笹沼弘志(静岡大学教授)

 「SEALDsは自分の恋人を守らないのか」という問いかけを受けたときに、正直言って当惑した。それはどう答えたら良いのかわからないというのではなく、問いとして成立していないように思われたからだ。なぜなら、SEALDsの主張「集団的自衛権はいらない」「憲法守れ」と「自分の恋人を守る」ということとの間には何の齟齬も緊張関係もあり得ないからだ。憲法9条を守り、集団的自衛権を否定したとしても、暴漢から自分の恋人を守ることは可能だし、そうすべきだろう。そうしたとしても、憲法にもいかなる法律にも違反することはない。

 暴漢が自分の恋人に襲いかかってきたとき、この暴漢を撃退し、ケガを負わせても刑法36条の正当防衛であって刑事罰を加えられることはない。たとえ、暴漢が素手で殴りかかってきたのに対して回し蹴りをして大けがをさせてしまったとしても、「防衛の程度を超えた行為」、つまり攻撃を排除するためにやむを得ない必要最小限度の措置を超える行為であったしても、刑罰を減軽されたり、免除されたりする(刑法36条2項過剰防衛)。また、正当防衛が認められれば民法上も損害賠償などの責任を負わされることはない(民法720条1項)。従って、法に従って自分の恋人を守れるのは当然のことであって、なんの問題もない。

 問題が残るとすれば、SEALDsの若者たちに自分の恋人を守る勇気があるのか否かということだけであろう。これについては、彼らをよく知らないので断定的なことは言えないが、ネットやテレビ、あるいは国会前などで彼らを見て、わたしが知っている限りにおいていえば、彼らが非常に勇気ある若者であることは明白であるように思われる。公然と名前と顔をさらして、国会前で、現職の総理大臣を名指しで批判し、「憲法守れ」、「安倍は辞めろ」と叫び続けてきたのだから、彼らの勇気は誰も否定しようがないだろう。ネットなどではデモに行くだけで就職できないといったデマが流されているようだが、彼らはそれにも負けずにデモに参加し続けてきた。また、SEALDsの主要メンバーの奥田愛基君に対して殺害を予告する脅迫が行われたが、それによっても彼はいささかもひるまず活動を続けている。そうした彼らであれば、暴漢から恋人を守る勇気を遺憾なく発揮するであろう。

 以上の通り、SEALDsの若者たちは、彼らの主張や行動からみれば、「自分の恋人を守る」であろうし、そうすることに彼ら自身の主張との矛盾は一切ないことが明らかである。

 むしろ、いま問われるべきなのは、次のような問いである。

 「安倍晋三日本国総理大臣は自衛官や国民を守るのか?」
 
参院平和安全法制特別委員会で質問に答える安倍晋三首相=2015年9月11日(酒巻俊介撮影)
 先の通常国会で制定されたものとされている安保関連法について、このような問いが問われるべきだろう。国会審議の際も、それが終局させられた今も、なお集団的自衛権について、いついかなるときに、どの程度の武力行使をするのかということがほとんど明らかにされていない。いつするのか。それはわが国が攻撃されていないにも関わらず、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」(改正自衛隊法76条1項2号)ときだという。それははたしていつか。武力行使の要件として、改正自衛隊法95条の2においては、攻撃を受けている当の他国の要請が必要であるとされているが、要請がないときには行使ができないということになるのか。国会承認はやはり事前に必要なのか。いつなのかがはっきりしない。またどの程度の武力行使が容認されるのか、何が必要最小限度の措置なのかもはっきりしない。必要最小限度の措置というものは「存立危機事態」の程度、攻撃の程度に依存する。他国への攻撃とわが国及び国民への脅威を排除する程度の武力行使とはいかなるものでありどの程度のものなのか。排除すべき攻撃や「存立危機事態」が明らかではないから、どの程度かもはっきりしない。

 結局、いつどの程度の武力行使をすべきかが一切明確にされていないのである。しかも、武力行使をする地理的限定が外されている。従来の政府解釈及び安保法制においての如く、わが国への武力攻撃を排除するための必要最小限度の防衛措置というのであれば、場所も、程度も、時もはっきりしている。つまり、自衛官にとっては、いつ、どこで、どの程度自分が危険に曝されるのかはっきりしていたのである。しかし、いまはこうした時、場所、程度の制約はほとんどはずされてしまい、内閣総理大臣の腹一つで自衛官は命を賭けねばならないことになった。はたして、安倍総理は自衛官を守れるのだろうか。

 例えばいま中東で、アメリカ軍がイスラム国と戦っている。その後方支援を日本の自衛隊が行えば、いつ自衛官が反撃されるか分からない。おそらく、イスラム国は徹底してジハードを仕掛けてくるだろう。自衛官に対してだけではない。世界各地で危機的状況にある人びとに対する支援活動を行っている日本人も標的にされる危険がある。実際に、バングラデシュで日本人が十字軍の一員として攻撃の対象とされた。あるいは、支援活動をしている国境なき医師団をアメリカ軍が爆撃したように、自衛隊が日本人を誤爆する危険もある。

 「はたして安倍総理は日本国民を守れるのか」。

 この問いについて考えるとき、すぐさま否定的回答をなさざるを得ない事実をわれわれは既に知っている。イスラム国に湯川遥菜さんと後藤健二さんが拉致され、身代金などを要求されたとき、安倍総理はテロに屈しないとしながら、なすすべもなく二人を殺させてしまった。安倍総理は、二人の国民をまったく守れなかったのである。というだけでなく、むしろ守る意思すらなかったのではないかと疑われる。後藤さんがイスラム国に拉致され、身代金を支払わねば殺すぞと脅されている事実を知りながら、家族に援助の手をさしのべるどころか全て家族任せにして、しかも、エジプトや中東諸国を歴訪して、イスラム国と闘う有志連合の一員としてイスラム国と闘う国に資金援助を行うと明言したのである。この演説は、イスラム国にとっては宣戦布告と感じられたであろう。だからこそ彼らは態度を硬化させ、ついには二人が処刑されてしまったのである。安倍総理はこれに対して何もできなかった。むしろ、少なくとも後藤さんについては家族が救出のために身代金を集めていたのに、それを台無しにさせてしまったのである。

 いま問うべきなのは、SEALDsの若者たちにそもそも恋人がいるのか否かといった下世話な話しではなく、日本国の内閣総理大臣が日本国民を守れるのか否かという深刻な問いである。