女優川島なお美さんが受けたがん医療のあり方が議論を呼んでいる。

 彼女は人間ドックで肝内胆管癌と診断され、腹腔鏡手術を受けたが再発。その後、抗がん剤や放射線治療を受けず、ビタミンC大量投与や電磁波療法などの民間療法を受け、最終的に診断から二年後に亡くなった。

大阪コレクションに金のドレスで登場した川島なお美さん=2008年
7月16日、大阪市北区
 私は、彼女の受けた治療は合理的だったと思う。彼女が自分で考え、自分で選択した、彼女らしい闘病だったのではなかろうか。

 彼女の治療についての論点はがん検診、治療、そして民間療法の三つだ。何れも、がん治療を受ける上で重要な問題だ。

 まずは、がん検診の有効性だ。彼女のようにがん検診を受けて早期診断されても、助からなければ、がん検診の意義はないという意見がある。

 私は胆管癌については、概ね、その通りだと思う。一般的に予後が悪い癌、つまり進行が早い癌は、検診でどんなに早く見つけても、その時には既に転移していることが多い。診断しても、心理的なストレスを与えるだけで予後を改善しない可能性が高い。

 この状況は、検診が推奨されている子宮頸がんや大腸癌とは対照的だ。このような癌では、前癌病変から進行がんへの移行に時間がかかるため、検診で早期診断する意義は大きい。

 川島さんの場合、胆管癌は人間ドックで偶然見つかった。折角、検診を受けたのに、治癒が難しい癌が見つかってしまった。彼女にとっては「死刑宣告」に近かったかもしれない。がん検診は、時に「藪蛇」になる。我々は、がん検診のこのような陰の側面についても、十分に認識しなければならない。

 では、偶然見つかった予後不良の癌には、どのように対応すればいいだろう。色んな考え方があると思う。何もしない方がいいと考える医師がいても不思議ではない。

 確かに、彼女の経過を見れば、手術を受けない方が良かったとも言えるかもしれない。治癒の期待が低いのに、手術の侵襲に苦しんだからだ。

 一方で、胆管がん患者の一部は長期生存する。ごく稀に治癒する患者もいる。全身を検査して、転移病巣がないことを確認したら、外科手術を選択せずにいれるだろうか。

 私は、極めて難しいと思う。同じような境遇になったら、私も手術を選ぶ。川島なお美さんの選択は、ごく自然だ。

 では、その際、どのような手術を選択するかだ。術式として、開腹手術と腹腔鏡手術がある。効果に大きな差はないが、前者の方が侵襲は大きく、皮膚に手術痕が残る。一方、後者は、侵襲は少ないが、一定の確率で事故を起こす。そして時に死亡する。群馬大学や千葉県がんセンターで問題となった事例だ。

 両者はリスクとベネフィットがトレード・オフの関係にある。最終的には患者が自ら決めるしかない。

 彼女は腹腔鏡手術を選択した。これは彼女が女優だったからだろう。手術を受けたとき、当然、完治を考えていたはずだ。今後も女優として活動する。彼女は『失楽園』などでベッドシーンも演じてきた。体にメスを入れるのは最小限にしたかったのだろう。そう考えれば、彼女が多少のリスクを冒してでも腹腔鏡を選択したのは合理的だ。主治医も、その意向を尊重したのだろう。

 さらに、彼女が合理的だったのが、再発してからの対応だ。一部の方は民間療法に走ったことを批判するが、私はその意見に与さない。

 再発した胆管癌は治癒しない。残された時間も少ない。ごく一部の患者で抗がん剤が効くことがあるが、基本的には無効だ。それなのに脱毛などの副作用を伴う。私が患者なら、緩和医療の一環としての放射線治療は兎も角、抗がん剤治療は受けたくない。

 一方でビタミンCや電磁波には「副作用」はない。勿論、効果も期待できないが、精神的な救いを求め、民間療法を受ける人がいても不思議ではない。

 私の経験から言っても、治癒の可能性がなくなった進行がんの患者は、しばしば何かに救いを求める。それが宗教であることも、民間療法であることもある。現在の医療は、このような患者ニーズに対応できていないし、このような行為を「エビデンスがない」と言って批判するのも大人げない。終末期の段階で、彼女は民間療法に救いを求めた。そして、それを支えに、最後まで彼女らしく生き抜いた。

 このように考えると、川島なお美さんは、彼女の価値観が最優先された素晴らしいものだったと思う。それには夫君をはじめ、ご家族の献身的な支えもあっただろうが、「女優として生き抜きたい」という彼女の強い意志を反映したものだったのではなかろうか。自分で考え、自分で決めた素晴らしい闘病生活だったと思う。ご冥福をお祈りしたい。