小林信也(作家、スポーツライター)

 現役プロ野球選手、しかも巨人選手が野球賭博に関わったニュースは衝撃的に伝えられ、大きな関心事となった。

 伝わり方に少し誤解があると感じるので確認しておく。ニュースで過去の『黒い霧事件』が持ち出された関係もあるだろう。黒い霧事件はプロ野球選手が八百長に関与し、賭けの対象となる試合で勝負を操作した事件だ。巨人選手が「八百長に関与した」と勘違いしている人たちが私の周りにもいる。今回は、非合法的な野球賭博に「賭けていた」事件であって、八百長ではない。だから「罪は軽い」と弁護する気はないが、「どうしてそんなことをやったのかねえ」と不思議に感じる人たちが理解するヒントにはなるだろう。「八百長が悪いのはわかっている。でも、賭けるだけならそれほど問題にならないと思った(あるいは、思わされた)」可能性がある。


 十数年前まで、夏の高校野球などは普通に街中で賭けの対象になっていた。甲子園大会の開幕が近づくと、馴染み客の集まる居酒屋やラーメン屋あたりでは、当然のようにそれぞれの方式で賭けが行われていた。試合ごとに一喜一憂し、「誰が当たったか」で盛り上がるのは、むしろ微笑ましい夏の風物のひとつだった。金額の程度はあるにせよ、少額のお金を賭けて交流を深める習慣は、庶民にとっては生活の潤いであり、憩いでもあった。友人たちとゴルフに行って“握る”のも半ば常識だ。パチンコにしても、あうんの呼吸で成り立っているギャンブルのひとつ。日本社会にはそのように黙認された“賭博”が実際あるだけに、今回の当事者たちも最初からこのような大事件になる認識がなかったのではないだろうか。ある時期から少額でも違法だというプロモーションが行われ、ここ数年は高校野球の賭けも姿を消した(地下に潜った)感がある。
野球賭博問題で新たに笠原将生、松本竜也が関与していたことが発覚し、会見に臨む巨人・久保博球団社長(左)と森田清司法務部長=東京・大手町の読売新聞本社 (撮影・山田俊介)
野球賭博問題で新たに笠原将生、松本竜也が関与していたことが発覚し、会見に臨む巨人・久保博球団社長(左)と森田清司法務部長=東京・大手町の読売新聞本社 (撮影・山田俊介)
 社会的にも、その賭けが大がかりで反社会勢力の資金源になっているかどうかが問題視される傾向と同様、野球協約上も、賭けの組織が反社会的勢力かどうか、その点が処分を決める分岐点になるようだ。普段から親しく付き合っている友人が、暴力団とつながりがあるかどうかを確かめる認識は薄かったのではないだろうか。

 事件が発覚した直後、「これで野球くじの導入は難しくなった」、文部科学大臣のコメントが新聞等のメディアに載った。苦虫をかみつぶすような反応。平たく表現すれば、「あいつらのおかげで野球クジ導入がダメになった」という印象だった。世間の空気もそれに呼応し、2020年東京五輪の財源確保のために突然降って湧いた野球クジ導入は白紙に戻った感がある。文科相コメントに突っ込みを入れたメディアは知るかぎりないが、私はひどく滑稽な印象を受けた。

 賭博に手を染めた悪人(巨人選手たち)のせいで、野球クジの導入が暗礁に乗り上げた……。
 野球クジと野球賭博は、法律で認められているかどうか、その収益が反社会勢力の資金源になっているか公的機関の収入になるかの違いはあるが、同じギャンブルに違いない。国が胴元なら健全で、そうでなければ悪なのか?
 プロ野球がクジの対象になることを歓迎しない立場からすれば、今回の事件で野球クジ導入が見送られたら、不幸中の幸いという側面もある。

 野球賭博問題の温床は、野球界の体質、目的設定にあると感じる。
 「暴力団関係者と付き合ってはいけない!」
 「賭博に関わってはいけない!」

 いくらそのような教育をしても、選手たちの趣味、嗜好、普段の価値観やライフスタイルを変えない限り、本質的な改善にはつながらない。