藤本貴之(東洋大学 准教授・博士[学術]/メディア学者)

メディアゴンより転載)

 1220億円とも言われる2015年の日本のハロウィーン市場。飛躍的な伸びを見せるのは経済効果だけでない。季節の行事としてもこれまでにない盛り上がりを見せている。

 30代以上の世代からすれば、「いつの間にこんなに盛り上がるようになったの?」と不思議になる人は少なくないだろう。感覚的には、ここ3〜4年で大衆的な「季節のイベント」として定着し、この1〜2年での急速な拡大でクリスマスに迫る盛り上がりになっているように思える。

 日本でのハロウィーンの商業上陸は、東京ディズニーランドが1997年10月31日に開催した仮装イベント「ディズニー・ハッピーハロウィーン」が最初期と言われる。日本でも20年近い歴史を持つが、このわずか数年で急激な大衆化を果たした要因はどこにあるのだろうか。

 もちろん、ディズニーランドでのイベントの成功だけが、日本のハロウィーンを定着させた要因ではない。近年の定着・盛り上がりの背景には、業界を超えた日本の「グローバル化ブーム」の存在が無視できない。

 例えば、2010年にユニクロや楽天といった大手企業における英語の社内公用語化が話題となった時期、小学校5・6年生での英語学習の必修化がなされた時期(2011年)ともハロウィーンの定着時期は重なる。

 その時期と同じくする2010年頃から、テレビを中心としたメディアでは「ハーフタレントブーム」が始まっている。メディアにはハーフ系の日本人離れした美男美女が目白押しだ。若者層の憧れの中心に置かれたハーフたち。「ハーフ顔メイク」がトレンドになるなど「欧風感覚への憧れ」の流れは今も続いている。
仮装して渋谷の街を練り歩く人々=10月31日午後、東京都渋谷区(古厩正樹撮影)
仮装して渋谷の街を練り歩く人々=10月31日午後、東京都渋谷区(古厩正樹撮影)
 また、こういった潮流と合わせるように、安価で手軽に「欧風感覚への憧れ」を充足できる欧米資本の安価な雑貨量販店(ファスト雑貨)、アパレル(ファストファッション)などが多数上陸し、急速に普及した。

 2006年に船橋店から日本に上陸したスウェーデン発祥の家具・雑貨販売店「IKEA」が2008年には全国展開を開始。同じ頃の2008〜2009年には「H&M」、「Forever21」といったファストファッションが上陸し、急速に定着している。

 家具や雑貨・衣料品などを中心とした「舶来の文化」は、従来の日本人の感覚からすれば「ある程度お金がかかるもの」であったり「あまり身近ではないもの」であった。しかしこの時期に、「憧れの欧風文化」と「安価・手軽」という本来背反していた2つの融合が大きなポイントであるように思う。

 欧風のおしゃれ感を手軽に堪能できるファスト雑貨店は、その上陸直後からハロウィーン関連の商品も多数販売してきた。結果として、若者たちの安価な消費生活が、身近な行事としてのハロウィーンの浸透に与えた影響は決して小さくないだろう。

 このような現象が進んだ2007年前後の時期に中学・高校時代を過ごした層は、現在25歳前後の世代。この世代が現在の日本のハロウィーンの盛り上がりを支えている、いわば「ハロウィーン第一世代」だ。

 この「ハロウィーン第一世代」の特徴は、今日のような盛り上がりではないまでも、小さい頃からハロウーンを認識してきた世代である。少なくとも、スーパーや雑貨店などでの、この時期にハロウィーンの装飾やグッズを目にしてきている。これは30代以上との明確な違いだろう。

 加えて、SNSによる情報交流が携帯電話以上に重要化・日常化した世代でもある。連絡手段はもとより、あらゆる情報授受やコミュニケーションはSNSを介して行ってきた。

 さらに言えば、初めて持った携帯電話がスマホだったり、ガラケーよりもスマホの方が馴染みのあるという、いわば「スマホ・ネイティブ」な世代でもある。SNSやスマホを社会人になってから手にし、意識的に積極利用してきた30代以上の世代との大きな違いでもあるだろう。

 このように、日本社会における広い意味での「グローバル化ブーム」を背景に急速な定着を遂げた日本のハロウィーン。一部、中高年からの違和感を持たれつつも、圧倒的な盛り上がりに至っているもう一つの理由、若者たちにとって「都合が良いイベント」である、という側面だ。

 完全に日本化してしまったクリスマスに比べ、上陸して日の浅いハロウィーンは、まだまだ特別だ。仮装し、参加することで、特別感覚は味わえるし、凝ったコスプレでちょっとした注目も集めることができる。仮装して街に繰り出すことで、見ず知らず同士でも、盛り上がりが共有でき、初対面とは思えない親近感を持つことも可能だ。

 仮装用品などは、欧米資本のファスト雑貨店で小洒落たアイテムが安価に入手できる。学芸会の仮装のような手作り感のない、完成度の高いコスプレが誰でもできる。

 もちろん、仮装さえしていれば、初対面同士でもSNSのアカウントなどを交換するなど、個人情報を開示することなく交流を図れるし、ゆるやかなつながりも維持できる。それは結果的に「ネット友達」の拡大というささやかな自己満足、自己顕示欲も満たしてくれる。

 仮装して盛り上がる姿は、すぐさまSNSで共有され、「お友達」の共感やコメントを受け付けることで、2度3度と楽しめる。もちろん「リア充」アピールにもなる。それが呼び水になって、「リア充」を体感したいさらなる参加者を誘発する。初対面同士でも「後で写真をSNSにUPするね!」という口実を使えば、SNSの関係を構築するきっかけづくりも容易だ。

 このように、ハロウィーンとは、現在の若者のライフスタイルに合致しつつも、若者層の世代の嗜好性や欲求を簡単に充足させることのできる、「都合の良いイベント」になっているのである。

 現在のハロウィーンを牽引する「ハロウィーン第一世代」は、これから子供を育ててゆく世代だ。その子供達以下の世代にとっては、ハロウィーンは、クリスマス並みに「当たり前」の行事になってゆくだろう。