「すべての女性が輝く社会づくり」って言われてもねえ。すべての女性が輝きたいわけじゃないし、そもそも輝くって何だよって話だ。おまけに「一億総活躍社会」って。輝いて活躍しなきゃいけないのか。LED電球かよ。キツイなぁ。

 ここ最近のNHK大河ドラマも、これと同じニオイがする。女を主人公に据えるだけならいいのだが、やたら暗躍させようと躍起になっている印象がある。歴史上有名とは言い切れない女たちを、さも能力を発揮したかのように描かなかければいけない、謎の「大河縛り」。しかも清廉潔白、清く正しく美しく、とな。

 その生贄となったのは、間違いなく綾瀬はるかと井上真央だ。綾瀬主演「八重の桜」ではNHKが福島復興への熱い思いを託したものの、一般視聴者にはさらっと流されてしまった。「男まさり・女だてら」をキーワードに、わかりやすく鉄砲撃ちゃいいってもんじゃないと思うのだが。

4月20日、「花燃ゆ」の試写会に出席した主演の井上真央は苦戦中の
視聴率について「主演である以上、私の力不足」と責任を口にした
 そして、沈黙に近い静けさを持って現在も放映中の「花燃ゆ」。兄・吉田松陰に感化され、政治に首をつっこむ妹キャラの井上は、「大河ドラマ終焉」の主犯格とされてしまったようだ。

 さんざんディスってきた割に、今さら肩を持つのもなんだが、「花燃ゆ」は決して井上が悪いわけではないと思う(今も観続けてるのよ、ずっと)。なんだかんだと流されて臨機応変に生きてきた女の一生とも言えるのだが、その魅力が活かされない描き方なのである。井上演じる久坂美和の半生(現段階まで)を超短縮版で振り返ってみよう。

 まず初恋の相手(大沢たかお)を姉に奪われ、義妹という立ち位置になる。そして家族にさんざん迷惑をかける兄(伊勢谷友介)の暑苦しい理想論に感化され、その中でもさらに暑苦しい男(東出昌大)とうっかり恋に落ち、婚姻。ところが夫は勢い余って京都に乗り込み、なぜか芸妓に手を出し、子供まで作っちゃった挙句、後輩の男と自害。

 夫の死後は大奥に入り込んでうまいこと乳母(守役)に昇格するも、時代の流れで大奥システム崩壊。せっかく居場所を見つけたのに、ふりだしに戻る。

 お家存続のため、芸妓の子供を引き取ろうにもうまくいかず。姉の子供を養子にしようもまったく懐かず。踏んだり蹴ったりの人生。さらには病弱な姉と義兄に付き添って、群馬くんだりまでお供に。しかし群馬においても女中扱いで、クソ真面目な義兄の小間使いに徹する。ここまで「主体性」がない女の人生って、なかなかに過酷だ。

 激動の時代、バラエティに富んだ不運かつ数奇な人生、普通は面白くなるはずなのに。妹キャラ設定かつ大河縛りで、井上が負の感情を吐露することもほとんどなく、パッとしないまま宙ぶらりんな存在に。せっかくの不幸エピソードもちっとも活きてこない。視聴者は心を奪われないまま、時が過ぎて、今に至る……。

 女主人公をたてるのであれば、心の内面をより細かに描くほうがいいのではないか。すべての女がそうではないが、少なくとも男よりは感情豊かで、心の機微に敏感で、意地も悪けりゃ、心根も図太く逞しい。こんなに長所と短所がたくさんある、素晴らしく困った生き物なのに、画一的に「出しゃばらない妹キャラ」に押し込めてしまうのは非常にもったいない。

 どんなに献身的な女であっても、その生き様の陰には無数の打算と妥協が働いているはず。そういう利己性と生臭さをもうちょっと観たいんだけどな。

 そういえば池田秀一のナレーションで多いのは「その頃」という言葉だ。歴史の流れに沿って物語を進めなきゃ、と史実の整合を追うのに必死。極めて叙事的。

 大河とはいえ、もっと叙情的でもいいのでは? 女主人公にするならなおのこと、叙情的のほうがいいのではないか。といってもイケメン使ってキャッキャ騒げ、という意味ではない。限られた条件の中でも主体性をもって生きてきた女が、いかに取捨選択と決断をしてきたのか。その心の情景を映し出してほしいのだ。

 再来年は柴咲コウ主演で、井伊直虎ときた。そうきたか。相変わらずの「男勝り・女だてら」路線を貫くのね。

 そろそろ大河も大きな変革を必要としているのではないか。朝ドラ人気に圧されっぱなしだし、1年間という長期間拘束によって、主演俳優は疲弊困憊。低視聴率を記録しようものなら、未来永劫叩かれまくり。個人的には、他局に不可能な「大河システム」を存続してほしいと思うが、構造改革も必要なのかもしれない。

 ひとつ、超私的趣味からの提案をしよう。もう戦国時代や幕末に飽きた。武将も姫も食傷気味。壮大な戦乱シーンもどうせ作れないし、見事な殺陣もほぼ皆無。だったら、もっと違う人物を主人公にしてはどうか。

 公平を期する皆様のNHKに対して、荒唐無稽な意見と承知で書く。大河で観てみたいと思うのは空海。弘法大師である。多くの作家が空海を描いているし、私のような無知でも「温泉・高野山・衆道」の魅力的なキーワードが浮かぶ。真言宗一派がダメなら、最澄とW主演で。主演は、染谷将太か菅田将暉でどうか。

 あるいは浮世絵師。類まれなる社会不適応っぷりと、権力に屈さない気骨で1年間もたせるのはキツイかもしれないけれど。たとえば、人材豊富な歌川国芳一門を描くとか。もれなく河鍋暁斎や月岡芳年もついてくる。

 歴史はほんの一握りの権力者が作っているのではない。市井の人や反権力の人もアリではないだろうか。

 あ、浮世絵師が主人公のドラマだったら、海外に輸出できるビッグコンテンツになるかもよ。あの人たち、浮世絵と春画、大好きだし。