とした違法賭博事件では、当初「八百長はない」とされていたものが、調査が進み、事件が大規模化するにつれて続々と八百長疑惑が噴出した。結果的に、当時大関であった琴光喜関も含めて、約20名にもおよぶ現役力士の大量処分にまで至ることとなる。繰り返し論じてきたとおり警察による本格的な捜査の始まっていない現時点では、野球賭博問題は未だ事件の「入口」に差し掛かっているだけの状況であり、今後の展開次第ではこれが更なる大きな事件に発展する可能性は多分に残されている。

 そして、最後に予見される本事件の余波が、プロ野球界の「外側」への影響である。現在、我が国には刑法で禁止される賭博等の例外として、スポーツ振興くじ(通称:totoくじ)が存在している。実は、totoくじを所管する文部科学省および与党自民党は、現在、サッカーのみに適用されている「合法の」スポーツ賭博であるtotoくじの適用範囲をプロ野球にまで拡大することを計画していた。これは2020年の東京オリンピックのメインスタジアムである国立競技場の開発費を捻出する為の措置であり、価格高騰で問題化した建設費の上昇分を、新たなtotoくじの導入で補てんしようとするものであった。

 しかし今回、現役プロ野球選手による違法な野球賭博への関与が発覚したことで、その計画はすでに暗礁に乗り上げている。今月初め、福田投手が野球賭博に関わったとされた初期の報道時点で、すでに遠藤五輪相を含む複数の関係閣僚から「今の段階で(プロ野球への)くじの導入は難しい」などとするコメントが出されており、totoくじ法の改正はほぼ延期が確定してしまった状況だ。一方、totoくじの拡大が年内もしくは来春にできないとなれば、高騰する国立競技 場の建設費用をどこか別の場所から調達せざるを得ず、それが新たな「国立競技場問題」の火種となりかねない様相だ。全く個別の問題として発生した二つの問題が、根底では深く繋がっているというのは非常に皮肉な状況であるといえる。

 いずれにせよ、今回の野球賭博問題は未だ様々に影響が波及する可能性が残されており、予断を許さない状況にある。これら問題を傍観するしかない我々としては、これ以上の事件の「炎上」がないことを祈りつつ、引き続き注視をしてゆきたいところである。