木曽崇(国際カジノ研究所所長)


 さて、連日報道されている読売ジャイアンツ3選手による野球賭博への関与ですが、私もここ数日アチコチのメディアにコメントを求められて通常業務が廻らなくなるなど、地味に影響を受けています。そして、この問題に対する世間の関心は、この疑惑が他球団にも更なる広がりを見せるのか?そして、その先に八百長等の更なる不正行為はあるのか?に移っているように思われます。

 現時点の球団による調査では、疑惑の3選手による暴力団や八百長への関与は何ら判明していません。ただ、特に野球賭博というのは、個人間での実行が多いゴルフ賭博や麻雀賭博などと異なり、背後に一定規模の組織だったグループが存在することが多い賭博です。また、このような違法な野球賭博は容易にその先の八百長行為に発展しがちであり、同様の八百長問題は日本のみならず世界中で問題となっているのが実情です。 

 という事で、本日は世界を取り巻くスポーツ賭博の現状と、その背後にうごめく八百長ネットワークに関して少しご紹介したいと思います。

1. 世界のスポーツ賭博の規模は年々拡大している


 世界のスポーツ賭博の市場規模は年々大きくなっており、合法のスポーツ賭博市場だけでも2007年に4兆8千億円規模であったものが、2012年には5兆8千億円(*1)にまで拡大しています。この拡大スピードは今後、益々大きくなるであろうと言われています。

 一方、スポーツ賭博というのは多くの賭博種の中でも最も背後にある違法なマーケットが大きい業種であるとも言われており、一説にはアメリカ国内だけでも40兆円近い違法なスポーツ賭博市場が存在するなどとする推計もあり(*2)、この発表は世間を驚かせました。さすがにアメリカ一国で40兆円という数字は、個人的には幾らなんでも大きすぎるとは思っているのですが、一方でこのような違法な賭博市場の大部分はマフィア等を初めとする反社会組織の資金源となっているという現実もあります。

2. IT化、グローバル化が急速に進んでいる


 また、近年のスポーツ賭博拡大を象徴するのが、急速なIT化およびグローバル化です。例えば、イギリスなどで合法のものとして運営されてきた伝統的なスポーツ賭博では、ベッティングショップと呼ばれる店舗にプレイヤーが集まり、窓口で投票券を購買する形でその市場が形成されてました。しかし、IT化が進んだ事によりその状況は一変、現在では自宅のPCやスマートフォンから賭博への参加が可能になりました。

 また、購買の中心がオンラインに移行するにつれて、賭けの対象となるスポーツ種のグローバル化も進みます。現在では、自国内で開催されているスポーツ種のみならず、海外で行われているあらゆるスポーツの結果に対して「賭け」が成立するようになっています。そして、そのようなスポーツ賭博のグローバル化が進めば当然の如く、その背後にある「闇」の部分もまたグローバル化します。現在では、世界を股にかけて暗躍する八百長の国際シンジケートなるものが登場するまでに至っています。

3. 世界を震撼させたシンガポールでの八百長シンジケート摘発


 そのような国際的な八百長シンジケートの一端が白日の下にさらされ、世界を震撼させることとなったのが、以前もブログ上でご紹介した事のある欧州警察による国際捜査です。

【日本は体罰柔道、世界は八百長サッカー】 国際スポーツ界の信頼をゆるがす事態に

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7721828.html

 2013年、欧州警察は、世界15カ国で行われた380試合で八百長が行われた可能性があるとして捜査を開始。その結果、イタリアで50名を超える逮捕者が出た他、その他複数の国々で逮捕者が続出しました。この問題は、いまだ警察の捜査が継続している「現在進行形」の問題であり、未だサッカー界では大きな騒動が続いています。

4. 日本にとっても「対岸の火事」ではない


 そして、このような国際的な八百長シンジケートの広がりは、日本のスポーツ界にとっても「対岸の火事」ではありません。現在起こっているスポーツ賭博のIT化およびグローバル化の元では、日本の各種スポーツの国内試合でさえも、すでに諸外国のスポーツ賭博サイトなどにおいて賭けの対象として扱われているわけです。

 例えば、昨日行われたヤクルト対ホークスの日本シリーズ第二戦に対しても、以下のように海外における多くのオンライン・スポーツ賭博サイトにおいて賭けが成立しています。
 だとすると、当然ながらこれらに介入しようとする存在もいるワケで、スポーツ賭博の合法化されていない日本においても、他国と同様に八百長シンジケートのターゲットとして常に晒されている状態にあると考えるべきなのです。

5. サッカー界の八百長対応


 このような国際的な八百長シンジケートの暗躍に対して、少なくともサッカー業界は一定の対処を行っています。実は、FIFAは、その子会社組織として世界のサッカーの試合を対象とした監視機関、FIFA EWS社を組織しており、各国でのサッカーの試合における八百長の発生を監視しています。これは、世界各国のスポーツ賭博で行われているサッカーの試合の「オッズ」を常時監視するもので、オッズに八百長が関与した可能性を臭わせる不規則な変動が出た場合に、当該試合の主催者に「警告」を送るものです。

 我が国のJリーグも2011年からこのFIFA EWS社と契約を結んでおり、昨年には初の「八百長の疑いあり」とする警告レポートをFIFAから受け取る事となりました。以下は、当時、私が書いたエントリです。

Jリーグに八百長試合の疑い: 調査結果はとりあえず「シロ」

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8297920.html

 上記の警告を受け取った直後からJリーグは独自調査を実施、その後「八百長の可能性が疑われた試合には、不正は認められなかった」との結論を出し、本警告は幸いにも杞憂に終わりました。しかし、少なくともサッカー界に関しては国際的な枠組みの中で八百長への対処を行っている。それでも前出のような大規模八百長事件の発覚が後を絶たないのであって、スポーツ競技と八百長の関係が如何に根強いかがそこに伺えると言えます。

5. 今、日本で最も危ないのは野球界


 野球界はFIFAのような強い世界の競技統括団体の存在がなく、サッカーと比べると圧倒的に八百長に対する国際的な取り組みが遅れているのが現状です。では、国内の統括団体がそれに適切に対処しているかというと、基本的に各球団内の選手教育にその対策が預けられているのみ。読売ジャイアンツは毎年の若手選手向けのセミナーにて、野球賭博や八百長に関する教育を行っていたとしていますが、実態としてそれがどこまで実効性のあるものとして行われていたのか。。今回の球団内の騒動を見る限りは、それが適切に機能していたとはとても言えない状況にあります。

 また、これは国際的なスポーツ賭博とは別の切り口となりますが、今回ジャイアンツの3選手が関わったとされる我が国の違法な野球賭博では、日本のプロ野球のみならず、高校野球の全国大会なども賭けの対象として大々的に扱っていることが知られています。と、するのならば、当然ながらプロのみならず、高校野球にも「好ましからぬ存在」から八百長が持ちかけられる可能性がある。高校球児たちにそのような違法な存在が直接アプローチするなどは論外ですが、例えば監督やコーチなどの意思決定に介入を行いなどというケースが容易に起こり得るといえましょう。

 いずれにせよ、今、日本において最も八百長リスクの高いスポーツは野球界であることは間違いなく、今回の事件の発覚を機に業界全体で何らかの対処を行う必要が出てくるものと思われます。

*1: 出所:"sports betting: commercial and integrity issues," European Gaming &Betting Association
*2: 出所:"Is Illegal Sports Betting a $400 Billion Industry?"

※「カジノ合法化に関する100の質問」2015年10月26日記事を転載しました。